復讐と恋心

ひなた翠

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「したわよ。でもさっきの人に『殺すなら僕を殺してから』って言われた」
「総司らしい。芹沢さんは強いから……。桔梗ちゃんを死なせたくなかったんだね」

「死ぬことなんて怖くないわ」
「それは死の直前を見たことがないからだよ」

(見たわよ!)

 桔梗は振り返ると、あぐらをかいて自分のことを見ている近藤を睨む。

「全身に火傷をしたわ。一生消えることのない火傷を。あのとき私は死んだの」
「なら、どうして今ここに君が見えるのかな?」

 燃え盛る家を見て、飛び込んだ。
 誰かを助けられるかも知れない、そう思ったから。

 でも誰も生きてなかった。
 床には大量の血。

 そして目を開けて苦しそうに倒れている家族や番頭。
 皆、ここで死ぬのなら……そう思って外に逃げることをあえてしなかった。

 そこに必死な顔をして近藤が飛び込んできた。
 桔梗の着物に火が燃えうつり、身体が炎に包まれていく。

『一緒に死なせて』と、意識が朦朧としながら叫ぶ自分を抱きかかえて、外に連れ出し、近くの池に飛び込んでくれた。

「私は芹沢に復讐をしたいの」
「君には幸せになってもらいたい」

「幸せになんかになれない。こんな身体を誰も愛してくれない。こんな気持ちの悪い火傷のあと……見ながら抱ける男なんていないわ」
 体中にある火傷を思い出す。

 誰にも見せたことの無い傷跡。
 桔梗は自分の手をギュッと握り締める。
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