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22 連休突入③

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大人しく二杯飲んで移動した。
夕方のライブが見たいと言うことだったけど、このままだったらもう一つ早いライブも見れる。

「場所が空いてたらいいなあ。」
持ってあげた荷物は重い。
ワインとコップとゴロゴロするためのシートがあるらしい。

「あとはスーパーが隣にあるのでおつまみ買えるし、ビールもワインのお代わりもそこでワンコインくらいで売ってます。」

駅から歩いて行く。
どこで・・・・と思うような、普通のビルの谷間、隣は大きな通り。
ここで?

でも人がたくさん、確かに赤い顔をして寛いでる気がする。
ステージもあった。
まずは場所を探した。
なんとか狭いながらも空いてる場所を見つけて、両隣に断ってシートを敷いた。
シートはすぐに広がった、ああ、ちょっと・・・・・、失敗かも。

せっかく大切に持ってきた小愛ちゃんの動きも止まった。


「良かったです。何とかゆっくり落ち着いて飲めそうです。」
それでもそう言い切った小愛ちゃん。

まあ、一応ね。

「本当にうれしそうだね。」

「それはもう、去年フラッと来て準備が全然だったから、後悔してたんです。今年こそはって思ってました。」

「もうすぐ始まるみたいだね。」

「そうですね、ラッキーです。二組見れます。宇佐美さん大丈夫ですか?」

「何が?トイレ?」

「違います。時間とか・・・・。」

「とか?大丈夫だよ。1人じゃあゴロゴロ出来ないよね。付き合うよ。ゴロゴロと飲み。」

「あくまでも音楽を楽しみますよ。そこは大切です。それがなかったら河原や公園でゴロゴロと変わりません。」

「公園は飲酒はダメかもね。河原はいいね。風が気持ちいいかもね。でもシートは小さかったね。」

そうなのだ、すぐに広げられたシートはとても小さかった。
ふたりで座るとゴロゴロとは程遠い。
大人しくお座り状態、膝は曲げて、近い距離の二人で。

「・・・・・。」

「飲み過ぎ防止かな?」

「・・・・・。」

「良かったね、ちょうどいい広さの場所が空いてて。」

「また意地悪モードですか?」

「違うよ、本当に良かったねって。」

そう言って手を握ったままシートに置いた。

「始まるみたいだよ。」

ステージに光がついて、音出しが始まった。
空にまで響くような音。

背後をビルに囲まれててまっすぐに伸びていくだろう。

知らない曲が多いけど、伸びていく音とソロでの巧みな演奏は十分楽しい。
野外フェスがこんなに気持ちいいものだとは。
完全に音の響きを計算して作られたような会場とは違った心地いい爽快さがある。

今のところお酒は開けてなくて、大人しく音楽を楽しんでいる。

シートに座れてるのはラッキーかもしれない。
ビルの二階や階段のところから立ち見する人も多い。

遠目とは言え正面で座って聞けるのだから。


アンコールを終えて午後の演奏が終わった。
夕方の時間まで、まだまだ時間はある。
食べて飲んでおしゃべりをして楽しもう。

「小愛ちゃん、買い物してくる?」

「はい、おつまみ買ってきます。お留守番お願いします。何かリクエストありますか?」

「ううん、特にないかな。」

「じゃあ、行ってきます。そのあと交代でビールでも何でも、好きなものがあったら買ってきてください。」

「分かった。気を付けて。」

「そこですから大丈夫です。」

笑顔で手を振ってビルの中に入って行った。

裂きイカとかサラミのオヤジ系乾きものか、ドライフルートかナッツのガールズチョイスにするか。
今日のキャラクターはどちらでもない小愛ちゃん。
あれが普通のデートモードなんだろう。
ハルト君とはもっとガーリーだったのだろうか?
あれだったら隠す必要もないくらいだから、そうなんだろう。

どちらかに振り切ってくれた方が面白いとさえ思えるのに。
揶揄い甲斐がないのが残念だ。

それでも笑顔は明るくて、思わずこちらも笑顔になる。

本当にすぐに帰って来た。

袋の中には・・・・ナッツと・・・普通のお菓子が入っていた。
チョコにポテトチップス。

残念、ガールズチョイスだった。

「宇佐美さん、何か食べたいものありました?今明らかにがっかりしてませんか?」

「ほら、なんだか缶詰の焼き鳥とか、鯖みそ煮缶とか、驚くものを買ってくるかなと期待してたんだけど、普通の女の子が買うものだなあって。」

「ここでそんなワンカップに合いそうなもの買って来ません。激しく見誤ってます。そこまで期待しないでください。」

「うん、ちょっと安心した。あと一時間以上あるんだね。」

「そうですね。宇佐美さんは何を飲みたいですか?」

ワインを出して紙コップを取り出す。
紙皿も持ってきていた。

「ワイン貰えるの?」

「微妙な温度ですよ。」

「いいよ。」

たっぷりと紙コップに注がれた。
雰囲気が出ないけど。

「去年はワンコインの飲み物を買ったの?」

「はい。プラスティックの入れ物で飲んでました。あんまり選べなかったんです。今年はサングリアもありました。」

彼女の指す方を見る。
お水も売ってる、割高だけど。

シートにはおやつとワインが置かれて一層狭くなった気がする。
さっきまで楽しそうに体を動かす彼女と普通にぶつかっていたのだが。
あまり気にしてないようだ。


「どうしました?」

「ううん、さっき楽しそうだったなあって思ってた。」

「はい、ワクワクしますよね。全然吹けないのに一緒に指が動く気がします。宇佐美さんは音楽は?」

「ここでバンドをやってたと言う話をしたら惚れ直してくれる?」

一瞬真顔になった。

「それは・・・・担当の楽器の種類にもよりますが。」

「何で?ボーカルかもよ。」

「多分違います。キーボードっぽいです。でもバンドやってませんよね。」

「残念、バレたか。」

「そういう小愛ちゃんも全くそんな感じはないなあ。聞く専門でしょう?」

「はい、そうです。残念でしたね、せっかく惚れ直せるチャンスだったのに。違う機会にどうぞ。」

「僕が残念なの?」

「そうですよ。」

どんな理屈だろう?

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