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体育館への渡り廊下を歩いていると、誰かが明夏を追い越していく影を感じた。横によけたのにぐいっと腕を掴まれると引っ張られた。
(なに?)
「お前が儚い理由がわかっちゃった。東雲が好きなんだろ?」
一瞬、東雲が追いかけてきてくれたかと心が喜びかけたが、腕を引っ張った相手が井筒だとわかり、世界が暗くなった。
「はあ?」
「まあ、男子校だしなあ。男同士に理解はあるけど……東雲はだめだろ。婚約者いんじゃん。あいつ、ノーマルだろ」
「……ってるよ」
わかっていることを蒸し返すように言ってほしくない。日々、それで悩んでいる。苦しんでいる。
「なら、俺にしとけって。俺なら理解あるし?」
(理解ってなんだよ……ただ男も抱けるってだけだろ?)
肩を抱かれて、すっぽりと井筒の身体の中におさまってしまう己の身体の小ささにげんなりした。
もう少し身長ががあれば……。もう少しガタイがよければ……。
(もっとマシな恋愛ができていたのかな)
「西森、こっち」
「はあ? 体育準備室って……おい、やめろって!」
「いいから。サボろうぜ。かったるい授業よりいい運動できるから」
「ちょ……まじで、やめろよっ」
(そんな気分になれない)
体育準備室でヤルって……東雲のテリトリー内じゃないか。授業中に入ってきたら、すぐに知られてしまう。こんな自分を見られたくない。
体格差で、抵抗が抵抗にならない。ずるずると準備室に連れていかれると、暗い室内で抱きしめられた。
「なあ、わかる? お前のことを考えるだけで……チンコがやべえの」
「……知るかよ。押し付けるな……やめろってば」
「女と一緒で、痛いのは最初だけっていうから」
(知ってるよ。経験済みだっての)
ジャージを脱がそうとする井筒に、必死に抵抗する。手を引っぱたいたり、チャックを下ろさせないように、手の中にアジャスターを隠したり、と。
(なんとかして準備室を出ないと……)
この抵抗だって、時間の問題だ。両手を抑え込まれたら、抵抗できなくなる。
「いいだろ?」
「よくないっ。触るなよ」
「マジで、キツイんだって」
「知るかよ」
荒い鼻息が首筋にかかって、気持ち悪い。ご飯を奢ってくれるオヤジたちみたいだ。湿った気持ち悪い鼻息を吹きかけてくる。
ガチャっとドアが開き、一瞬だけ明るい光が入ってきたかと思うなり、「ぐうぇ」と井筒が苦しそうな声があがった。
明夏は急に現れた黒い影に目を凝らすと、井筒のジャージの襟を掴んでいる東雲が立っていた。
「井筒、そんなに元気なら外周走ってくるか? 授業開始までまだ数分ある。全力で走れば、一周くらい走れるだろ。付き合ってやる、来い」
首根っこを掴まれたまま、井筒と東雲が準備室を出ていく。明夏はへなへなとその場に座り込んだ。
(東雲が……助けてくれた?)
ガチャっと再びドアが開いて、明夏は顔をあげた。
「井筒と走ってくる。上着、持ってて……それと、仕事が終わったらアパートの駐車場で待ってる。連絡をいれるから降りてきて」
「……うん。でも、どうして……」
(家に帰らない?)
「ホテル、行こう」
「火曜日じゃ……ないのに……」
「シタいんだ。嫌か?」
「ううん。連絡待ってる」
半そでTシャツとジャージのズボン姿になると、井筒の元へ戻っていった。一人になると、明夏はジャージの上着に顔を埋めた。
本来の東雲の匂いがする。石鹸の匂いじゃない東雲の香りだ。今だって、汗のにおいに気を使って、近づいてもくれなかった。
(嫌いって言ったのはぼくだけど……)
「こっちのほうが……好き」
東雲のジャージの中で深呼吸をした。
(なに?)
「お前が儚い理由がわかっちゃった。東雲が好きなんだろ?」
一瞬、東雲が追いかけてきてくれたかと心が喜びかけたが、腕を引っ張った相手が井筒だとわかり、世界が暗くなった。
「はあ?」
「まあ、男子校だしなあ。男同士に理解はあるけど……東雲はだめだろ。婚約者いんじゃん。あいつ、ノーマルだろ」
「……ってるよ」
わかっていることを蒸し返すように言ってほしくない。日々、それで悩んでいる。苦しんでいる。
「なら、俺にしとけって。俺なら理解あるし?」
(理解ってなんだよ……ただ男も抱けるってだけだろ?)
肩を抱かれて、すっぽりと井筒の身体の中におさまってしまう己の身体の小ささにげんなりした。
もう少し身長ががあれば……。もう少しガタイがよければ……。
(もっとマシな恋愛ができていたのかな)
「西森、こっち」
「はあ? 体育準備室って……おい、やめろって!」
「いいから。サボろうぜ。かったるい授業よりいい運動できるから」
「ちょ……まじで、やめろよっ」
(そんな気分になれない)
体育準備室でヤルって……東雲のテリトリー内じゃないか。授業中に入ってきたら、すぐに知られてしまう。こんな自分を見られたくない。
体格差で、抵抗が抵抗にならない。ずるずると準備室に連れていかれると、暗い室内で抱きしめられた。
「なあ、わかる? お前のことを考えるだけで……チンコがやべえの」
「……知るかよ。押し付けるな……やめろってば」
「女と一緒で、痛いのは最初だけっていうから」
(知ってるよ。経験済みだっての)
ジャージを脱がそうとする井筒に、必死に抵抗する。手を引っぱたいたり、チャックを下ろさせないように、手の中にアジャスターを隠したり、と。
(なんとかして準備室を出ないと……)
この抵抗だって、時間の問題だ。両手を抑え込まれたら、抵抗できなくなる。
「いいだろ?」
「よくないっ。触るなよ」
「マジで、キツイんだって」
「知るかよ」
荒い鼻息が首筋にかかって、気持ち悪い。ご飯を奢ってくれるオヤジたちみたいだ。湿った気持ち悪い鼻息を吹きかけてくる。
ガチャっとドアが開き、一瞬だけ明るい光が入ってきたかと思うなり、「ぐうぇ」と井筒が苦しそうな声があがった。
明夏は急に現れた黒い影に目を凝らすと、井筒のジャージの襟を掴んでいる東雲が立っていた。
「井筒、そんなに元気なら外周走ってくるか? 授業開始までまだ数分ある。全力で走れば、一周くらい走れるだろ。付き合ってやる、来い」
首根っこを掴まれたまま、井筒と東雲が準備室を出ていく。明夏はへなへなとその場に座り込んだ。
(東雲が……助けてくれた?)
ガチャっと再びドアが開いて、明夏は顔をあげた。
「井筒と走ってくる。上着、持ってて……それと、仕事が終わったらアパートの駐車場で待ってる。連絡をいれるから降りてきて」
「……うん。でも、どうして……」
(家に帰らない?)
「ホテル、行こう」
「火曜日じゃ……ないのに……」
「シタいんだ。嫌か?」
「ううん。連絡待ってる」
半そでTシャツとジャージのズボン姿になると、井筒の元へ戻っていった。一人になると、明夏はジャージの上着に顔を埋めた。
本来の東雲の匂いがする。石鹸の匂いじゃない東雲の香りだ。今だって、汗のにおいに気を使って、近づいてもくれなかった。
(嫌いって言ったのはぼくだけど……)
「こっちのほうが……好き」
東雲のジャージの中で深呼吸をした。
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