小さな鈴を見つけた日 

羽月☆

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11 ぼんやりと思い出してしまうこと

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壁に向かっていた時間はかなりだったらしい。
心配して沙良ちゃんが迎えに来てくれた。

「すず先輩、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。」

「良かったです。遅いから心配しました。」

「ああ、ごめんね。」

背中を壁から起こして出口に向かう。
沙良ちゃんはついでにトイレに行くらしいので先に出た。

あの七尾さんの前には戻りたくない。
今なら沙良ちゃんの席も空いてるだろう。
失礼じゃないだろうか?
いいだろうか?

部屋に戻ると七尾さんの席の向かいも空いていた。
どうしようかと思ったけど、元の自分の席も空いていて。
するっとそこに戻った。
落ち着いた。
ここでいい。ここがいい。

すぐに沙良ちゃんも戻ってきた。
私を見て、七尾さんの向かいの席も見る。
沙良ちゃんは七尾さんの向かいの席に行った。
本当に気が利くんだと思う。いい子だ。

いつの間にか料理も随分出ている。
そういえばちょっとしか食べてないじゃない。

新しいお皿から少しずつ取り食べ始める。
お酒はもういいや。
せっかくなので週末の分も食べたい。
週末はのんびりしたい。

そういえば・・・・。

携帯を見る。
特に誰からも連絡はない。

明日・・・・。

予定なし。

それでも今、ホッとした。



しばらくしてデザートもきた。
さっぱりとしたアイスの三種盛。
トッピングのソースとナッツがうれしい。


デザートは十分堪能した。


会計を沙良ちゃんが徴収する。
ごちそうになります。
みんな分かってるのかなあ?
言い出せずにいる。

それなのに最後にまた沙良ちゃんがしめた。

「主役の先輩にごちそうするのに皆さんのお心に感謝です。はい、先輩、お礼をどうぞ。」

もう・・・・。

「皆様、ありがとうございました。ごちそうさまでした。」

ぐるっと見渡したけど、さりげなく七尾さんのあたりは視線を下に下げて。

「皆様の応援に恥じないようにこれからも頑張るようです。大口開けて食べてるすず先輩を見かけたら私まで一報ください、引き締めますので。それでは、皆さんありがとうございました。」

拍手で終わった。
私に?それとも沙良ちゃんに?

ばらばらと荷物を持って帰り支度をする。


「すず先輩、せっかくなのでキープしましょうね。でも今週は本当に食べてないですよね?大丈夫ですか?もう十分きれいなので大丈夫です。栄養つけてくださいね。」

さっきとはまた違ったことを言う。

「大丈夫だよ。」

「なんだか・・・嫌な予感がするんですが。また勝手に・・・してません?」

「もう、してないし、いったい誰によ。」

「それは知りませんが。」

笑顔を作る。大丈夫。

「ありがとう、沙良ちゃん。」

「やっぱり変です。ちょっと変です。」

そう言う沙良ちゃんに背中を向けて、上着を手に持って外に出る。

外でお疲れさまと言い合い散会する。
1人改札をくぐり電車に乗る。


またまた部屋でぼんやりして、気が付いたらお風呂にも入らずに座ったままだった。

ちょっと久しぶりで酔ってたのかもしれないし。
何を考えてたのか記憶もない。
実は寝ていたのだろうか?


お風呂に入って歯磨きをして寝た。



週末部屋にいるとぼんやりしそうで、電車に乗って気分転換の買い物をした。
実は痩せたので洋服のサイズが変わったのだ。
クローゼットの隅の服もいくらかは復活したけど季節が合わなかったり、シミに気が付いたり。
なので新しい服を買いに来た。

目移りする、秋の色。
シックな感じに仕上げたい。
せっかくなので少し大人っぽい服を選ぶ。

スカートとブラウスを買って満足する。
早速来週からのローテーションに入れよう。
テンションをあげる。
こんな楽しい気持ちになるなら太らないように気をつけよう・・・。
何で今まで気を付けてなかったのか、自分でも不思議なくらい。
プロなのに・・・・。

久しぶりに通ったらいつの間にか新しいお店に変わってた。
確かお花屋さんだった気がする。
ドライフラワー専門店。
花びらを固めて作ったピアスなども置いてあったので買ったことがあった。
繊細過ぎて落として花弁がかけてしまい捨ててしまったけど。

いつの間にかペット用品店になっていた。
ショーウィンドーには小型ペットのぬいぐるみに着せられた服が売ってあった。
買ったことはないがそれなりのお値段がするのだろう。
トニーは首輪もシンプルだった。
あんな大きくて毛並みが奇麗だったらあえて服を着せることもないだろう。
やっぱり小型犬の服が多い。
ほぼ着せ替え人形だ。

暑くないのだろうか?
コートの上にセーターを着せられてるような感覚?
靴や眼鏡まで。

じっと見て、やはり理解できず。

首輪くらいはかわいいのを買ってあげたいと思うかも。
そんな気持ちからエスカレートするのだろうか?

人間の満足。
飼い主の満足。


携帯で時間を見たら川瀬さんからメッセージが入っていた。
大分時間がたってしまっていた。

『こんにちは。明日トニーはいないのですがお食事はどうですか?お時間ありましたらご一緒しませんか?』

明日のお誘いだった。
しばらく悩んだ。
食欲はあまりないまま。

『昼過ぎまで用事があるので』そこまで入れて、しばらく止まった。

『午後から夕方にかけてなら空いてます。ただ食事とお酒は控えたままなんです。ダイエット成功の打ち上げ会でちょっと具合が悪くなって。すみません。お茶でしたら・・・・ダメでしょうか?』

しばらくしたら返信が来た。

『もちろん大丈夫です。お茶しましょう。時間と場所を教えてもらえれば、どこでも大丈夫です。』

しばらく考えて。
少し離れた駅で待ち合わせをすることにした。

別に午前中することはない。
でも出かけよう。


そう思ったのに、朝からだるくて。
やっぱり無理な痩せ方だっただろうか?

黄粉ミルクを飲みながら最近すっかりおなじみのぼんやりモードに入る。

お昼になるころに着替えと化粧をして出かけた。
何でだろう。最初の頃のドキドキがなくなってる。
むしろ罪悪感だらけ。


なんで誘われるのか、勘違いじゃなきゃ罪悪感だけしかない。


気が付いてるだろうか?
優しい川瀬さんは。

駅で会って少し歩く。

トニーがいない、ふたり。
ちょっと距離感が微妙に違うだけで落ち着かない。

少し無口になったかもしれない。

落ち着いた喫茶店に入った。
パンケーキが有名らしい。

高さのあるパンケーキにちょっとひかれる。

「なんだかすごく痩せたような気がします。服のせいですか?」

いつものようなジーンズとパーカーとは違う。
昔の切れなくなったシリーズの服を着ていた。
少し緩いくらい。

「ちょっと昔の痩せていた時の服です。前はこのくらいでした。」

「そうなんだ。」

メニューに視線を落とす。
マシュマロショコラ。甘そうだけどちょっとお腹も空いている。

それに決めた。

「じゃあ、パンケーキ、トッピングにフルーツとナッツを。」

そう頼んだ川瀬さん。

「食べられそうだったら、少し食べませんか?」

「実は一口食べたかったです。」

焼かれて出されたパンケーキは美味しそうで。

「川瀬さんは甘い物はよく食べるんですか?」

「一人では食べないですよ。でもせっかく知らない店まで来たので。」

「すみません、全然関係ない駅まで来てもらって。」 

「いえ、別に。毎週トニーと散歩だけだと思ってますか?」

顔をあげると笑顔でそう言われた。

「そうですよね・・・・。」

「嘘です。ほとんどトニーと遊んでます。結局実家に送って行っても部屋で遊んだり、シャンプーしてあげたり。まあ、僕が買ったんで当然ですけど。」

「今日は?」

「姪っ子が友達と散歩に連れていくらしいです。なので今週は時間がたっぷりあったんです。」

「そうなんですか。そういえばトニーは洋服は着ないんですか?昨日気が付いたらお気に入りのお店がペット雑貨屋さんになってました。小さい犬はよく服を着せられますよね。」

「確かにトニーは大きいですから。雨の日が続く時期は僕のいらない服を着せて散歩したりします。そのまま捨てれますし。濡れると大変なんです。でもあまり好きじゃないようです。」

嬉しそうにトニーの話を語る。

「クリスマスの帽子を大人しくかぶって、赤いケープをつけて写真をとられてましたが、終わった瞬間にグルグルと暴れてました。」

「川瀬さんは?その時は川瀬さんも着ましたか?」

「僕は写真係です。プレゼントを買ってあげるだけでサンタ役は勘弁してもらいました。」

優しい笑顔で、姪っ子たちと楽しんでるのも想像できる。
思わず笑顔になる。

そういう人だと思う。

時々冷静に川瀬さんを見てしまう。
そして、その向こうに誰かを。
家族と一緒にいる、大切な人と一緒にいる誰かを見てる。

自分の笑顔がゆっくり戻る時に思い出す顔。
会社で時々見かけた顔、会社以外で一度だけ見かけた顔、昨日話をしてくれた顔。

ここにはいないのに、どうしても消せない影みたいに感じ取ってしまう。

 
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