復讐と恋心

ひなた翠

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(心配……)
 彼は本当に良い人だった。

 でも、芹沢と同じ新撰組。気を許すことは出来ない。

 許してはいけないと、心に誓った。
 そして彼への恋心も捨てた。

「僕も何度か、貴女を屯所で見かけたことがあります。いつも大きな荷物を持って近藤さんのところに来ていた。あの焼き討ちにあった日も……」
 桔梗の指が、ピクリと反応をする。

 そうだ。
 あの日も、近藤に頼まれていた服を持って、屯所に行っていた。

 彼に呼び止められ、ほつれていた隊服を何枚かその場でなおした。帰ろうとする自分を何度も呼び止めては、何かしらの縫い物を差し出した。

『すぐになおして欲しいんだ』と言って。

(もしかして)

「知っていたの? あの日、家が焼かれることを……貴方も近藤さんも?」
「ええ。芹沢先生を止めることは僕たちには出来ませんが、貴女の命だけは助けたい。そう近藤さんは言っていました」

「何よ、それ!」
 桔梗は立ち上がると、部屋を出て行こうとする。

(確かめたい)

 彼に会ってあの日のことを確かめたい。
 強くそう思うと、じっとしていられなくなった。

「どこに?」
「確認しに行くのよ」

「誰に?」
「近藤さんに!」

 桔梗は部屋を飛び出すと、誰の呼びかけにも答えずに走り出していた。
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