愛とは。恋とは。

ひなた翠

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「検査では何もなかったんだろ?」
「ああ。だからって油断はできない」
「眩暈は貧血だって」

「明夏、好きなんだ……どうしようもなく、明夏を……愛してる。感情を押し殺すことが出来ないんだ、どうしても……。こんなの初めてで……怖くて、不安なんだ。顔色が良くなってホッとしたのに、すぐに目の前で倒れていく明夏を見たくない」
「……え?」
(感情を押し殺すってなに? どういうこと?)

「ああー、ここで愛の告白とは……ナイデショ、冬夜……ってば」
 横から呆れた声がして、顔を動かすと明夏の鞄を手に持っている南野が呆れた顔で立っていた。

「南野……?」と明夏が口を動かすと、瞬きをした東雲がゆっくりと横に顔を動かした。

「春実、授業は?」
「終わったから、鞄を届けにきたの。おじさんに電話したら、まだ病院にいるって言ってたから」

「……そうか、悪い」
「いいよ、別に。雪ちゃんが、『冬夜くんの様子がおかしくて』なんて言うから。心配してきてみれば……」
(雪ちゃん?)

 南野が明夏の隣の椅子に座ると、足を組んだ。

 可愛いイメージの南野が、びっくりするくらいワイルドに見えてしまうのはどうしてだろうか。足を組んで、襟足をガシガシと掻いているからだろうか。

「体育のときの西森を見て、なんにも冬夜が説明してないのがわかったから。参ったよ。それで付き合ってるって……本気で言っているの?」
「言ってるが?」

 東雲と南野が数秒間、見つめ合ってからフッと南野のほうが口を緩めて笑い出した。

「西森、俺から説明するよ。冬夜に任せてたら、いつまでたってもその……眩暈が改善されないだろうから」
「春実にはわかる……のか、原因が?」

「冬夜、ちょっと黙ってて。今、俺は西森と話してるから」
(眩暈の原因……)

 言葉を遮られた東雲が「ぐっ」と言葉を飲み込むと、隣の列の長椅子に腰を下ろした。

 黙ったまま、こちらを見つめているのは、南野の話を聞こうとしているのだろう。明夏も南野の顔を見ると、にこっといつもの可愛い笑顔を見せた。

「間違ってたら言って。俺の想像では、西森は俺と冬夜が同棲してて、さらに婚約者がいるって思ってる?」
「……その通りだよ」

「そのうえで、告白した自分を受け入れて、抱いてくれてる……と」
「うん。だから……ぼくたちの関係も危ういし……どんなに想っても、結局は婚約者か南野のもとに帰るだろうって」
「なにを言って……」

 わけがわからないと言わんばかりに、立ち上がった東雲が声をあげようとするのを、南野が目で制した。彼は軽く首を左右に振って、視線だけで東雲に座るように合図した。

「俺も冬夜も家庭環境が最悪で……冬夜は感情に蓋をすることで……乗り切ってきた。俺はイイ子のフリをすることで乗り越えられると思ったけど……無理だった。で、喜怒哀楽が消えた冬夜は、周りの感情にも乏しくなって、周りに左右されないけれど、周りからどう言われてるかや、どう見られているのか……さっぱりわからないヤツになったわけ」

「東雲先生がクソ真面目に見えたのは……感情の起伏がないから、か」
 明夏は独り言のように漏らした。

「その通り。簡単に言えば、生徒である俺と一緒に暮らしているのが周りからどう見られるかもわかってないし。どれくらいの人間に、婚約しているのかが知られているかさえも理解してない……っていう今の現状にぶち当たるわけ。だから、西森の反応は正常だよ。不安になるし、どうしたらいいかわからない。好きなら余計……聞けないし、怖い。そのストレスから、眩暈や頭痛に繋がるんだと思う」

「……ん。ぼくもそうだと思う」
(真実を聞くのが怖かったから)
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