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7 手離した糸の太さを知った夜。

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そう思ったのに、同期の飲み会にはホイホイと誘われてしまった自分。
だって鞠が『参加する。』と勝手に二人分返事をしたから・・・。


なんとなく席順とかグループとか出来てるんだろうか?
端にいる夏越君を避けてに反対端に座る。あからさまだろうか?
斜めには権堂くんグループがいて賑やかだ。
鞠曰く、修狙いとそのおこぼれ拾い隊らしい。
うっすらと眺めて話を聞いていた。


しばらくそうして、適当に参加する振りで食べて飲んで。
ふと視界に反対の端を入れたら鞠がいた。
私がいなくても仲良く話をしてるらしい・・・・・当たり前か。


「営業の浅田さんはやっぱり人気あるみたいだよね。」

『営業』『浅田』、そのキーワードに反応して顔を向ける。
やっぱりここにもあったのか、浅田さんへつながる糸が。
さあ、権堂君、知ってることをどんどんしゃべってください!
静かに期待する。
修ガール達からもその名前が出るくらいに、やはり注目されてるらしい。
無理もない。


「堀之内さんも人気あるらしいよ。」

そんな人はどうでもいいから・・・・・。

「二人とも仲がいいよ、一個先輩後輩らしいけど、同じ年みたい。浅田さんは優しいし、取引先にも人気があるね。僕はよくはわからないけど、多分夏越は直の先輩だし、たまに飲みに行ってるみたいだから詳しいかも。堀之内さんもいい人だよ。娘を溺愛してる普通のパパだけど。」

「やっぱり結婚してたんだ。何となく落ち着いてる気がした。」

盛り上がる一団。

今すごく意外な情報をゲットした。
こっそり引き寄せて握り締めていた細い糸・・・・、思ったより太くて、ちゃんと浅田さんにつながっていたらしい。
なんでそんな大切なことを教えてくれなかったんだ~、と叫びたいくらい。

でも今更、手繰り寄せるのは無理そう・・・・。
だって手放してしまったから。

ちらりと反対の端を見る。

鞠がいなくなって飯田君と女の子二人がいた。
やっぱり邪魔だったんだ。
四人は楽しそう。
あのままビアテラスの話も出来そうじゃない。
飯田君もそのほうがいいんじゃない?
勿論、名越君も。


じっと見てたら気がつかれたのか、夏越君がこっちを向きそうだったので、急いで視線をはがした。

一団の話題が浅田さんに戻ることはなく、もっと上の上司の評価が始まった。

権堂君の周りの情報を探る時期はもう終ったらしい。
初参加の私は何も知らない。
『浅田さんのことはあんまり知らない権堂君。そこにつながる近道はやっぱり夏越君。』
その情報だけで十分ではあった。
今更だけど・・・。

私は今日誰かとしゃべった?

静かに1人で食べて飲んで。



隣に鞠が来てやっと口を開いた。

「何でここにいるの?」

「別に深い意味はないよ。」

「そう。」

「次の予定決まったからね。ちゃんと一緒に行こうね。私も気晴らしがしたいんだから。」

「何?」

「え~、四人で行くって行ったじゃない。屋上ビアテラス。」

視線を向けると端の四人は相変わらず笑顔だ。
まあ、名越君は私が知るよりは、というレベルだけど。

でもちゃんと口が動いてる。しゃべってるらしいから。

「あの四人で行けばいいじゃない。すごく楽しそうだよ。」

「いじけすぎ。そんな可愛くない顔して。最初の頃は楽しそうに参加してたのに。楽しく食べて飲むんだから。はい、かわいい顔で笑って。」

無理やりほほを引っ張られた。

痛い・・・・・。

楽しそうに見えるじゃない。
どう見ても、いいじゃない、あの四人で。


いつの間にか周りが静かになっていた。

「権堂君、お疲れ様。相変わらず人気者だね。」

鞠が話しかけた。
修ガールズはいなかった。

「お疲れ様。それにしても久松さんも珍しいね。いつも夏越と話してるのに。」

なんでそう言えるの?
今までも席は離れていたのに。

「皆そう言う。ただ人見知りだから、最初に話した人の近くで安心してただけだよ。たまには違う人とも話しをしようと思って。」

端の席でひたすら食べて飲んでたのに、そう言ってみた。

「そう?誰かと仲良くなった?」

「・・・・・別に。でも権堂君とも研修以来初めて喋れたから。」

「そうだね。」

「権堂君は彼女はいるの?」

鞠が聞く。

「いないよ。こう見えて慎重なんだ。特に社内はないと思ってる。いろいろと面倒そうじゃない?」

「そうだね。でも逆に周りに内緒にしてるのに萌える子もいるし、勝ち抜いたと勝利を味わいたい子もいるかも。もしかして可能性がないなんて、彼女たちが知ったらがっかりだよ。」

鞠が言う。
いいの?そんな事言って。

「最初は珍しくて、ワイワイするだけだよ。女子はなんだか自分の気持ちだけで勝手に盛り上がるから、うっかり巻き込まれると痛い目を見るのは男だよね。」

「そんな経験が?」

「ああ、まだ未熟者の頃に。だから慎重なんだってば。」

自分の気持ちで盛り上がるのは当たり前なのに。
それが好きになるって事でしょう?
二人が分かりあえてる事実にびっくり。
鞠は見た目は『ガール』なのに、その辺の感覚は違うの?

勝手に浅田さんのとの再会をまるで漫画のように数パターンも妄想していた最初の頃の私、それは二人には理解されないんだろうか?

残念。


「あ、帰ってきた。」

鞠が小さく呟く。
ライバルなのに仲良くトイレ?
二人が帰ってきて、元の席に座る前に鞠に視線を止める。

「鞠ちゃん、今日彼氏は?」

「今日も遅いみたい。金曜日はほとんど駄目なんだ。」

今のは先制攻撃なのか、それともただの女子トークなのか。
鞠は彼がいるよと権堂君にアピール?

そのあと私に視線が来て、でも何も聞かれず二人に一瞥されただけで終った。

何・・・今の?
ライバル候補にもならないって、取るに足らないって事?

すごいショックが・・・・・。

後は本当に鞠を相手に飲んで、話をした。
それは最近のよくあるパターンだった。

結局誰とも話をしてない気がする。
今更使えない有力情報を一つゲットしただけだった。
既に手放した糸だけに、逆にがっかりだ。


私はいろんな意味で、つくづく残念な女らしい。




カレンダーに並んだ丸印。
浅田さんに会えた日。
数えても七回。目が合うこともない、すれ違うのみ。
夏越君は一緒にご飯食べたり、飲みに行ったり。
なんて贅沢なサラリーマンライフ。
その価値の有り難みさえわかってなく当然のように享受しているなんて、・・・・羨ましいを通り越して憎らしくもある。


それにしても人気者にとって、外野のざわめきはあんなに無感動なんだろうか?
モテ期到来!! 喜ぶのはもてない者だけ。
権堂君の台詞を聞いてびっくりしたけど、それは経験からの学習らしい。

人気者の浅田さんもそう思うんだろうか?

三個上だとはわかってる。
毎年新人が入ってくるたびにそんなことが繰り返されてた?
もっと直接的に行動した人がいてもおかしくない。
中には成就した人もいるかもしれない。


カレンダー横に並べてある会社の商品。
小さな動物が笑顔で会話をしてるような感じで並べてある。
気分で少し動かしたりして。
触ってるとちょっとだけ癒される。
そう思ってくれる人がいるから、いろんなものが企画発売されて、会社が回ってるんだ。

それでも寂しい週末の時間はまだまだあった。
癒されるのもほんの少しの時間だけ。

実家に帰ろうかと思わないでもない。
おいしくて懐かしいご飯が食べたくなる。

そう、結局寂しいんだろうか?

当たり前か。
慣れたと思った一人暮らしも、やっぱり寂しいまま。



月曜日、どんなに通勤が辛くても、早起きが辛くても、会社にいたほうが賑やかでいい。

規則正しくて、美味しいランチも食べられて。
一人じゃないんだから。




「遥ちゃん、週末何してたの?」

隣の先輩が聞いてきた。
毎週聞いてくれるけど、悲しい質問です。

「いつものように適当にふらふらです。」
と言っても、今週は近所のスーパー周辺ですが。

「甲斐さんは?」

「部屋でゴロゴロしてた。ほんとに化粧もせす、パジャマのままで。」

「旦那さんいなかったんですか?」

「そう。イベント出張。名古屋~。たまにはいいなぁ、一人。何にもしたくないし、しなくていいし。ダラダラしてもいいし。」

解放感を感じた笑顔でそう言う甲斐さん。

なるほど。ないものねだりらしい。

「遥ちゃんはご飯作る派?」

「最近ランチも楽しんでるし、飲み会で食べてるから自宅ご飯は質素です。ほとんど作るとは言えないくらいのものです。世の中の奥さんを尊敬します。」

「でしょう、面倒よね。結婚する前はマメだったのに、甘やかしたから、全くやらなくなっちゃった。最初が肝心よ。あとは子供ができた時に、しつけし直すしかないわ。」

はぁ。と大きくため息をつく甲斐さんだけど、休憩中や時間の空いたときには料理サイトをのぞいて、せっせと買い物メモを作ってるのを知っている。

偉いです。愛情です。
そして私に限って言えば、随分先の話になると思うのです。

心はからからに空っぽなのです。





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