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9 二次元にもある程度のリアルが詰まってるんだと実感した夜。

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「五年って言ったんだよ。努力したんだよ、五年前の春から、ちょっとづつだけど、少しは変わろうって。」


「頑張ったんだよね。」

さすがに偉いって頭を撫で回すじゃれつきは出来ない。

「誰のためだと思うの?」



「好きな人の為でしょう?」

「そうだよ、気になる人のため。五年前の春、誰に出会ったと思う?」


知らないよ。そっちの世界には詳しくないし、その頃はやってたのが何なのかもわからないし。


「初めて話しかけたのは自分じゃなくて、だってなかなか自分からは話かけられなかった。びっくりするほど美人だなあって思ってたし。」


「だから、二人だけの同期だから助け合おう、よろしくって言われた時はうれしかった。無視されるくらいだったらどうしようって思ってた。だってそれでも仕事は問題なかったし。それなのに挨拶だけじゃなくて、時々休憩に誘ってくれたりして。」


ん????



「時々ご飯に連れ出されて。」


「机の上を見て『あり得ない~。』って笑ってくれて、でも普通に話しはしてくれて。馬鹿にされてもいいくらいなのに。」


あの・・・・・・・あれ????


肩の手に力が入る。
今度こそ泣きそうだろうか?


「何度失恋しても、すぐに次の相手を捕まえるし。」


「愚痴を聞く時間は楽しかった。一緒に飲めて、彼氏にも見せないだろう凄い顔で・・・。」


そんなに???

「この間、ここに連れてこられて・・・・・でもやっぱり自分の人生にそんな都合のいい事なんて起きないなあって。それなのに月曜日にはにやにやして聞いてくるし。」


ああ、やっぱりあのからかいが良くなかったらしい。
相当怒ったんだろう。

さすがに分かった。無関係で慰めてたけど・・・違うかもって分かった。



「何で・・・・竜胆さん紹介の彼氏はかっこいいって後輩に自慢してたのに。明らかに元気がないじゃない。」



「だからって・・・別に期待してないけど。」



肩から手は外れた。

体も離れた。


テーブルの上の缶がまた新たに開けられた。
グイグイ飲んでる。
喋り続けてのどが渇いたんだろう。

その横顔を見ていた。


確かに、一応彼氏らしき人がまだいて、それなのに部屋で抱きしめ合って慰め合うって、自分のモラルはどう?信頼してるから、いい奴だからって、それで普通言い訳になる?


隣の缶からカコカコと音がした。
友成もBGMが欲しいと思ったんだろうか?


大きなため息も聞こえてきた。


これはどういう状態と言えるんだろう?



「彼氏はどうなったの?」


「多分、お互いに違うって思ったんじゃない?まだ食事だけだったし、夜を一緒に過ごしたこともないし。」

正直に言った。
そして私はまたお酒の注意書きを見つめた。


「だから何?」


「そんな相手でもないと思われたんだよ。」


「別れたの?」


「・・・まだ・・・しばらくお互いに連絡を取り合ってないだけ。」


「好きじゃないの?」


「どうだろう?そんな・・・・・難しいね。」


「そうなんだ。」



「そうみたい。」


「ずいぶん他人事だね。」


「そうかな?」


「そうだよ。さっき言ったことにも少しも触れないよね。分かってるんでしょう?さすがに気が付くよね、五年前の春に二人の同期になった相手だよ。他にいる?」


それはいない。
だからと言って直接は聞いてない。
あれは罵っただけじゃない、少しも気が付かない、失礼な態度の数々だって。



ゴクリと音がして、テーブルに置かれた缶からグシャリと音がした。
音響BGMというより、威嚇?怒りの表現?


「そうか。」

そうつぶやかれた。


視線を感じる気がする。
横顔を見られてる気がする。

すっぴんです。それにやっぱり視線が痛い。


「さっき逃げなかったから、どうしてだろうって思ってた。」


「顔を寄せて、でも目を閉じてはくれないなあってわかって、だから、抱きしめて。」




「どういうつもりだったの?」

まさかそれを聞かれるとは思わかなかった。
あの時は私がそう思ったよ。


「どうだろう・・・・辛いだろうなあって思って、きっといいことがあるよって思ったかな?」

だってそんなタイミングだったよね。


「あんなに恋愛をしてきて、男たちに察しろとか、気を遣えって言ってるのに。何でそんなに鈍感でいられるの?それともそんな振りしてやり過ごすつもりなの?」




「はっきり言えばいいのに。」

強い口調で言われた。


「友成だってはっきり言ってないじゃない。五年前五年前って過去のきっかけばっかりじゃない。」


ああ・・・・これこれ、いつものパターンの予感。
つい言い返す、言い返してしまう。
かなり責めたような口調だった。

でもしょうがない。売られたら買うよ、それが基本姿勢だから。知ってるじゃない。


「確かにそうだよ、五年前のきっかけを教えた。でも流れで分かるよね。今のことだって分かってるのに、そこは無視するの?」


「だからはっきり言えばいいって言ってるの!!」

はい、お買い上げ。


「言ってどうにかなるなら言ってるよ、どうにもならないよね。イケメンが基本条件だって言ってたし、ずっと相手はイケメンだったよね。散々愚痴を言いながらも顔だけは褒めてたじゃない。」


まあ、確かにイケメンだった。
だってかっこいいに越したことはない。
不細工よりはイケメンがいい。
たまたまそんな相手が多い飲み会で出会うし、そんな相手に気に入られるし。

天井を見上げて思い出した顔はもううすらぼんやりだった。

過去は過去。あ、そういえば写真消してないんだった。
そんなくらい遠い遠い存在ってことで。


そう思って横を見たら、体がすぐ近くにいたらしい。

ゆっくり顔に手を当てられた。


それは友成の手?
何だかイメージとは違う行動にドキドキする。

明るい中そんな・・・・いやいや暗い中も想像できないけど。


見えるのはドアップの顔。

それはお互いだろう。



「逃げないなら、目を閉じればいいのに。別に・・・・・初めてでもないし、普通に慣れてるでしょう?」

ちょっとカチンとくる後半のセリフ。
でも目と表情は文句をつけたいって思わせるものじゃなくて。

さっきの売り買いは終わり?

それでもものすごく素直には目を閉じない。


「目を閉じてほしいなら、ちゃんと気持ちを伝えてよ。今言わないと永遠に言えないでしょう?」


私もあえて売らなかった。
言葉は売り言葉だったけど、それはお願いでもしてるように響いたと思えるくらいだった。


「ちゃんと答えてくれるの?」

小さくうなずいた。


「ずっと好きだった。最初から、なんとか普通に横に行きたいって思った。隣になってからは、もっと近い場所にいたいって思った。本当に、好きなんだ。だから目を閉じて、応えてほしい。」



「さっきみたいに抱きしめて、それから目を閉じたい。」


自分から体を寄せて、背中に手を回した。
視線を合わせたまま、抱きしめられて。

ゆっくり顔が動いてきたから目を閉じた。


くっつく瞬間眼鏡をとられた。
そこはすごく器用だった。
もしかしてあの寝室にはそんな大人っぽいストーリーの物もあったの?
凄いセクシーでくびれた美人の抱き枕だったりするの?

背中の手を頭に持って行ってしまった。
ゆっくり始まったキスが物足りなくて、長いキスにして顔を動かして繰り返した。

少し目を開けたら、友成は目を閉じていた。
しっかり目を開けて私がリードした。


勝利!! ちょっとだけそんな気分だった。

ちょっと満足の笑いが雰囲気に出たかもしれない。
友成が目をあけて、視線が合った。

急いで顔を離された。


唇が赤い友成。すごくイケメンじゃないけど、まあかわいいじゃない。
自慢するほど長い年月を重ねたから、ずいぶんカッコいいには近づいたよ。
まあ、正直に言うと普通ってくらいだけど。


思わず笑顔になった。


それに何を思ったかがっしりと体をつかまれて押し倒された。
それでも優しい心遣いで、びっくりはしたけどどこも痛くはなかった。
やっぱり器用らしい。

上からのぞかれた。

「この部屋にも、彼氏は何度も泊まったんだよね。部屋の鍵を置いて行ったんだもんね。寝ぼけて蹴られたこともあるベッドだしね。パジャマとか、捨てた?」

当たり前だ。速攻捨てた。名前が消されてからだけど、速攻捨てた。


「借りたかったの・・・・まさか。」

一応そう聞いてみた。

「そんな訳ないよね。」

「まあね・・・・。」


何が言いたい?そんな近い距離で、腕も疲れるだろうし、重さもかけてないから膝も腹筋も疲れそうだけど。


「ベッドはそのままなの?」

ああ、それが聞きたかったんだ。
そんな事答える必要あるの?

ちゃんとシーツは捨てたし、本当に諸々捨てて大掃除したし。


ドサッと体が落ちてきた。
限界だったか・・・わざとか。

ウッと声が出るくらいだった。
床は硬いのに、コノヤロー。
重たい体はそのまま動かない。


「電車が動いたら僕の家に来てよ。この間泊まりたいって言ったよね、泊まればいいよ。ソファは貸さないけど、ベッドを貸すから。」

耳元に顔がある。
小さい声で誘われた・・・んだろうか?



でも嫌だ、女の子か美女と同衾なんて考えただけで嫌だ、眠れない。


「断りたい。」

「ここのベッドは嫌だ。歴代彼氏が寝たベッドは嫌だ。僕のところは誰も・・・・・ないから。」


「二次元の女の子に見つめられるのは慣れてないから嫌だ。」


そっちこそ買い直してほしい、大掃除してほしい。


「クローゼット以外いない。この間もいなかったじゃない。びっくりしてたのに。」


本当に?

首をぐるりと回して顔を見た。
思わずくっついた。
だってそこにいたから。


「来てよ。」

キスをされて合間に言われた。
やっぱり初心者とは思えない、ぎこちなさがない。
侮ってた。
やっぱり媒体はどうあれ参考書がわりにはなるらしい。


相変わらず体は重いけど、今度はなかなかしつこいくらいで。
背中に手を置いて引き寄せながら、ずっと目を閉じて応じてた。

つい声も出たし、足を絡ませてしまったのはちょうど場所が空いてたりしたから。


明らかにスピードが速まって、荒い息が聞こえる。
私も同じように声を出してあおってる。

背中の手はとっくに腰にあって、力を入れて目的をもってくっついてる。

部屋着のスカートがめくれて、脚に友成の手を感じた。

思わず声が大きく出た。


油断した。
やっぱり普通の方法は分かってるみたいだ。
あおる必要もなかっただろうか?


あ、でもシャワー浴びてない。

腰の手を放してその手に置いて、動きを止めさせた。


首元にあった唇が離れて、視線が合った。


「何で。」


「シャワー浴びてない。」


「いいよ。」

パーカーを捲られてTシャツの上からキスされる。
顔をグリグリと寄せられて。

体をそらせたら、すぐに気がついて器用に下着を外したその手際。
もう驚くのは止めよう。

そのまま明るい中でTシャツも捲ろうとするからお願いした。

「暗くしたい。」

すぐに立ち上がり、電気を消したら真っ暗になって。
さすがにそれじゃあ戻ってこれないだろう。

立ち上がって手を引いて寝室に行った。

グズグズ言わずについてきた。
シャワーは妥協したんだから場所はそっちが妥協してほしい。

カーテンが引かれてないから、レース越しに街灯の明るさは入る。
いい具合なのだ、これが。
寝坊は出来ないし、目が覚めたらちゃんと遮光カーテンを引くけど、夜はこれがいい。
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