愛とは。恋とは。

ひなた翠

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「最近の明夏、顔色……わるぅい」
 千夏がマックでポテトを食べながら、唇を尖らせた。

(頭痛と眩暈で……吐き気もあるから、かも)

 今も油モノを受け付けなくて、コーラだけを飲んでいる。炭酸でお腹を膨らませているようなものだ。

 知夏と千夏がマックで夕飯を食べているのをただ眺めているだけ。
 ピンロンとスマホが鳴って、表示を見ると東雲からだった。

『今日は具合が悪いから先に帰ったって南野から聞いた。大丈夫か?』

「あれ? まだあの先生と続いてるの?」
「ん、まあ。なんとなく……」

「へえ、明夏にしては珍しい。エッチがいい、とか? お小遣いをたくさんくれるとか?」
「全然。エッチは気持ちいけど。抱かれた後の虚無感が半端ない」

(胸の中が空っぽになる。ああ、来週の火曜日までもう……ただの生徒なんだって思うと。無数の針で心臓を一気に刺されたみたいに痛い)

「なにそれ? わけわかんなあい」
 けらけらと千夏が笑って、またポテトを口にいれた。

(ぼくだって……知らなかったよ。東雲と出会うまで、こんな辛い感情。なのに離れられないんだ)

 南野には具合いが悪いからって、東雲が帰ってくる前に家を出たけど……、ただ会いたくなかった。自分のモノじゃない顔をしている東雲を見たくなかった。全身の愛情を南野に向けている東雲を視界に入れたくない。声も聞きたくない。眩暈が酷くなる。

 明夏は苦笑すると、スマホに手を伸ばした。

『大丈夫。塾の友達と一緒にいる』と返事をするとすぐに既読がついて、返事がきた。
『今日は塾がないはず』
『家に帰りたくないから。塾の学習室で勉強してた』
『具合が悪いのにか?』
『もう平気』

 東雲に抱かれた日に、見たくなかっただけ。だから心配しないでほしい。放っておいてほしい。来週の火曜日まで、一生徒でありたい。

『家まで送って行こうか?』
『大丈夫。一人で帰れるから。放っておいて』
 スマホをテーブルに置くと、着信音が鳴り出した。

 はあ、と息を吐くと画面に表示されている名前を見て、視線を一度外して躊躇った。

「ほら、彼氏から!」
 知夏にバレて声をかけられると、無視しづらくなる。

「ごめん」と言うと、明夏は携帯を耳につけて席を立った。

「放っておいてって言った!」
『顔が見たい』

「……え?」
『午後も顔色が悪かった。平気そうに見えない』
(なんだ。そっちか)

 寂しい、とか。恋人だから会いたいとかそういったものかと一瞬、喜んでしまった自分が情けない。

「夕飯も食べれたし、平気。友達といるんだから放っておいてよ!」
『帰りたくないなら、うちに居ればいいだろ?』
(それも嫌なんだよ)

「もう帰るところだし、平気だから」
『明夏、言っていることが合ってない』

「なっ……」
(うるさいっ)

 突っ込まないほしい。これ以上……踏み込まれたら、気が狂って何を言い出すかわからなくなりそうだ。

 バタンっと車のドアが閉まる音が電話の向こうから聞こえてきて、ドキと胸が高鳴った。

「先生……もしかして、車に……」
(本気で迎えに来ようとしている?)
 南野と一緒に過ごしているはずだ。
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