小さな鈴を見つけた日 

羽月☆

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26 花柄と帽子とサングラス

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結局男の人の服はそうそう選択肢が多いわけではなかった。
ちょっとだけ小花柄を着せたい気持ちにもなったけど。

「生まれてから今まで、花柄を着たことはないと思うよ。それは無理・・・。」

手にして当てて見せたのに、鏡も見ずにしぶられた。

「よく見ないとわからないくらい小さいですよ。」

意外に可愛いんだけど、私は好きなんだけど。

「もっと濃い色なら・・・・これはちょっと。」

地の色は白で黄色やピンクの小花が散っているシャツだった。
店員さんに他の色を聞いてみたけどなかった。

「最後の一点です。」

「七尾さん、ラストワン、他は売れたみたいです。」

買った人がいる事実を前にしても首はたてには動かず。
拒否された。

残念。


だって、それ以外だったら文字かチェックか、ボーダーか。
つまんない。

出来るだけ明るい色を勧めた。


不安そうだったので試着室に連れて行って、着替えてもらう間カーテンの外にいて。
声がかかるとカーテンの中に入って見た。
満足そうな顔で見せてくれるから、実際はなかなかだと思ってるんだろう。

「サイズは大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよね?」

後姿も見せられた。

「いい感じです。」

満足そうに笑い合い、外に出た。

脱いでる間、靴やバッグ、ベルトを見たりする。

決まったものを店員さんに預けて七尾さんがやってきた。

いきなり帽子をかぶせてみる。
似合うと思うけど?

「どうですか?」

鏡を見て少し斜めに動かしたりしてみる。

鏡越しに見てても真剣だった。

「ねぇ、やっぱり急にここまでは無理かな。」

「ここまで?」

「何でいきなり帽子までかぶるようになるの?」

「似合うと思います。」

うれしそうな顔はしたけど、もう少し服を見たいと言って帽子は棚に返された。
またまた残念。

後はすんなりと勧めたものを体に当てて、選んでいって。

3パターンくらい出来上がった。
会計をしてお昼ご飯にする。

大きな紙袋を提げているからゆったりとした席のところを選ぶ。


「リンちゃん、疲れた?」

「大丈夫です。楽しかったです。あの花柄と帽子が残念でしたが。」

「だってあれ両方身につけた状態で会社の人に会ったりしたら恥ずかしい。」

「じゃあ、サングラスでもかけますか?」

「それもないな。」

「慣れれば平気です、花柄も帽子も。」

和食のお店でトレーの上に何種類も小鉢がついていた。
週末のお昼でもそんなに混んでない。
ゆっくり食べながら話をして、のんびり出来そうだった。

「じゃあ、来週、どこかに出かける?」

「鈴ちゃんの予約が入らなかったら。」

「ああ、なんだか習い事するみたいだね。ピアノの上手な男の子がいるらしくて、すっかりその子に憧れてお願いしたみたい。」

「ピアノはあるんですか?」

「うん、家には、僕が・・・・。」

そこで言葉がつまる。

「七尾さん、ピアノ習ってたんですか?」

「ああ・・・・うん、少しだけ。」

「何で今途中でやめたんですか?僕が・・・・・なんですか?」

「僕が子供の頃の物ならって、そういうこと。」

「もしかと思いますが、クラスの女子でピアノが弾けるかわいい子に憧れてとか?」

「昔のことだよ。それに才能なくて、小学生の頃まででおしまい。今は弾けない。」

「やはり兄妹だったんですね。同じ動機だなんて。せめて鈴ちゃんがたくさん使ってくれれば、ピアノも満足ですよね。ずいぶん長い間インテリアだったんですか?」

「まあね。」

「いいなあ、ピアノがうまい男の子。憧れる気持ちも分かる。」

「リンちゃんは?何か習い事してたの?」

「小さいときのスイミングだけです。部活もしてないくらいなので。」

「ああ、運動は壊滅的だったんだよね。料理が得意なら良いじゃない。そのうち披露してもらおうっと。」

「普通です。」

過剰な期待は困る。
知識と技術は別物だし。

「お腹いっぱいになったら眠くなります。」

「ほら、やっぱり言った。だから言ったのに。」

「何をですか?」

「明日眠いっていっても知らないよって、絶対言いませんって言ってたじゃない。」

ん?言った?

「だから早く寝ようって言ったのに、なかなかソファから動かないから。」

思い出した。
そんなやり取りをしたかも。

「お腹いっぱいになって眠くなるのとは違いますよ。」

「そうかな?でも本当になんだか体が重い気がする。何でだろう?間違いなく運動不足じゃないと思うんだけど。」

そうなんですか・・・・。

「デザート買って、部屋で食べない?」

・・・確かにあの部屋には又行かないと、荷物を預けてあるから。
だって、何でドライヤーまでバッグにつめたんだろう、自分。
パジャマとドライヤーと化粧品。
さすがにそれを持って買い物をする気にもなれなかったから、あの部屋に置いてきた。

「何食べたい?ケーキ?アイス?」

「美味しそうなもの。」

そりゃそうだ。
お会計は私が払った。
いろいろとお世話になったから。

何度も飲みに行って奢ってもらってるし。
そうご馳走したなんて言える金額じゃないけど、少しずつ払って行こう。

頭の中が誤解だらけの情報でゴチャゴチャだった頃。
ちょっと前のことなのに。

隣接のデパ地下でケーキを買った。
渋いゼリー、コーヒー濃いめと季節のフルーツのタルト。

半分づつ食べるから二種類食べれる。

「デザートも作れたりするの?」

「無理です。」

「即答だね。」

「本当に・・・・作ったことないです。」

クリスマスもバレンタインも、イベントはさほど自分の中では盛り上がらなかった。
自宅でキッチンに立っていた記憶はない。

「別に、聞いただけだよ。」

「はい。」

部屋に戻りケーキの箱は一度冷蔵庫にしまわれた。




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