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第一章 マールの村

10話 混乱

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 帰宅するころには、もう日がかたむいていた。

「なな、なんじゃと!? あ、あのローマンの馬鹿連中が!?」

 私はすぐ、お父さまとお母さまにローマンとそのほか二人の男の子に輪姦りんかんされそうになったこと、その裏には女の子三人がからんでいることを報告した。

「はい。マールの湖でエセルを待っていたところを、ローマンら三人の男の子におそわれそうになりました」

「そ、そ、それで、無事じゃったのか!?」

 お父さまが心配そうに声をかけてくる。
 お母さまも、目を閉じて嘆息たんそくしていた。

「エセルがきてくれたので無事でしたけど……あの六人はなんなんです?」

「あ、ああ。ローマンの家であるデジールは早くから次期村長と決まっていたから、息子のあいつは自由気ままに育てられたんだろう。これまでも散々、悪戯いたずらではすまされないことをしてきた馬鹿ものらだ!」

「よりによって、うちのイーヴァに手を出すなんて。それに今回の件は悪さじゃすまないことさね! あんたがゆるしても、あたしゃもう絶対に許さないよ!」

 お母さまがいかりのさけびをあげた。

「そうだな、散々さんざんしかってきたのだが、無駄むだどころか、日に日に酷くなっていく。よし、儂は決めたぞ。近いうちに村民会議そんみんかいぎを開き、デジール家の次期村長は白紙とする!」

「え、そこまでしなくても……」

 私があわあわとお父さまをなだめようとしたけれど、お父さまとお母さまの怒りは頂点ちようてんに達していた。

「イーヴァ、すまんかった。あやつらにはわしから更にきつく言っておく。しばらくは家で過ごした方がいいだろう」

 そう言うお父さまの言葉に、私は笑顔えがおで首をった。

「本当に私は大丈夫だいじようぶですから。ただ、お父さまにお願いがあります」

「ほう、なにかな?」

 私は、マールの湖で拾った枝を見せた。
 あれからずっと手放さないで、持って帰ってきたのだ。
 なにせ、ローマンのような手合いがいつまた襲ってくるか、わからなかったから。

「これくらいの長さのワンドで、なにか良いものはありませんか? よろしければ護身用ごしんように持っておきたいのです」

 お父さまとお母さまはたがいに視線をわしてうなずくと、お父さまが部屋のおくへと消えていった。

「イーヴァ、まずはおすわりなさい」

「はい」

 リビングのテーブルに手をつき、椅子いすを引いてすわる。
 木の香りがただよう良いテーブルだった。その証拠しようこに、テーブルから茶色のマナが出てきて、楽しそうにふわふわとかんでいた。
 お母さまはキッチンへ向かっていくと、すぐに冷たいハーブティーを持ってきてくれた。

可愛かわいそうに……こわかっただろ?」

 私のとなりすわり、かみでてくれるお母さま。

「いえ、特には」

「無理しなくていいんだよ。この村は見ての通りせまいから、若い女は男から乱暴されても寝入ねいりさね。全く、とんでもない話さ」

「あのう、本当になんにもなかったので」

「本当に? だってあのガキども、確かいつも六人くらいいるだろう?」

「ええ。男の子三人、女の子三人でしたね。どちらにも逆にきつ~いお仕置きをしておきました。あ、男の子の一人をばしてくれたのは、エセルですけれど」

「エセルか。あの子はローランと違っていい子だよ。誠実で母親思いで正義感が強くてやさしい。畑仕事も頑張がんばって手伝うからね。それに明るくて友達も多い。あれはいい男になるよ!」

「あ、あはは……」

 お母さまはエセルしなのか。
 でも確かにエセルからは、土と草のいい香りがする。
 これはただのカンだけどエセルみたいな男の子は、いい人な気がす――


【だ……めだ……やめ……】


「う、うわぁあああああああああああああああっ!」

 不意に脳裏のうりをかすめていった声に、私は思わずさけび声をあげ、テーブルにす。

「どうしたの、イーヴァ! 大丈夫だいじようぶかい!?」

「うう、ううう……」

 温かい水がほおを伝い、頭の中が混乱におちいる。

 なにこれ、なにこれ!?
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