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しおりを挟む兄さんの部屋に朝食を持っていくと、兄さんはベッドに横になっていて、クローゼットの前で和真がスーツに着替えていた。
兄さんの許可がないと和真は僕に話しかけてはいけない。だから、僕は部屋に入って来ても、スッと目を逸らすだけだった。
「兄さん、おはよう。今日の卵焼き、僕が間違って二切れ落としちゃって……ごめんね?」
「落としたのはどうしたの?」
「僕が食べたよ。大丈夫、捨ててない」
「捨てたら、横から食べるヤツがいるから」
ぎろっと兄さんが和真を睨みつけた。和真はこっちを見向きもせずに、ネクタイを結っていた。
テーブルにお膳を置くと、ベッドの中で潜り、まだ眠そうな目をしている兄さんに視線をうつした。
いいなあ。兄さんは、和真に愛されてる。僕の一番、欲しい愛をもらえるんだ。
「弓弦、どうした? 物欲しそうな顔をして」
クスっと兄さんが笑うと少し伸びた前髪をかき上げた。布団の中の兄さんは、どうやら全裸のようだ。白い腕と胸が見えて、思わず見つめてしまう。
「兄さんが忙しくて最近、相手してくれないから、かな」
僕は肩をすくめると、口から嘘がさらっと流れるように出た。
いつからだろうか。僕は嘘をつくのが苦手だったのに。勘の強い兄さんにさえ、わからないような嘘をさらっとつけるようになった。
和真がもう傷つかないように……ただその一心で。
「弓弦、おいで」
兄さんが手を伸ばして僕に笑いかける。
そろりそろりと僕は兄さんのベッドに近づくと、兄さんの手が僕の頬を覆った。
「じゃあ、相手をしてあげる。服を脱いで」
「……いま?」
「そ、今。出張から帰ってきたヤツが手を出してないか、確認しないとね」
「僕は朝まで一人で離れにいたよ」
「知ってる。秀一から報告は受けてる。でも目を盗んで、弓弦の綺麗な身体を犯すヤツがいるからね。きちんと確認をしないと」
わかったよ、と僕は答えると白いTシャツとジーパンを脱いだ。ボクサーパンツを脱いで、床に落とすと満足そうに兄さんが微笑む。
「うん、綺麗だ……って、手首の傷が増えてる」
「あ、それは」
「秀一のヤツ。またへまをしやがって。全ての刃物を処分するように言ったのに」
兄さんの顔が怒りで歪むと、舌打ちをした。
「……ごめんなさい。つい……兄さんの声が聞こえてしまって」
違う。切ったのは、兄さんの声が聞こえる前。
「僕の声がどうしたの?」
「兄さんは僕のことをかまってくれないのに……和真には……って思ったら我慢できなくて」
「切ったの?」
「傷がつけば、兄さんが相手をしてくれるから」
「弓弦、僕の上においで。キスをして」
兄さんの命令通りに僕は兄さんの太腿の上に座り、身体を起こした兄さんの唇に口づけをする。
兄さんの股間はすでに熱を持っている。
朝方まで、和真とシタはずなのに。復活が早い。
兄さんの上唇を甘噛みしてから、舌を入れる。基本、兄さんからは何もしてこない。僕がどんなふうに求めてくるのかを楽しんで待っている。
その求め具合を見て、僕の要求不満度をはかっている。二年かけて、兄さんという人間を研究した僕なりの偽の愛情表現をぶつける。
後ろで和真の視線を感じながら、僕は演じる。兄さんが望む腹違いの弟の弓弦を。
「和真くん、見ることを許可した覚えはないけど?」
「優さんが俺といるときより、妖艶だから見惚れてました」
「白々しい。仕事の時間があるのでは?」
「そうですね。行ってきます」
足音が遠ざかり、ドアが静かに閉まった。
「やっと二人きりだね。弓弦、確かめさせてもらうよ」
僕を押し倒した兄さんが、足を広げて後ろの孔を確認した。もう三か月以上も弄っていない後ろの孔を見てから、兄さんが勃起した熱をねじ込んできた。
なんの施しもしてない僕の小さい孔が悲鳴を上げる。痛みと同時に、皮膚が引き裂ける感覚に僕は雄たけびをあげた。
「ああ、いいよ……弓弦。いい子にしてたんだね。僕の言いつけ通りにして、汚さなかった。最高だよ」
「ああっ……ん、あっ……んくぅ……ああ」
僕は背中を反り返らせて、熱く痛みを訴える下半身から逃げようとする。
痛い……やだ、やめて……こんなセックス、したくない。
「ごめんね、弓弦。いい子にしてたのに、ご褒美がないんだ。和真のバカが仕事で疲れてるとか言って、僕のナカでイカなかったんだ。ここ一年、ずっと不発なんだ、あのバカ」
和真が……イケてない? 仕事、そんなにつらいのかな。
「あいつ、外に恋人でもできたかもしれないね。出張も嘘かもしれない。先日、不動産屋めぐりをしていたっていう報告もあったし、いよいよ僕たちを捨てるのかも。ま、別れ話をしてきたら、弓弦に今までした罪を償ってもらうけど」
「償って……もらわなくていい、よ」
「また、弓弦は……和真のバカに甘すぎるよ」
違う。いびつで汚れた関係から、和真が出ていけるならそのほうがいいから。
兄さんを愛して、壊れた生活にいるより……世間のルールを知っている女性と結婚をして子供を作って老いていくほうが和真には合ってる。
昔からあるこの屋敷のなかでしか通用しないルールの中で、生きていくのは僕と兄さんだけでいいんだ。
お願い。外に目が向いたのなら、そのまま和真を自由にしてあげて。ここで僕は、兄さんと生きていくから。
「兄さん、キス……したい」
「可愛いね、弓弦は」
兄さんの支配欲が満たされた笑みを見ながら、僕は唇を貪った。痛いだけのセックス。それで兄さんが満足して、和真を傷つけないなら僕は逃げずに堪えてみせる。
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