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4 気になる歪な感じを許せない女。

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示現君が陽を連れてきてくれた。
何故か皆に拍手で迎えられた陽。
ビックリしてる。

「じゃあ、行ってくる。」

気合を入れて宣言して立ち上がった。
陽がこっちに来た時点でかなり注目を浴びてたらしい。
視線が私と陽に注がれていて、友達ぶった示現君は完全に脇役だった。

あれから陽も誰にも聞かれてなくて、誰にも話をしてないと知った。

なんで?
そう思った。

全ては自分が蒔いた種だとしても、ちょっとくらい誤解の芽を摘み取ってくれても良かったのに。
席の真ん中に行って、二人で並んだ。

陽を従えてるような気分。
元カレ元カノだとしたら別れた原因が透けて見えるだろう。
『もう、お前にはうんざりだ、もっと自由に生きたい!!』
そんな感じだろうか?

「すみませ~ん、時間をお借りします。」

自分の中ではかなり余所行きの声で皆に呼び掛けた。

「えっと、この間陽と言い合ったのは記憶に新しい事でしょうか?忘れてくれていた方はどうかそのまま忘れてください。ただ、ちょっと誤解があったらしいのでこの辺りで釈明をしたいと思います。」

たんたんと親をいれた四人の関係の話をした。
そして今現在は無関係の二人の話に落ち着かせて。

「という訳で、秋津パパがあまりにいい人で、連休前の夜にすごく久しぶりに三人で食事をしましたが、今でも大好きな大人の一人です。そんなパパに『陽をよろしく』と言われたから、つい陽のことも弟のように思ってしまいまして。ただ、実際は皆さんと変わりない同僚の一人というだけですので。随分変な話になってると分かって、びっくりだったので訂正させていただきます。お時間ありがとうございました。」

一礼した横で陽も頭を下げた。

「じゃあ、続きをどうぞ。」

そう言ったらみんなの注目が外れた。

「示現君、どうだった?」

「分かりやすかったよ。」

「本当?大丈夫だよね。」

「うん。」

「は~、良かった。陽もごめんね。」

「いいよ。別に。」

「そうだよね、だいたい陽がちゃんと訂正してくれなかったからこんなことになったんだしね。でも安心した。じゃあ、陽も楽しんでね。」

「示現君、ありがとう。」

手を振って元の席に戻った。

「どうだった?」

「普通。」「何だあ~ってがっかりなくらい。」「そうだね。」

正直な意見ありがとう。

「これで結婚します宣言だったら面白かったのにね。」

「どうしてそんな話に転がるのか分からない。」

「少しは期待した人がいたかも。」

「いたかもね。」

あんな険悪に言い合ったのに、何でそうなると期待するの?

あの夜、ママを誘ってみればよかったと後悔した。
どうしようかと迷ってた。
でも秋津家が言い出して会うことになったことに、私が勝手に付け足すことは出来ないと思った。

ママも会いたいだろうか?どうだろう?

とりあえず懐かしいだろう。
秋津パパの寂しそうな背中を見て、ちょっとだけ未来を考えた。
まだまだ時間のある未来を。

そして私が友達とだけ喋ってる間にもどんどんみんなのお酒は進み、それなりに移動も始まって席はシャッフルされていく。

私だって大人しくはしてない。呼ばれたら動く・・・・呼ばれなくとも押しかけるようにフラフラと。
だってさっきから陽の周りは人が変わってるのに、私は女子グルーブの端っこのまま。
誰も来てくれない、じゃあ自分で行くしかない。

キョロキョロと飛翔地点を見定めてたら、示現君が立ち上がった、目が合ってしまったから。
でも、別に用はないから・・・・・いいのに。

本当に端の席だからグラスを持ってそのまま立ち話になる。
示現君だけ立たせるのも申し訳なくて、私も立ったら端に行ったふたりになって、ちょっと壁にもたれるようにして話をする。
二人の幹事の早めの反省会の出来上がり。


「陽の周りに人が集まってる気がするんだけど。」

とうとう柴田さんも近くに来ていた。
私は思わずガッツポーズをしていた。
目的の三分の一は達成したあとのそれ。うれしい!
他、三分の一のはずの私の周りは賑わいもせず。


「不満そうな顔が隠せてないのが面白い。」

示現君に言われた。

「だって・・・。」

言えない、私のところには誰も来てくれない・・・・なんて。
示現君に愚痴を言ってる時点で失礼だ。

「また姉ぶりたい?」

「もういい。」

示現君も友達ぶりたいのはお終いでいいのに。

「誰か話をしたい男はいる?」

聞いてくれた!!
紹介システムなの?
そう言われてその場を見渡す。
適当に楽しんでるのが分かる顔。
変な尾ひれをつけて情報が飛び交うほどにはつながりがある同期のメンバーたち。
楽しそうだ。

「どうしよう・・・・誰もいない・・・・。」

それが現実だった。

「じゃあ、しょうがないじゃない。」

それはそれで、誰か一人くらい売り込みに来てくれてもいいのに。
今なら笑い話にして話しやすいはずなのに、それとは別の理由があるとしか思えない。

やっぱり絡み酒って思われてるかも。

「示現君は?誰かのアプローチを感じたりした?」

「それは、まったく。」

「そんな~、影の主役にしてるんだから、楽しんでよ。お世話になりっぱなしじゃない。」

「大丈夫だよ、楽しんでるし。」

「そう?」

グラスを口にしたまま軽く頷く示現君。

もしかして私の紹介を期待してる?

「誰か話したい人はいる?」

今度は私が聞いてみた。

このまま一緒に話しかけに行ってもいいじゃない?
まさか柴山さんだなんて言わないでね。

「別に。」

見渡すまでもなくそう言われた。

「何飲む?」

「じゃあ、赤。」

ついそう言ったらグラスを取りあげられて追加してくれた。

「お母さんはどんな人?」

それを聞く?私の評価が落ちる気しかしないんだけど。

「放っとけないと思ってくれる人も、最後にはあきれるくらいダメな人。」

そう言ったらしばらくグラスが口元にくっついたまま固まった。
ほら、想像してるよね。

「本当に周りの助けがあってママは母親になる事が出来たし、私は大きくなったと思う。本当にそこはパパに感謝かな。一人じゃダメなことをちゃんと周りに伝えておいてくれたから、生まれたばかりの私を抱えて残されたママはすぐに助けてもらえたらしいの。」

「子育てって、自分の面倒以上に大変だし、パパの保険のお金があったおかげで仕事もしないでも子育てだけすればよかったから、助かったって。」

「陽は家事全般仕込まれたって言ってたけど。」

「そうみたい。秋津パパが凄く出来る人だったから、陽も一緒に手伝ってたんだと思う。一緒にいた期間で私とママが手伝ったのなんて小学生レベルだったから。むしろ邪魔しないように大人しくしてた。」

「それが料理音痴の言い訳?」

あ・・・・・。

「違う、今は違う。ちゃんと出来るようになったから。そこは陽もビックリするくらい成長してるから。」

「じゃあそこもさっき釈明の中に入れれば良かったね。」

「示現君、もっと早く言ってよ。今更じゃない。」

「そうだね。」

「ねえ、じゃあ、示現君のお母さんは?どんな人?」

「普通だと思うけど。たまにイライラしてるのがわかるようなため息をついてたけど、家事は普通レベル。オヤジも得意じゃないし、手伝うタイプでもなかった。」

「示現君は?」

「俺も。姉がいたし・・・・。」

「あ、お姉さんいるんだ。どんな感じの人?」

「それも普通。取り立てて自慢できるポイントはない代わりに普通に幸せになりそう。」

「名前は?すごい?」

「ううん、普通『かおる』だよ。香水の『香』の漢字だし。」

「そうか、驚くことはないね。何で示現君だけ名前が個性的なんだろう?」

「長男だから命名権が爺さんにあったんだよ。古めかしいと言えばそうだし、でも嫌いじゃないんだ。」

「うん、名字もすごいし、絶対覚えられるね。」

「まあね。説明が面倒だけど。」

そんな話をしてたらお肉が運ばれてきた。

豪快に骨がついてるのをお店の人が大きなナイフで切り分けてくれている。

ああ、美味しそう。
さっきからテーブルを離れてて食べてないし。

「取ってこようか?」

視線を追われて、そう言われた。まだ立食が続くの?座って食べない?

「亜紀、全然食べてないんじゃない?」

「八文字君、私の椅子貸してあげる。どうぞ。」

近くに来た冬美に言われてやっと着席できた。

お店の人が切り分けたお肉を、次々にお皿にのせて配ってる子がいる。
すぐに席を立ち、そんな事が出来る子は偉い。
まったくだった。
ああ、そんなところが違うのかもしれない。

「ありがとう。」

示現君もまったく男子チームに戻ろうとせず、一緒に譲られた場所で肉を受け取った。
私の友達女子チームに参加した形だ。
ここまでくると女子の注目も集まりやすい。

「八文字君、お家は何か家業をやってるの?」

まあ、そう思う。みんな同じくらいの想像をするよね。

「別にないよ。普通のサラリーマンだし。」

「同じ名前の人が親族に多いの?」

「数件だね。オヤジの男兄弟はそうなるしね。」

「出身は?」

「もともとは山梨だけど、オヤジは東京に住んでるから、東京出身になるよ。」

「秋津君と亜紀と仕事してるんでしょう?気を遣わなかった?秋津君に聞いてなかったんでしょう?」

「気を遣った・・・・・かな。陽が普通だったから、そんなもんか・・・・・って思ってた。まさかあんな特殊な事情があるなんて思わなかったし。」

お肉を食べながら器用に話をしてる。
示現君と自分のグラスにワインを注ぐ。

お腹空いてた。
いいお肉じゃない。美味しい美味しい。

「亜紀、そんなにお腹空いてたの?」

ん、やばい。お肉に集中し過ぎた。
一仕事終えるまであんまり食べてなかったし。
その後もそれなりに人の動きを楽しみにして、その後壁にはりついてたし。

「お腹空いてたよ。美味しいよね。」

「そうだけど・・・・・。」

完食していた。
それだけ集中していたし、美味しかったから。

「亜紀、色気ないなあ。全然評価が上がってないんじゃない?」

それはそうかも。
陽はあんなに・・・・・・って考えて陽の方を見た。


柴山さんもいるけど、西方さんもいる。
柴山さんが黙ってるじゃない。

バシバシっと誕生席の示現君を叩いた。
視線は陽の方を向いたまま。

「痛い。」

ビックリしたらしい示現君の声に私がビックリした。

「あ、ごめん・・・なさい。」

つい、友達みたいに対応してしまった。

「ねえ、陽のところ、ちょっと歪。」

そう言ったら示現君がお肉を手にしたまま視線を向けた。

「しょうがないよ。ちゃんと誤解が解けたってことだよね。」

西方さんは誤解をとく前に近寄ってたから、元カノが近くにいても構わないって思うタイプだったんだろう。もしくは私の存在なんて靴下にできた小さい毛玉ほどにも気にならなかったとか。

でも柴山さんはさっきまでの笑顔がなくなってる気がする。

また罪悪感がにょきにょきと。
私が秋津家の男の幸せを邪魔する、第二弾。
この間の飲み会で可愛い柴山さんともっといい感じなったかもしれないのに、私が邪魔をしたから。


「美味しいね、もっともらって来ようか?」

示現君が気を遣ってくれた。
まだ友達ぶりたいままらしい。
さっきまですごく美味しく食べてたけど、今はそれはいらない。

「ねえ、どうして予定外の一人は嫌なの?」

普通にそう聞かれた。
だって、もともと柴山さんが・・・・・、そう言いたいけど、それだけじゃない。
西方さんと陽は合わないよ。
何でそう思ってるのか、だって西方さんみたいな人はなんとなく気が強くて、陽の優しさが都合よく使われそう・・・・。全部勝手に私が思ってる印象だけど、なんとなくそんな感じで嫌な気分になる。

「いいんじゃないの?綺麗な人がいいか、可愛い人がいいか、どっちがいいかは陽が選ぶんだし、本当の姉だとしても勝手に操作は出来ないよ。」

「示現君はそうなんだ。気が強そうな女の人でも綺麗だったらいいんだ。」

言いがかりのように言ってしまったかもしれない。
示現君はそんなつもりで言ったんじゃないってちゃんと分かってるのに、言ってしまったからもう取り消せない。
そんな今の私こそ嫌味なくらい気の強さを見せた顔つきだったかもしれない。

「そうだね、僕は嫌いじゃないかも。強いところもあれば弱いところもあるよ。見た目じゃわからないこともあるよね。」

「知らない。」

席を立った。
部屋を出てトイレに行った。

この間は堂々と陽と喧嘩して、今日はこっそりと端の席で示現君に言いがかりをつけて勝手に席を立った。

まったく反省してないじゃない。


トイレの鏡に映った顔はやっぱりきつい目をした可愛くない女だった。

「あ、亜紀、いい感じで八文字君と仲良しだね。」

「喧嘩した。」

「ええ~、なんで?なんで今日も喧嘩しちゃうの?本当に酒癖が悪いの?」

「そんなに飲んでないよ、多分。」

「じゃあ、なんで?さっきまで壁際で二人で仲良く話してたのに。いい感じだったよ。」

「それは幹事だから、その打合せと反省会。」

「反省会でも何でも楽しそうだったけど。」

「そんな・・・・・普通。」

お互いに仲はいいけど、だって私には他に誰もいない。


「で、今度は何で喧嘩したの?誰か邪魔しに来た?」

「来てない。誰も来てくれないよ。」

「邪魔して欲しいの?せっかく席も譲ったのに。」

「ありがとう。示現君はお肉を食べてる。美味しいらしいよ。」

「亜紀、よくわからない。どうしたの?イライラしてる?」

だって・・・・・、なんでこうも上手くいかないんだろう。
今度こそ陽のためになるようにって思ったのに。
目的の半分・・・三分の一は、そうだったのに。

ため息をついた。
身勝手な女だとやっぱり反省した。
自分の意見を押し付けるなんて、姉じゃなくて、母親でしょう。

重症だ、こりゃあ。

そして今日、謝るべきは私が示現君に。そういうことだろう。


トイレに行って、もう一度しっかり鏡を見て、無理に笑って、その作り笑顔の不気味さにがっかりして、自分の席に戻ることにした。

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