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9 彼氏と彼女の存在について

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誰にでも笑顔を向ける先輩に、特別に見られてるなんて思ったことはなかった。
ただ私は配属が一人で同期はいなくて。
先輩ばかりに囲まれていて、一人で不安もあった。
隣の百合先輩が優しくて、いろいろと教わり、ランチも一緒に行って。
百合先輩も同期は男二人で、そんな事情もあって寂しかったらしい。
私が入るまでの2年間、ずっと一人でランチに行ったり、他の課の同期と一緒に行ったり。
私が入ってきてくれて、とてもうれしかったと言ってくれた。

松田先輩が何かと百合先輩と一緒の私に話しかけてくるのも、そんな事情のせいだと思ってた。
隣の席の後輩、一人だけ入ってきた後輩。
だから、いつも近くにいてくれて、優しい笑顔で気を遣ってくれて。
隣の席だから他の先輩より話をしてたのは明らかで。
でも普通の話。声を掛けられて少しだけ話す。
そんな事が日常で、それを普通の普通だと思っていて。
ただそれも仕事の時間と、みんなで行く飲み会の時とか、そんな時だけ。

廊下で知らない人と話してる松田先輩を見たこともある。
いつも誰に対しても、自分に対してと変わらない笑顔で。
だから絶対無理だと思っていた。
もし気づかれたら優しい先輩を困らせるだけだと思ってて。
出来るだけ普通に普通にって。期待もしない、行動もしない。
バレないように、誤魔化したくてわざと冷たい反応をして、距離を感じてもらえる様にすら振舞ってしまうこともあった。

いろんな人と出会うような場に行って、精いっぱい愛想良く振舞って。
それでもなかなかいい出会いがなく百合先輩に愚痴ったりして。
本当は寂しくて部屋飲みなんてすごい状態で、週末はだらしないほどにグダグダに過ごしてて。
ずっとずっと少しも変わらない状況に勝手にイライラすることもあって。

本当に松田先輩が男の人と付き合ってる・・・、なんて噂が聞こえてきたらショックだろうけど、本当に忘れられるって思ったのに。自分はまったく守備外って分かったら、落ち込んでも彼女が出来たっていう噂よりはずっと楽に忘れられそうだなあって思ってた。


最初は話しかけられるとうれしくて、ニコニコと返事していたと思う。
それなのにいつの間にか、意識的に失礼な反応をするような自分になって。
でも、それでも先輩の態度が全然変わらなくて。
だから余計にイラついていた時期もあった。

昨日の夜もずっとそう言い聞かせて・・・・。
絶対勘違いしないようにって。
そんな方向には頑張ってきた。



絶対、感激の涙なんて流さないって思ったのに。
冗談で言われたような涙じゃないけど、止められない。

ただ、うれしくて。

ずっと心の底では一番こうなりたかったって思ってたんだと分かって。
隠して蓋をして見ないようにして、見えないようにして。
自分でもうっかりすると忘れてしまう・・・・なんてこと絶対ないけど。

声が出た。鼻をすする音も。
背中に置かれた手が離れてのぞき込むように動かれたのが分かった。


「どうしたの?緑ちゃん。」

「先輩の・・・馬鹿。」

「ええ~、何でよ。」

珍しく不機嫌な声を出す。

「ずっと我慢してたのに、諦めようって思ってたのに。」

「何でそんな無駄なことをしてたの?それにいいじゃん。そうしなくていいって。さっきみたいに本能のまま、求めたいまま、声に出して。」

それは・・・凄い言いようです。そうじゃなくて・・・・・。

「絶対可愛くなかった。せっかく優しく話しかけられても不愛想に答えてたから。優しさを勘違いしないようにワザと話を逸らしたりして。嫌われるかもしれないって思いながら・・・・。すごく辛かったのに。先輩はいつも変わりなくて。」

「可愛かったよ。話しかけたら一瞬だけうれしそうな顔をして、その後わざとむくれたような顔をして。時々珍しく素になって赤くなることもあって。本当に可愛かったよ。だから照れてるんだと思ってた。まさかそんなつもりだったなんて。何てやな奴なんだ。」

「ごめんなさい。」

「嘘だよ。本当にそんな上手にポーカーフェイスできると思ってるなんて。まだまだ甘いね。」

ペシペシとほっぺたを叩かれた。
顔が近い。

「昨日の夜も分かってたんですか?そんなにうれしそうでしたか?」

「うん。びっくりの後、すごく嬉しそうにしてたし、用心してるのは分かったけど、途中からは隠してなかったよね。お酒のせいかな?・・・で、とうとう本能が目を覚ましてあの写真みたいになったと。」


恥ずかしい。バレてたんだ・・・・。
ツンデレ猫がさらに背伸びしたみたいじゃない。
うれしさを隠し切れない尻尾がゆらゆらと揺れてたみたい・・・・・。
そうと分かるくらいに大きくゆらゆらと。


「それなのに誘っても来てくれなかったからがっかりした。だから朝、突撃しました。」

「先輩、絶対やりすぎです。あんな事、普通しません。強引すぎます。」

「だって熱烈な告白ですっかりその気にさせたのに、目が覚めた緑ちゃんはまったく記憶がないって言うし、あとは押しの一手で。さすがに新田さんに奥手の烙印を押されそうだったし。誰かさんは恋活に夢中になりそうだったし。」

「ずっと先輩の好きになる相手が・・・・男の人だったらいいのにって思ってました。そうしたら絶対諦められるからって。」

「はぁあ、何それ。ねえ、もしかして俺はそんな目で見られてたの?そっち?そう思ってたの?」

「ないんですか?」

「何が?」

「男の人に誘われたりしたこと。」

顔を伏せられた、ため息をついてる先輩。

隠したい?それともバカバカしくて呆れた?


「もしかして体鍛えてるから?それだけで?何、他にどこか変なとこある?」

真剣に聞いてきた。ちょっと面白がりたいのに、真剣すぎて怖い。

「・・・あの、その・・・ないです。」

「じゃあ、何でそんなこと思った?」


怒ってる?
えっとそれは・・・・。


「百合先輩が・・・・・。」

「何?新田さんが何?」

やばい、怖い。なんとなくとごまかすところだった?

「前にさりげなく聞いたときに、彼女も彼氏もいないらしいって言ってて。だから両方OKなのか、もしくはそっちとか、もしくはそういう噂があるとか・・・・。とりあえず可能性がゼロじゃないかもって思ってて。・・・・・はい。すみません。願望もあったりして。」

「信じられない、新田さん。『彼女はいないって伝えといた。』って背中を叩かれたのに。余計なことを言ってたの?・・・で、自分の好きな先輩を女に取られるよりは男に取られた方があきらめがつくと。自分から告白するって手は思いつかないの?」

「当たり前です。二度と会わないで済ませられる相手じゃないし、優しい先輩を困らせることはできません。」

「困らないのに。大歓迎だったのに。」


それは結果論。

「疑惑は晴れたよね?」

「はい・・・・・。」

「大体その気のない人とある人は分かるらしいよ。今までその手の誘いを受けたことないし。プロが見てもそっちの気はないってことだよ。安心して。こうなった以上は男に寝取られたなんて恥ずかしいよね、悲しいよね。女のプライドぺしゃんこだよね。」

「どっちもどっちです。女の人よりいいです。」

「ええっ、そうなの?分からないよ。もし俺なら女に負けたって方ががっかりする。その気が全くなかったはずなのに俺より女がいいなんて、どんなテクニックだよって。」

「私は・・・・まったく違います。」

「俺だって違うって。何で自分のとこだけ力入るの。やっぱり両方いけるとか思ってない?」

真面目な顔をして顎を掴まれた。
ちょっとずれたら首を絞められそうな・・・ちょっと怖い。

「もういいです。信じますから。」

顎を動かさないように小さく言った。

「当たり前だ。なんで。」

柔らかいのが好きなのに。そう呟きながら腰に手を当てられてその手が上に上がってくる。

「いいね、やわらかくて。ちょっと思ったより大きくて嬉しい。」

胸に手を当てられた。
今一瞬だけ太って良かったと思った。

「本当に気持ちいい。」

ゆっくりふくらみを持ち上げられる。

「・・・・太ったから。一年ですごく。」

「いい、痩せないで。全然太ってない。もう少し太ってもいいくらい。心配してたよ、最初。折れそうに細かったから。今は俺好み。ちょうどよく育ったね。」

包まれるように触られてキスをされる。

やっぱり違うらしい。そっちじゃないみたい。
嬉しそうに手が動いてるのが分かる。
すごく気持ちいいのは私。
耳元で甘く声を漏らす。

「本当に隠さないね。すっごくわかりやすい。うれしいほど正直だね。」

何を言われたか分かる。
隠せない。どうしても我慢できなくて。

「前からそうだったの?欲しがり?」

視線があう。目の前に真面目な顔をした先輩がいて。
手の動きも止まったまま。

「分からない。そんなこと。・・・・普通。」

感じやすいと言われたことがあるだけ。
あとは淡々と過ごしてたから。
酔っぱらったこともあると思うけど、びっくりするような報告も聞いてない。

「否定はしないのか。残念。」

顔を見たけど視線は合わなかった。

そんな事、絶対自分の方が経験豊富なくせに。
私の可愛い経験なんてどうでもいいでしょう。
そんな事を思ったけど、そんなことどうでも良くなってきたから。
与えられる刺激に声を抑えるのに必死になる。それでも漏れてしまう。
何度声を出していいと言われても、つい抑える。
体に必死にしがみついて声を殺すように俯いて。
それでも我慢できなくて、結局お願いしてしまう。もっとと。

逞しい腕を感じる。

先輩の腕だとたいていの女の人が折れそうなくらい細いんじゃないの?
そう思ったら何人もの女の人の姿がこの腕の中を通り過ぎたような気がして。
目を開けた。
キスをされてる途中だったのに。
急に開いた目にびっくりしたみたいで、動きが止まった。

「もっと・・・・。」

キスの途中言うことでもないけど。
ビックリした顔は喜んでくれて、笑ってくれた。

「うん、もちろん。」

キスを繰り返しながら自分からも唇を寄せて音を立てる。
冷たい耳を噛み、舐める。
きれいな筋肉をたどる様に指先を動かして時々強く吸いつくようにキスをする。
少し腰を揺らしながらお互いに胸から首に吸い付き合った。

「本当に好きだな、柔らかいし、きれいだね。」

胸を見ながら言う。ほとんど唇が吸い付く直前の時に。
恥ずかしさなのか、言葉じゃ物足りないのか唸る様に声をあげて顔を引き寄せた。
腰の動きを速めて快感を高める。
先輩の手が腰に来て後ろに倒れる。
上にまたがった形で自分から揺れる。
位置を変えて自分の感じる場所を探す。
時々突き上げる先輩の動きに声を上げる。

「もっと揺れて・・・・緑、もっと。胸が揺れるよ・・・・。」

胸を触られて持ち上げられる。
一人で揺れるには限界がありどうしても止まる。

「おねがい・・・・せんぱいも・・・・・。」

背中を抱き寄せられて先輩が上になる。
足を絡ませて腰に巻き付ける。
あとはもうガンガン押されるように突かれる。
あげた声が波を打ち、音が響き渡り、先輩の息も荒くなり一緒に押し上げられて何かを振り切った。

疲れた。
体に残るじんじんとした刺激と、乱れた息と、早打ちする心臓の音。
ゆっくり息を吸い吐くを繰り返しながらベッドに沈み込んだ。

ゆっくり撫でられる刺激に目を開ける。

「お風呂は?」

首を振る。疲れてるから、明日でいいです。眠いです。
口を動かしたけど声にならない。そのまま目を閉じて眠った。

ずっとゆっくりさすってくれる手の動きを感じてた、眠る瞬間まで。
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