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38 結局ただの嫌われ者だったみたい。

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二人と別れて、何とか腕を支えて部屋に連れ帰った。

お水を飲ませてソファに横にする。

ネクタイをゆるめて、上着を脱いでもらう。

「もう少し待って。ちゃんと目が覚めるから。」

「お風呂に入るから、ごゆっくり。」

冷たい・・・、そう小さく呟かれたけど自分の部屋です、私はいつものペースです。

シャワーを浴びて、着替えやタオルなども準備しておく。

あ~、パジャマがないんだった。

リビングに戻ると目は開いていた。

「大丈夫?気分悪くない?」

「うん。大丈夫、あと少しだけこのまま。」

自分の分の水を持って、ソファの下に座る。

平和な顔をして見つめて来るけど、分かってる?

注目の的と噂のネタになるのに。


「心配しない、しない。」

何?

「噂の命は短くて、新しい局面がなければみんな忘れる。」

分かってるらしい。
まさか賭けの対象になってるとは教えられない。

皆そんなに刺激のない日々を送ってるんだろうか?
私のネタで遊ばないで欲しい。


「ねえ、バッグの中にあるの出して。」

「何?」

コウヨーのバッグを引き寄せる。
開けてみると箱が入ってた。

プレゼント!

「開けていいの?」

「いいけど、うれしい物じゃないけど・・・・。」

聞こえてはいても・・・・何?何?

ワクワクが勝つ。



このパターンは・・・・二度目。

蓋を開けるとタオルの包装のように透明なセロファンで中が見えて、何が入っているのか分かった。
またしても喜んだ自分、前回より包装もしっかりしてた。
袋には入ってなかったけど、バッグに収まり良かったし、てっきりプレゼントだと思った。

うれしい物じゃないなんて・・・・謙遜って思うし。

本当にまた自分を罵りたくなった。


「これ、ずっと仕事中も、飲んでる時も大切に近くにあったんだ。」

「うん。手に持ってると何?って聞かれるでしょう?だからバッグに入れてた。」

「そうね。」


だって、本当にプレゼントだと思った・・・・。
何でもいいと思った。
絶対喜ぶ自信だってあったのに。


騙されたわけじゃない、でも何で二回とも私に開けさせたのよ!
自分で開けて欲しい。

蓋を閉じてテーブルの下にバッグと一緒に押しやった。

ちっ。

昔なら舌打ちしてたかも。

いや、これをプレゼント風にもらったことはない。

勝手に期待して、ガッカリしただけだから。
ちょっとだけ自分にそんな言い訳をしながら反省らしきものをしていたら頭を撫でられた。

「やっぱり仲がいいよね。三人。」

「まあ、そうだね。他に私にはいないから。」

「先輩達が、彼氏持ちになった途端もっとモテるぞって言ってた。女子は安全なマスコット代わりに合コンに誘いたいと思うし、男は奪いたいって思う奴がいるかもって。」

「そんなことないよ。先輩達が楽しんでるだけだし。」

「昨日の帰りのエレベーターでそんな会話が繰り広げられてたよ。『男はいつでもアドベンチャーでもありハンターだ。』とか何とか言ってた。」

「行かない、一切行かない。」

せっかく落ち着いたのにまた評判悪くなるし、しかも前よりもっとひどく罵られそう。
噂だけが盛り上がる。ちょっとでも関わったら誤解される。


「そう願ってる。」

「ねえ、バナナまた買ってくるの忘れた。」

「いいよ。ブルーベリーで。」

「それならある。」

軽くキスをする。
お酒の味がするキス。

「お風呂は?まだ?」

「入ろうかなあ。」

「全部置いてる。でもパジャマがなかった。」

「買って来て置いてくれるの?」

「いいよ。」

「優しいね。」

「さっきは冷たいって言ったくせに。」

「言ったね。」

そう言って笑う顔は七面鳥らしさの欠片もない。


慣れない事は緊張しやすいのだろう。

だからあの時も女子の間に座ってるだけでも緊張して、だからさりげなく私がボソッと慰めた言葉が響いて、覚えてくれてたんだろう
最初にヘルプの挨拶に行った時もそう。
その後はお互いが背中を向け合って、ああなったけど。

馴れたら馴染みはいい。

すっかりこの部屋にも馴染んでる。


気がついたら目を閉じてる。

「コウヨウ、そのまま寝るの?」

「起きる。そんな声で呼ばれてたら眠くても起きるよ。」

そう言っても目は開かずに。

電気を消して一人で寝室に引っ込もうとしたら怒った声がした。

「やっぱり優しくない。優しく起こしてもいいのに。甘く起こしてくれてもいいじゃない。」

「本当に寝かしてあげようと思ったらハーフケットくらいかけてあげるから。冗談です。起きて、あんまりのんびりしてたら、先に寝るよ。」

「そうしたら僕が起こすから。パッチリ起きるまで甘く起こしてあげる。」


「じゃあ寝る。」


反論はなかった。

寝室でヘッドライトをつけて携帯をいじる。

ふざけて浩美が写真を撮って送ってきてくれた。

そこには随分大人しそうな普通の女が写ってた。

同期と楽しんで飲んでます。
ちょっとだけ前から隣の人と付き合ってます。

そんな普通の顔をした自分だった。

大したことない。
結局私はマダマダだった。
噂通りの悪女でも何でもない、ただの嫌われ者・・・・・、それは悲しいけど。
しょうがない、もらえる好意の分布がコウヨーに偏ってても、それならそれでいいことにする。後、同期二人とあの部屋の先輩達もいる。ここ最近でも増えたんだから。いい。


社内はないって思ったのにすぐに翻したから、ちょっとくらいいびつでも気にしない。


満足する。


ガチャっと部屋のドアが開いてバスタオル姿のまま入ってきたコウヨウ。

ヘッドランプを消して、待った。



ベッドの端に座ってぼんやりしてる。

「具合悪い?」

「ううん。・・・・・ねえ、もし亜弓さんの相手が社長とかお偉いさんだったら、誰も手を出さないよね。」

何でそんなアンタッチャブルな女にならないといけないの?
不倫だし、相当年上、社長って、いくつ?白髪のおじいさんなのに。

「なんでおじいさんの相手をすることになるの?」

「ああ、現実じゃなくて、肩書の話。僕じゃ簡単に奪えるって思われるなあって話。」

「ああ、なるほど。そう言うことね。」

ビックリした、なんでおじいさんを薦めてくるだって思うじゃない。


「何でそこで納得するの?絶対大丈夫とか言って欲しいと思ってはいたのに。」

は?

だからめんどくさいことは止めて欲しいのに。
もっと普通にお願いしたい。何度も思ってあきらめてはいるけど。


「大丈夫だよ。そう言ったじゃない。こんな格好でする話でもないよね。冷えるから早く入って。」

体を起こして触れた肩は冷たい。
もしかして鏡の前でもぼんやり考えてたの?

「冷えるからって・・・・・違う理由がいいのに。」

また細かい事を。
結果が一緒なんだからいいじゃない。

「もう、コウヨー、面倒。早く!じゃないと寝るよ。」

「本気で寝る気?コウヨーって伸ばしたよね、普通の時の言い方だ。」


ああ、今なら給食袋の代わりの枕がある。
思いっきり振りかぶりたい衝動が、久しぶりに、もくもくと。


何だか面倒になりそう。大丈夫?

とうとう動きも言葉も止まった私に何か危機感を感じとったらしい。

こそこそと入って来て、抱きしめられた。



冷えた背中、でも表面だけだから。
少しくっついてると温まる、コウヨウも私も。

「もう、早くって言ったのに。イライラして待ってたから、寝て待つのも忘れてたじゃない。」

そのまま向かい合うように膝に乗り、おもいっきり邪魔なものを脱ぎ捨てた。
上一枚と下一枚。それだけだし。


「早く。」


そう言ってあげた。

私は歯の浮くセリフは言えない。
私を甘く食べてとか、全部味わってとか・・・・絶対に言わないから。



それでも『食べたい。』と言われれば『いいよ。』とは言う。
『甘い。』と言われれば『うれしい。』とは答えてしまう。



だいたいわかって聞いたんじゃないかと思えてきた。

時々拗ねて、私の罪悪感をうまく引き出して、そしてやっぱり『こいつは甘いな、ちょろいちょろい。』なんて思って、うまいこと収めてるような・・・・。


裏はないはず、ただの天然だし、浩美も言ってた、底が知れない。
でもそれでもいいかと思ってる。

ちょろいと思われても、そんな甘さでも。

味わえるなら、どうぞ楽しんで。



まあ、今のところはね。





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