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31 あの日にプレイバック ~つくしの知らない土曜日の時間

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疲れたと思う。
体が。

お腹が空き過ぎて、ちょととだけご飯を食べて。

やっと自分の部屋に戻ってきて軽くシャワーを浴びて着替えて横になった。
疲れた。

友田さんには着いてからでいいから連絡が欲しいと言われていた。
携帯を手にベッドに横になって無事に帰って来たことを告げる。
ついでにご飯のお礼を。とりあえずそれだけにした。

すぐに電話がかかってきた。

「つくしちゃん、何してる?」

寝てるに決まってる。
疲れてるのに。

「ゴロゴロしてます。」

「あんなに寝てたのに?」

座ったり立ってなかっただけです。

「友田さんは何してるんですか?」

「ソファでゴロンとなって本読んでる。」

友田さんも寝てるじゃん。

「明日は月曜日だね。」

「はい。」

「ねえ、段田君にバレるとちょっと恥ずかしいかなあ・・・。どう思う?」

「・・・どうしてですか?」

「なんとなく探りを入れたこと。後で、『ああ~。』なんて思われるかも。」

さり気なく聞いたって言ってたのに。

「それはちょっとわかりません。でも噂になるのはちょっと・・・。」

目立たないらしい二人でもあんまりバレたくはない。

「せめて同期とか同じ課なら一緒にご飯も食べれるのにね。」

「いいです。別々で。」

「なんだか冷たいなあ。」

何となく呼び捨てとそうじゃない時を使い分けてるみたいだけど、いきなり呼び捨てで呼ばれても困る。
うっかりがないとは言えない。
ランチの話は諦めて週末のデートの話をしている友田さん。
どんな顔してるんだろう?
最初の会話は『どこへだよ。』だったのに。
今は優しい声で。


『聞いてる?』

「はい!!聞いてます。楽しみです。」

『眠い?』

「はい、まあまあ。」

『じゃあ、もう寝る?』

電話越しのそんな言葉にもドキドキする。

「・・・その内に。」

週末の予定は考えておくことにして、友田さんがあくびをして電話はおしまいになった。

携帯を眺めて目を閉じた。



朝、ぐっすり眠れていい調子。
自分の席に行って荷物を下ろすと弥生さんが親指を立てた。
・・・・なんで、どこまで?
首をかしげてわからないふり。
でも顔色は正直だったと思う。熱い。
しばらくしてから金子さんを見ると気が付いたらしく、やはりニッコリ笑われた。
かっこいいけど、別にいらないです・・・・。
間に合ってます、なんて言えるわけない。

酔っぱらって迎えに来てほしいと直接お願いされたあの電話、誰が聞いてたんだろう?
金子さんが部屋の隅っこに連れて行ってくれたと思ってた。


そしてお昼。やはり弥生さんに誘われた。
やはり私も聞きたい。どんな感じだったのか、そして女の人のことも、出来たら。

「かなり友田君、酔っぱらってたけど、知ってる?」

「・・・はい。」

あれ?弥生さんは知らない?いろいろと。
朝のあの合図は何だったの?

「ちゃんと話出来た?」

「・・・はい。」

やっぱり知らないらしい。

「そう、良かった。なんだかハッピーな顔してたからうまく言ったんだなって思ってた。」

「・・・はい、ご心配かけました。弥生さんは楽しかったですか?盛り上がりました?」

「まあ、そうかもね。ほとんど出席したからね。」

「皆仲がいいんですね。」

「そうだね、平均的にね。」

「辞めた人まで来るんだから、きっと仲がいい年なんですよ。」

さり気なく『辞めた人』を出してみる。

「そうだね、来てた来てた。転職がうまくいったか、幸せか、そう言うことだよね。」

何となくさっぱりとした言い方。
やはりあんまり知らなそう。
まあ、いいや。


「はぁ~、でも面白かった。すごく酔って、何故か金子妻に介抱されてて。最初誰もが彼女が来たかと思ってざわざわしてた。だってすごく綺麗な人だったし。ほとんど見せつけるなと罵られてた。金子君の奥さんとわかってみんな納得してた。ちょっと気の毒だったけど。」


ははははは・・・・・笑う声も出ない。
良かった時間差で呼んでもらえて。


「なんだか部屋の隅に追いやられて金子妻相手にいろいろ話してたよ。」

「そうなんですか?」

「金子妻も嬉しそうに話を聞いて笑ってた。」

面白かったって言ってたらしい。
何を話したんだろう。


「で、つくしちゃんはいつ会ったの?」

「はっ・・・・土曜日の夜ちょっとだけ。」

「え、あの状態で?ちゃんと話出来た?」

「あああ、まあまあです。」

「ふ~ん。」


一応誤魔化したつもり。


「弥生さんは二次会に行ったんですか?」

「うん。半分くらい参加してたから、みんな暇だよね。」

「誰かの話題も一度くらい出たけど、本当に少しだけ。同期の半分にライバルはいないよ、多分。」

そう・・・でしょうか?・・・・良かった。

「だってあの状態だから、もし下心あったら介抱するし、送ったりするでしょう?」

「なるほど。」

「あっさり放っとかれてたしね。」

「だって藍さんがついてたから。」

「まあね。金子君が面倒を見るって思うよね。」

「ちゃんと歩いてましたよ、少し酔ってはいても、話もできたし。」

少しは。

「もう大丈夫?」

「・・・はい、多分大丈夫です。」

「もっと早くに相談してくれても良かったのに。」

「そんな、相談するつもりなんてなかったです。遠くから見てるだけで。」

「・・・の割には突撃したよね。」

「あれは・・・・・・分からないですが、発作です。久しぶりに出た発作です。」

「ちょっと前のことなのに。随分昔のことみたい。」
同じく、そう思います。

気が付かなかったけど、離れたところで友田さんも金子さんと食事してたみたい。
トレーを持って金子さんがやってきた。

「羽柴さん、これ、藍から預かってきたんだ。部屋に帰ってのんびりしてるときに楽しんでって伝言だよ。」

渡された封筒には薄いケースみたいなものが入ってるみたい。
何だろう?

「何でしょうか?ありがとうございます。今晩見てから明日お礼をお伝えします。」

封筒に『開けるな危険。』って小さく書いてあった。
言われた通りに部屋で楽しもう。
何となく友田さんの酔った時の写真かな?って思ったから。


それはそれで早く開けたい気がする。ワクワクです。


去り際の金子さんのにっこり顔もそう言ってる気がする。
隣の友田さんを見る。
普通の顔。目が合うと少し緩んだ表情に。

金子さんが先に行くと『じゃあまた連絡するから。』と小さく言われた。


「はい。」待ってます。


しばらく歩いて行く背中を見ていた。


「もう、良くない?後姿だし。」

隣から弥生さんが冷静に言う。
うっかり見過ぎたかもしれない。

「後姿もかっこいいなあ~、なんて思うんだね。」

「別に・・・・。」

かっこいいです。
どこから見ても、そうは思ってもらえないのが不思議です。

「二人の時は、優しい?」

「はい、すごく。」

「・・・・そう。なんだか聞いちゃいけなかったみたい。」

「何でですか?内緒ですか?」

「・・・想像したくない。」

いいです。しないでください。
その分私が思い出してます。



午後も仕事は普通で、休憩もちゃんととった。

夜、くつろいでるときに思い出して藍さんからもらったものを開けた。

『開けるな危険。』って、何だろう?

中から出てきた小さな記録メディア。
でも中身は想像した写真じゃなかった。
いきなり、ちょっとうるさい雑音に交じって声が聞こえてきた。

良く知ってる声とは少し違う。
でも誰の声だかは分かった。
自分の名前が何度も出てきた。
名前だけ知ってる女の人の名前も出てきた。

友田さんの酔っぱらった声。

藍さんが友田さんを介抱しながら、こっそり録音したみたい。

途中聞くのが恥ずかしくなった。
完全に酔っ払いの語りだった。

友田さんの記憶がないのは幸いだ。
とても聞かせられない。

全然知らなかった話もあり、気がついてなかった友田さんの気持ちも入ってた。
藍さんからのプレゼント。

明日お礼を言おう。

二度と聞くことはないかもしれないけど・・・・・・。

やっぱり恥ずかしい。

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