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 ガラガラという車輪の音で、俺は目を覚ました。

「移動……してる?」
 俺は顔だけを持ち上げて、周りを確認した。どうやら俺は荷馬車に乗っているようだ。荷台には、真っ青のアレクとミアムスがいる。

「おはようございます。ここまでくればもう、大丈夫です」
「だい、じょうぶ?」

「はい。アレク様の領地内に入りましたので、堂々と道を歩いて帰れます」
「ああ。だから荷馬車が……」

「ええ。ただ……」
 言いにくそうにミアムスが口を閉じて、アレクを見やった。

『俺は大丈夫だ』
『冷や汗をかいています』

「寒いのか?」
 俺は身体を起こして、アレクの身体に触れる。ヒヤリと冷たくて、驚いた。思わずぎゅうっと抱きしめていた。

『ウイル、何をして……』
『寒いのか? と聞いていました』

『ああ。悪寒が酷い。数刻前までは熱かったのに』

「少し前は熱かったけど、今は寒いと」
「なら俺の体温をやる。抱きしめてるから」

『体温をあげる、と。抱きしめているから……と言っています』
『ありがとう』

 アレクが俺の背中に手を回してぎゅうっと抱きしめてくれた。
 無理をさせてしまったんだ。

 俺がいなければ、きっと姿を隠して逃げるのだって楽だっただろうに。
 そもそも、奴隷だった俺らが逃げたして、大騒ぎにしてしまったのがいけなかったんだ。

 アレクの領地ってことは……こいつは、ここでは一番、えらい奴なんだろ?

 そんなすごい奴を……俺は……。

「二人とも少しお休みください。もうここは安全ですから」

『アレク様も、城までお休みになってください』
『ああ。少しだけ……寝かせてもらう』

 アレクが俺の頬にキスをすると、目を閉じた。すぐに寝息が聞こえると、ぐっと俺のほうに体重がかかった。
 お……重い。


     ◇◇◇


『んじゃ、このガキはあああ』
 耳のツンザクのような大声と、首が苦しくが俺は目を見開いた。

 次の瞬間にお尻に痛みが入り、身体がぐるっと一回転する。手枷、足枷がついたままで、俺は地面に転がったようだ。

「……ったあ」

『小汚ねえガキが、荷馬車に紛れ込んでんじゃねえよ。ああ? どっかから逃げてきたのかあ?』
 何を言っているかわからないが、あまりいい状況でないのはわかる。

 見たことない大男が地面に転がった俺の頭に足を乗っけてぐいぐいと押し付けてきた。

 さいあく……。
 また泥まみれだ。
 足と腹はカピカピになった精液がついたままだし。

『どこから逃げてきたんだあ? 奴隷のガキがあ』
『その子はアレク様が助けた子だ。手荒に扱うのは反逆に値する』

 小屋にいたときに窓に立っていた無口な男が、スッとナイフで俺を踏みつけている大男の首筋に刃を這わせた。

『ひっ! フィアジル様』
『いいか? 覚えておけ。彼はアレク様の大事な人だ。手荒に扱うことを禁じる』

 大男が俺から離れると、小走りでその場を離れていった。

「大丈夫か……えっと、ウイルといったか」
「言葉……」

「あの場にいて、話せないのはアレク様くらいだ。我々はアレク様にお仕えする身として一通りの教養は学んでいる」
 膝をついて細身の体の男が、俺の身体を支えながら抱き起してくれた。

「私はフィアジル。ミアはアレク様に付き添っている。お前には俺がつく。まずは鍵師のもとにいき、錠を外す。それから湯あみする。身支度を整えてから、城内に入る。でなければ……城の中に、はいれない。さっきのヤツのように勘違いされ、もっとひどい目にあうからな」

「わ、わかりました」
「わかればいい。ついてこい」

 俺はぐいっとフィアジルに腕を掴まれると、引っ張られるように歩き出した。
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