名もない香りに包まれて。

ずっと好きだと思って信じてた男はあっさりと目の前からいなくなった。
それなのにまだ私の周りではあいつの残したものが漂ってる。

松下 涼、全く人を見る目がなかった小娘だったらしい。
そんな私はあいつの複数の相手と同じ香りを纏って満足していたのだから。

何度も洗って風に当てた服からもかすかに感じられる残り香。
だってムキになって捨ててない香水はまだ部屋にある。

それもわざわざつけることもあるくらい。

今日もつけてきた。
新しい出会いに連れてきた。

それなのに『似合わない』ってはっきり言われた。
もちろん初対面の男に。


そんな最悪な感想で始まった出会い。
それは彼にはどうしても許せないポイントだったらしい。


川瀬 ほうか

『香り』を仕事にしてる人だった。
そんな人と出会った日から、新しい香りに慣れるまで。

そんな二人の話です。
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