小さな鈴を見つけた日 

羽月☆

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21 新たな真実

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何年ぶりだろう。
自分でも顔がよく見える。

笑えるくらい、自分でも見慣れない。


顔の周りに髪の毛がない、洗うのも、乾かすのも楽だった。

愛用のターバンと、ヘアゴム。
顔を洗う用のターバンだけでいい。
ヘアゴムも鈴のおさがりだが、捨ててしまおうか。
手に取って見つめる。
まあ、洗濯してから考えよう。


『表情が見えないから分からない。』そう言われて、次の日には髪を切った。
別に伸ばしていたのにも、彼女の後輩が言うような理由なんてない。

ただただ面倒だっただけだ。

さっぱりして手軽になった分、マメに髪を切りに行く必要も出てきたが駅前の安い所で20分くらいで済むだろう。
たいした手間ではない気がしてきた。

ケープを外されて自分の姿を見て、普通のサラリーマンだと改めて思った。
父親にも見える年のサラリーマン。

本当に思い立った第二弾。

そのまま電車に乗ってシャツとスーツを買い、ビジネスシューズも買った。
面倒になったら、また前の格好に戻せばいい。

ちょっとした心境の変化だ。


月曜日、変化した自分にさすがに周りがびっくりした。
ちょっとした心境の変化だと言ったのに、何か大きな事情があるのではないかと探るような顔々。
システム部は男性社員ばかりだったし、あの彼女のように勝手にストーリーを生み出すような自由な発想の持ち主がいないのは助かった。

その当日に廊下でその彼女に見つけられた。

最初は気が付かなかったらしいが、名前を呼ばれて振り返ったからバレた。
驚きに目が丸くなる・・・という顔をしていた。


彼女に言いつけるだろうか?
彼女はそれを聞いて、何を思うだろうか?


当の彼女とは会うこともなく、兵頭がひょっこりやってきた。

「何?何があったの?」

「気分転換。」

「何で?気分を変えたいことがあったの?」

しつこい、この間も何やかやと聞いてきた。

その情報がどうなったかは分かってる。

「禿げそうだったんだ。髪は重いし、絡まるし、抜けるし。だから切った。」

「それは気分転換じゃないよね。薄毛への恐怖と禿げ回避?」

「そうだ。」

納得したか!!

「じゃあ、これは?」

服を指された。靴まで見られた。

「髪型に合わせた。」

「ふ~ん。」

信じてるのか、いないのか。

「まあ、振られたんじゃなきゃいいや。」

小声で言われた。

振られたんじゃない・・・・と思いたい。
まだ、可能性はあると。


本当に嫌なことを言う。
勝手に世話を焼いておいて、何て言い草だ。
もし、もし、振られたら・・・・奢らせてやる。



木曜日、すっかり自分も周りも自分の『今』に慣れた。


エレベーターに乗り込む彼女の姿を見た。
こっちには全く気が付いてない。
次に来たエレベーターで降りて急いで彼女の姿を探す。


何とか間に合ったらしい。

声で自分だと分かったらしいが、振り向いた顔がびっくりしていた。
そのまま少し立ち止まり。


またお願いして・・・この間のお店に一緒に行った。

てっきり情報が後輩や兵頭からいってると思ってた。
気分転換の変身。
その理由には思い当たると思ってた。
彼女だけは分かるだろうと。

それなのに・・・・・。

なんで会社を辞める話になっているんだろう?

「この間は何も言ってなかったから、私もビックリしました。沙良ちゃんが・・・・せっかく知り合いになれたのにって寂しがってましたよ。」

そう言われた。

あの後輩がそう言っていた?寂しがっていた?
自分が辞めると言う話も作り出したのか?
やはりどんなことにもストーリーをつけたくなるらしい。
ただ、突飛すぎる。

もっと・・・失恋とか、考えないのだろうか?

退職、転職、真面目なスタイルで挨拶と引継ぎ。

目の前の彼女もいい具合に同じ気質らしい。
仲がいいのもうなずける。
二人向き合い、どんどんストーリーを練りあげたのだろうか?


「辞めないけど。」

事実を早々と告げた。シンプルに。
この間のこともある、誤解は早めに解いておこう。
変な噂が広がっても困る。
手遅れじゃない事を祈りたい。

なかなか笑顔を見せてくれない。

誘っても返事ももらえずに。

普通ここまで誘えばうっすらと気が付くはずなのに。
難しい・・・・。

彼女が席を外したタイミングで会計をした。

頼んだメニューも全て空になってる。

しばらく帰ってこない。
ぼんやりと待つ間にどうしようかと考える。

もっとストレートに言えば、ちゃんと答えてくれるんだろうか?


手をつなぐように、軽く重ねて歩く。
駅の混雑の中を突き抜け、目当ての場所へ。

平日だし、思ったより人が少なかった。
端の方へ歩いて行き、話をする。


やっと分かってくれたらしい。
その一言をきちんと言えた自分。
それで伝わらなければ諦めるしかないくらいだった。
『犬の彼』は本当に何でもなかったらしい。
そこは自分も誤解していた。
じゃあ、なんであんなにムキになって否定したんだろう、と思わないでもない。

丸ごと忘れていいなら忘れよう。

最初の頃、名前を知った。
パスワードを設定するのを見ていたのも本当だ。
確かに他の人のパスワードには興味がなかった。
就職して以来、それを見て、覚えて、記憶にとどめてたのは彼女だけだ。

ビルの屋上で抱き合ってキスをして。

冷えた手をポケットに大切にしまいながら、その中で絡み合うように手を重ねて駅まで来た。

明日電話をすると約束して別れた。




電車に乗って兵頭に報告すべきか考えた。
自分が兵頭に伝えて後輩に伝わるのが先か、彼女が後輩に見破られて兵頭が自分を揶揄いに来るのが先か。
彼女がどのくらい内緒にできるか楽しみにしよう。


もしかしたら意外な尾ひれがついて、真実もゆがめられて伝わるかもしれない。
それはそれで楽しみだ。


内緒のまま週末を迎えた。
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