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『我々の言葉を理解していない。どこの国の言葉なら通じる? カイブ語か、スコッツ語か……ギール語か?』
『容姿、骨格等からいえばギールかもしれませんね。ていうか、アレク様、ギール語勉強してませんよね?』

『黙れ。少しはわかる』
『すぐ強がる』

 短剣二本を持っていた若者のほうが、剣を腰に差して俺に近づいてくる。

「にげ、るな。まも、る」
 逃げるな。守る?

 俺はさらに後ろに足を出そうとしているのを止めた。

『どうやら通じたみたいですね。ギール語が主な言語なのでしょう』
『なら、お前が話せ! ミアの母国だろ』

「私はミアムスだ。彼はアレク。ここは危険だから、場所を移動したい。いいかな?」
「ついていっていいの?」

 喉から発せられる甲高い己の声に慣れない。もっと野太い声だった。

「ここよりは安全。こいつらよりは紳士に君を扱えると思う。ただ命の保証はできない。こちらも追われてる身なので。ただアレク様が君を連れていくと言っている以上は、君を我々は守る」

 ミアムスが手を差し出してくれる。

 俺はその手を掴もうとすると、バシッと叩かれるようにアレクと呼ばれいた男に掴まれた。

 え? なんで?

『アレク様? 何してるんです?』
『こいつに触っていいのは、俺だけだ』
『はいはい』

「彼と一緒に馬に乗って。隠れ家まで連れて行こう」

 さっきまでごつい男たちが乗っていた馬に、アレクがひょいっと跨った。俺にむかって、大きな手が差し出される。ニッと笑う姿がたくましい男性で、俺は思わず視線をそらした。

 ミアムスが俺の前で足をついてくるから驚いた。

 何をしようとしているんだ?

「どうぞ足をのせてください」
「でも」

「いいんです。早くしないと、アレク様のご機嫌が悪くなりますので」
 ちらっと横目でアレクを見ると、ムスッとしていた。

 さっきは俺に笑いかけていたのに。今は怒ってる?

 俺はアレクの手を取り、ミアムスの膝に足を乗っけて馬に乗ろうとするとぐいっと引き上げられた。

女のように横据わりになる。足枷の関係上、跨げないから仕方ないのかもしれないが。すっぽりと、アレクの腕の中に入ってしまう華奢な身体が、俺の記憶している身体と違いすぎてげんなりした。

「俺、泥だらけで……この人の服を汚しちまう!」
 馬に乗ろうとしているミアムスに声をかける。

「大丈夫です。この方はそんな小さいことは気にしませんから」

『おい! ミア、なんて言ってるんだ』
『彼の服が汚れてて、アレク様のお洋服を汚してしまうって気にしてるんです』

『そんなの気にしないが』
『そう伝えました。いちいち機嫌悪くならないでください。そもそも、きちんと勉強していれば、話せてたんですよ? 彼と!』

『さっさと小屋に向かう。フィアとラトが待ってる』
『外が騒がしいって飛び出したのはそっちでしょうが』

『なんだ?』
『はいはい、戻りますよぉ』

 二人の会話が途切れると、アレクが馬の腹を蹴って走り出した。ミアムスは、もう一頭の馬の手綱も掴んで走り出した。
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