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7 少しだけ偉そうに披露出来た事、本当はギリギリのタイミングだったけど。
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そして月曜日。
すっかりいろんなことを忘れてて、普通に席につきながら挨拶をしたら。
先輩達に囲まれた。
「何ですか?」
「随分楽しい週末だったらしいじゃないか。」
「僕は急遽仕事になりましたよ、あ。井原先輩、ちゃんと代わって仕事したんですから。」
「仕事というか、デートだったって聞いたけど。」
あ・・・・・・、忘れてた。
あまりに普通に一緒にいて、それどころじゃないハッピーに浮かれてたし。
「根岸先輩だって楽しそうでしたよ。」
話しの矛先を先輩に向けてやり過ごすしかない。
「なに~!」
そう言ったのはもともと行く予定だった井原先輩。
それは聞いてなかったんだろうか?
根岸先輩も僕のことだけ言いつけたんだろうか?
根岸先輩がご機嫌にやってきた。
まさにタイミングが良くて、井原先輩を先頭に根岸先輩の方へ動いた集団。
『鉄男たるもの鉄への愛が一番で唯一であるべし。』
イベントは教え合い、体験はシェアし合い、そんな同好の士だ。
仲がいいのもそんな暗黙のルールを逸脱するような人もいなかったから。
ただ、そろそろ・・・いいじゃないか。
自慢できるくらい自信があったら言いたかったし、そこは自信がなかったんだし。
でも今言いたいかというと、怖いので止めよう。
嬉しそうに根岸先輩が報告している。
井原先輩は耳を押さえながら聞いている。
聞こえてるんだろうに、そんなに認めたくないなら離れればいいのに。
他の先輩も黙って聞いてる。
食事を一緒にして、連絡先を交換したらしい。
そこで話は終わった。
まあまあそんなものだと思う。
僕もそうだったし。
でも嬉しそうだし、アユさんが関わってるんだったら上手くいくといいなって思ってる。
そして一斉に視線がこっちを向いた。
迫りくる塊。
やっぱりボリュームある体だし、ちょっと圧迫感が。
「おはようございます。」
明るく挨拶するのはもちろん宇佐美さん。
「あ、根岸先輩、あの後どうなりました?」
皆で根岸先輩を見て、先輩の顔はにへらとなった。
「良かったです。せっかく仕事そっちのけで集中してたんだから、少しでも長くいい夢を見てください。」
宇佐美さん、もしかして怒ってる?
笑顔だけど、仕事もしなかった先輩に怒ってるの?
「ギイチさん、さっそく仕事をしましょう。」
自宅で仕事をしたらしく、メモを取っていた内容をプリントにして見せられた。
その量は・・・本当に仕事をしてたらしい。
「ねえ、男の人にも声をかけたんだね。逆に誤解して喜んだ男の人いたんじゃないの?」
「話を聞くときは先に取材にご協力くださいって、集団に声をかけました。みんな雑誌を楽しみにしててくれるって、いい人たちでした。名刺も配ったのでいろいろ教えてくれるそうです。勿論先輩方の名刺を先にもらってる人もいましたよ。」
それはそうだろう。
たくさんの人に協力してもらってるから。
「ありがとう。面白い意見があるんだね。」
『別に男女の縁じゃなくても、お互いに趣味が合う同士がつながって大きくなって、そんな目的もあっていいかなって。』
そう答えた人がいたらしい。
『男性、30代』
と付け加えられていた。
そんなことを言ったら鉄子さん同士で盛り上がってるグループもあるだろうから、そうなんだけど。そこは敢えて、交流しようと今だから言えるセリフだ。
あの日は自分だってゲームに燃えようって言い合って団結してた。
明らかに主催者の目的から逸れていた。
数カ月前のことなのに。
「来月のイベントも特集しますってお知らせしたので、楽しみにするって言われましたよ。」
本当に仕事をしてくれたらしい、素晴らしい後輩だ。
ふらりと根岸先輩がやってきた。
「ギイチ、今夜は飲みに行くぞ。お前の奢りだ!ただ、ちょっとは俺も出すから。休日手当はなくなったと思え。」
「私は遠慮します。怖いです。穏便に話をして、見習える点は参考にしてください。」
宇佐美さんがそう言った。
まだもらってない休日手当だけど、別にいい。
あの日は特別だったんだから。
先輩にご馳走してもいい、幸せのおすそ分けくらいどうぞ、たくさんあるんです。
アユさんの顔を思い出して、週末の記憶をぼんやりと思い出して・・・・・・あ、思い出した!!
ジワジワと思い出して、今、完ぺきに思い出した!
あんな大切な事、何で忘れてたんだろう?
あの時、一緒に夜も過ごしたいと・・・まあ、そんなことを言われたんだ。
それは、あの話の流れでは・・・いいんだろうか?
改めて聞くことでもないし、どうしていいのか、緊張が先走って、考えられない。
そんな時に頼りにしたいのはやっぱり一鉄。
たとえ相談事が奈央さんにバレたとして、まさかハルヒちゃんには言わないよね・・・・。
とりあえず連絡を取った。
『一鉄、明日の夜、時間が空いた時でいいから電話が欲しいんだけど。』
『相談があります。』
しばらくしたら返事が来ていた。
『8時過ぎには帰る予定だよ。10時ごろ電話しようか?』
『ありがとう。僕も9時過ぎには帰ってる予定だから。』
『じゃあ、10時少し過ぎたあたりに。』
『お世話になります。』
宇佐美さんが根岸先輩に次回イベントの枠を任せて、自分たちは体験記ならぬ『潜入レポート』を作った。
写真を選んで、参加者の意見、男の人グループ、女の人グループ、めでたいカップリングの二人、それぞれの感想を混ぜ込んで乗せた。
『スタッフもめでたいくらいに浮かれて楽しんだ。』と宇佐美さんに一言加えられた。
それは根岸先輩のことだと思いたい。
そして夕方になって、仕事をせっつかされて、引きたてられるように告解の場へ連れて行かれた。ごていねいに個室の予約をとってたらしい。
「ギイチ、可愛いいらしいじゃないか。」
「アユさん、だって。」根岸先輩が言う。
「根岸先輩、アユさんが野倉さんと引き合わせてくれたって聞きましたよ。」
言わないけどその後のこともアユさんの働きが大きいですよ、気がついてないんですか?
視線はいったん、根岸先輩へ逸れた。
「確かに、そんなことを言われた。もともとアユさんが仕事中のギイチに会いたくて連絡をとって知り合ったらしいじゃないか。」
ああ、投げたナイフが戻ってきた感じだ。
「あそこで前に友達がカップルになったんです。今度結婚するし、そのことをアユさんも知ってるし・・・・。」
「だからアユさんは、あそこで、ギイチに、どうしても、会いたかった、そう言うことを言いたいのか?」
ちょっと間違えた。一鉄の事は余計だった。
だいたい乾杯のあと一口飲んだくらいだと思うのに、既に絡まれてる気がする。
「知りません。」
「どうやって知り合った?」
代わるがわる聞かれる。
質問に促されるように全部吐き出した。
今は週末を使って会ってる事、時々洋服も選んでもらってる事、デートの報告は詳細までいろいろ聞かれた。
どんどん責めてくる口調が、違う風になり、ああ、それはまさに宇佐美さんが言ったように、参考資料の立場になった気がした。あやかりたい・・・見習いたい・・・そんな思いが滲んでますよ、先輩達・・・・。
素晴らしく先輩達の思考パターンを読んでる宇佐美さん。
弟も鉄男君だから、その辺は似てたりして?
失礼かな?かわいい子かな?
「で、今度旅行に行くんだよな。」
根岸先輩が黙っていられないらしくて、そう言った。
「そこはさっきの友達の結婚式になったので、旅行は無しです。」
「そうなんだ・・・。」
うれしそうな顔をしてる、隠せない嫉妬心と何か。
「アユさんがっかりだろうなあ。」
「まだ伝えてないです。」
別に他の日でもいい。
あ、有給という手もあるじゃないか。
でも今は、黙っておこう。
「ギイチ、一人で勝手に痩せてきてるしな。」
気がついてくれるほどですか?
思わず喜んだ。
「少し痩せたんです。ダイエット頑張ってます。」
「ふ~ん。」
それ以上ダイエットの事は何も聞かれなかった。
詳しくは言えない、とても言えない、あの沢山のタッパーのことなんて、絶対言えない。
しばらく誰もがだんまり。静かになったテーブル。
どうしたんだろう?
ビールを落ち着いて飲める時間がやってきた。
自分がお金を出すんだから、飲む!
参考にしてもらえたなら授業料として、先輩達も払って欲しい・・・なんて言わない。
だってハッピー全開だからさっ。
「で、ギイチ、どうなんだ?」
「何がですか?」
そう聞いてきたのは井原先輩。
「だから、どのくらいの親密な関係かってことだよ。」
ジワジワと皆の圧が来た。
知りたい、でも知りたくない、でも・・・・確かめたいと。
分かった、何を聞きたいか。
その途端真っ赤になった。
「まだ・・・・普通の彼女です。」
小さい声になった。そこはあの可愛い車両で起きた事件がマックス・・・・。
隠すほどでもない・・・わけはなくて、隠したい。
「まだ・・・・普通の彼女です。」
もう一度言ったら、先輩達の大きなため息の音が重なって聞こえた。
安堵・・・・・。
そのまま静かにいつもの仕事の話題に移った。
また潜入レポートをしたいと言い出した井原先輩。
今度こそ、自分が!!と意気込みが見える。
だから、どうぞどうぞ。僕はデートしたいですから。
根岸先輩も手を挙げなかったところを見るといい感じに野倉さんと話が出来てるんだろう。
アユさん、ナイス!
そして翌日。
約束通り、10時過ぎた頃に電話がかかってきた。
『ギイチ、お疲れ様、どうしたの?』
「一鉄、お疲れ、今日は奈央さんは?」
『いるよ。代わる?』
「なんで、そんなの苦手だって知ってるくせに。」
『奈央だよ、ハルヒと変わらないよ。』
何がだよ・・・・。
『冗談、話を先にする?』
「うん、実はさあ、この間・・・・」
話しの流れと、アユさんに言われたことも話した。
『ええっ・・・・・良かったね・・・・。』
「なんで間が空いたの?」
『だってとっくに・・・まあ、改めて俺に鉄友卒業緒宣言したいんだなあって。でもうれしいよ。それで?』
「だから・・・・・何したらいい?」
『そんなの部屋で過ごすように、一緒に旅してる気分になれるような・・・・そんな感じ?テレビでもいいし、映画でもいいし。』
「その後だよ。準備だよ。どうしたらいい?」
『それはちゃんと買った方がいいよ。』
「・・・・・。」
たくさんあるんだよ、選べないよ、恥ずかしいよ。
『ギイチ、しっかりして。同じだから、皆。それにそれ以外はアユさんに聞いても不思議じゃないし、一緒に買っても不思議じゃないよ。あ、タオルとか、パジャマとか、化粧品とかってことだよ。』
小さい声になった一鉄。
当たり前だよ、さっきのはたくさんの種類からアユさんが好きなのを選んでいいよ、なんて・・・言えるわけないじゃないかっ。
必要ないですよ!!なんて言われたらどうする。
持ってるの?それとも早とちり?みたいな・・・・ああああ・・・・・。
一鉄も声を落としてくれたし、奈央さんには内緒だよね、言わないよね、まさかハルヒちゃんもこんな相談をしてるなんてこともないだろうなぁ。
だって、今まで、こんなことに直面することなんてなかったし。
『準備はちゃんとすること。』と一鉄に言われた。
それ以外のアドバイスはなかった、ただいつものようにと言われただけだ。
そんなことできたら苦労しない!!
『そう言えばさあ、式の日にちだけど、やっぱり前に伝えた日になったから。お昼過ぎの時間ね。』
うれしそうな一鉄の教えてくれた日にちは、やっぱりアユさんが旅行に行きたいと言ってた日に決まった。ああ・・・、ちょっとだけ残念に思ったけど、優先なのは当然だ。
「おめでとう・・・はまた言うけど。」
『うん、ギイチが寂しくないようにハルヒの近くにいてもらえるようにするから。』
「うん、絶対行くよ。」
『楽しみだね、週末。報告はいいからね。』
一鉄が笑って言う。
相談は終わりになって、一つ予定が決まった。
すっかりいろんなことを忘れてて、普通に席につきながら挨拶をしたら。
先輩達に囲まれた。
「何ですか?」
「随分楽しい週末だったらしいじゃないか。」
「僕は急遽仕事になりましたよ、あ。井原先輩、ちゃんと代わって仕事したんですから。」
「仕事というか、デートだったって聞いたけど。」
あ・・・・・・、忘れてた。
あまりに普通に一緒にいて、それどころじゃないハッピーに浮かれてたし。
「根岸先輩だって楽しそうでしたよ。」
話しの矛先を先輩に向けてやり過ごすしかない。
「なに~!」
そう言ったのはもともと行く予定だった井原先輩。
それは聞いてなかったんだろうか?
根岸先輩も僕のことだけ言いつけたんだろうか?
根岸先輩がご機嫌にやってきた。
まさにタイミングが良くて、井原先輩を先頭に根岸先輩の方へ動いた集団。
『鉄男たるもの鉄への愛が一番で唯一であるべし。』
イベントは教え合い、体験はシェアし合い、そんな同好の士だ。
仲がいいのもそんな暗黙のルールを逸脱するような人もいなかったから。
ただ、そろそろ・・・いいじゃないか。
自慢できるくらい自信があったら言いたかったし、そこは自信がなかったんだし。
でも今言いたいかというと、怖いので止めよう。
嬉しそうに根岸先輩が報告している。
井原先輩は耳を押さえながら聞いている。
聞こえてるんだろうに、そんなに認めたくないなら離れればいいのに。
他の先輩も黙って聞いてる。
食事を一緒にして、連絡先を交換したらしい。
そこで話は終わった。
まあまあそんなものだと思う。
僕もそうだったし。
でも嬉しそうだし、アユさんが関わってるんだったら上手くいくといいなって思ってる。
そして一斉に視線がこっちを向いた。
迫りくる塊。
やっぱりボリュームある体だし、ちょっと圧迫感が。
「おはようございます。」
明るく挨拶するのはもちろん宇佐美さん。
「あ、根岸先輩、あの後どうなりました?」
皆で根岸先輩を見て、先輩の顔はにへらとなった。
「良かったです。せっかく仕事そっちのけで集中してたんだから、少しでも長くいい夢を見てください。」
宇佐美さん、もしかして怒ってる?
笑顔だけど、仕事もしなかった先輩に怒ってるの?
「ギイチさん、さっそく仕事をしましょう。」
自宅で仕事をしたらしく、メモを取っていた内容をプリントにして見せられた。
その量は・・・本当に仕事をしてたらしい。
「ねえ、男の人にも声をかけたんだね。逆に誤解して喜んだ男の人いたんじゃないの?」
「話を聞くときは先に取材にご協力くださいって、集団に声をかけました。みんな雑誌を楽しみにしててくれるって、いい人たちでした。名刺も配ったのでいろいろ教えてくれるそうです。勿論先輩方の名刺を先にもらってる人もいましたよ。」
それはそうだろう。
たくさんの人に協力してもらってるから。
「ありがとう。面白い意見があるんだね。」
『別に男女の縁じゃなくても、お互いに趣味が合う同士がつながって大きくなって、そんな目的もあっていいかなって。』
そう答えた人がいたらしい。
『男性、30代』
と付け加えられていた。
そんなことを言ったら鉄子さん同士で盛り上がってるグループもあるだろうから、そうなんだけど。そこは敢えて、交流しようと今だから言えるセリフだ。
あの日は自分だってゲームに燃えようって言い合って団結してた。
明らかに主催者の目的から逸れていた。
数カ月前のことなのに。
「来月のイベントも特集しますってお知らせしたので、楽しみにするって言われましたよ。」
本当に仕事をしてくれたらしい、素晴らしい後輩だ。
ふらりと根岸先輩がやってきた。
「ギイチ、今夜は飲みに行くぞ。お前の奢りだ!ただ、ちょっとは俺も出すから。休日手当はなくなったと思え。」
「私は遠慮します。怖いです。穏便に話をして、見習える点は参考にしてください。」
宇佐美さんがそう言った。
まだもらってない休日手当だけど、別にいい。
あの日は特別だったんだから。
先輩にご馳走してもいい、幸せのおすそ分けくらいどうぞ、たくさんあるんです。
アユさんの顔を思い出して、週末の記憶をぼんやりと思い出して・・・・・・あ、思い出した!!
ジワジワと思い出して、今、完ぺきに思い出した!
あんな大切な事、何で忘れてたんだろう?
あの時、一緒に夜も過ごしたいと・・・まあ、そんなことを言われたんだ。
それは、あの話の流れでは・・・いいんだろうか?
改めて聞くことでもないし、どうしていいのか、緊張が先走って、考えられない。
そんな時に頼りにしたいのはやっぱり一鉄。
たとえ相談事が奈央さんにバレたとして、まさかハルヒちゃんには言わないよね・・・・。
とりあえず連絡を取った。
『一鉄、明日の夜、時間が空いた時でいいから電話が欲しいんだけど。』
『相談があります。』
しばらくしたら返事が来ていた。
『8時過ぎには帰る予定だよ。10時ごろ電話しようか?』
『ありがとう。僕も9時過ぎには帰ってる予定だから。』
『じゃあ、10時少し過ぎたあたりに。』
『お世話になります。』
宇佐美さんが根岸先輩に次回イベントの枠を任せて、自分たちは体験記ならぬ『潜入レポート』を作った。
写真を選んで、参加者の意見、男の人グループ、女の人グループ、めでたいカップリングの二人、それぞれの感想を混ぜ込んで乗せた。
『スタッフもめでたいくらいに浮かれて楽しんだ。』と宇佐美さんに一言加えられた。
それは根岸先輩のことだと思いたい。
そして夕方になって、仕事をせっつかされて、引きたてられるように告解の場へ連れて行かれた。ごていねいに個室の予約をとってたらしい。
「ギイチ、可愛いいらしいじゃないか。」
「アユさん、だって。」根岸先輩が言う。
「根岸先輩、アユさんが野倉さんと引き合わせてくれたって聞きましたよ。」
言わないけどその後のこともアユさんの働きが大きいですよ、気がついてないんですか?
視線はいったん、根岸先輩へ逸れた。
「確かに、そんなことを言われた。もともとアユさんが仕事中のギイチに会いたくて連絡をとって知り合ったらしいじゃないか。」
ああ、投げたナイフが戻ってきた感じだ。
「あそこで前に友達がカップルになったんです。今度結婚するし、そのことをアユさんも知ってるし・・・・。」
「だからアユさんは、あそこで、ギイチに、どうしても、会いたかった、そう言うことを言いたいのか?」
ちょっと間違えた。一鉄の事は余計だった。
だいたい乾杯のあと一口飲んだくらいだと思うのに、既に絡まれてる気がする。
「知りません。」
「どうやって知り合った?」
代わるがわる聞かれる。
質問に促されるように全部吐き出した。
今は週末を使って会ってる事、時々洋服も選んでもらってる事、デートの報告は詳細までいろいろ聞かれた。
どんどん責めてくる口調が、違う風になり、ああ、それはまさに宇佐美さんが言ったように、参考資料の立場になった気がした。あやかりたい・・・見習いたい・・・そんな思いが滲んでますよ、先輩達・・・・。
素晴らしく先輩達の思考パターンを読んでる宇佐美さん。
弟も鉄男君だから、その辺は似てたりして?
失礼かな?かわいい子かな?
「で、今度旅行に行くんだよな。」
根岸先輩が黙っていられないらしくて、そう言った。
「そこはさっきの友達の結婚式になったので、旅行は無しです。」
「そうなんだ・・・。」
うれしそうな顔をしてる、隠せない嫉妬心と何か。
「アユさんがっかりだろうなあ。」
「まだ伝えてないです。」
別に他の日でもいい。
あ、有給という手もあるじゃないか。
でも今は、黙っておこう。
「ギイチ、一人で勝手に痩せてきてるしな。」
気がついてくれるほどですか?
思わず喜んだ。
「少し痩せたんです。ダイエット頑張ってます。」
「ふ~ん。」
それ以上ダイエットの事は何も聞かれなかった。
詳しくは言えない、とても言えない、あの沢山のタッパーのことなんて、絶対言えない。
しばらく誰もがだんまり。静かになったテーブル。
どうしたんだろう?
ビールを落ち着いて飲める時間がやってきた。
自分がお金を出すんだから、飲む!
参考にしてもらえたなら授業料として、先輩達も払って欲しい・・・なんて言わない。
だってハッピー全開だからさっ。
「で、ギイチ、どうなんだ?」
「何がですか?」
そう聞いてきたのは井原先輩。
「だから、どのくらいの親密な関係かってことだよ。」
ジワジワと皆の圧が来た。
知りたい、でも知りたくない、でも・・・・確かめたいと。
分かった、何を聞きたいか。
その途端真っ赤になった。
「まだ・・・・普通の彼女です。」
小さい声になった。そこはあの可愛い車両で起きた事件がマックス・・・・。
隠すほどでもない・・・わけはなくて、隠したい。
「まだ・・・・普通の彼女です。」
もう一度言ったら、先輩達の大きなため息の音が重なって聞こえた。
安堵・・・・・。
そのまま静かにいつもの仕事の話題に移った。
また潜入レポートをしたいと言い出した井原先輩。
今度こそ、自分が!!と意気込みが見える。
だから、どうぞどうぞ。僕はデートしたいですから。
根岸先輩も手を挙げなかったところを見るといい感じに野倉さんと話が出来てるんだろう。
アユさん、ナイス!
そして翌日。
約束通り、10時過ぎた頃に電話がかかってきた。
『ギイチ、お疲れ様、どうしたの?』
「一鉄、お疲れ、今日は奈央さんは?」
『いるよ。代わる?』
「なんで、そんなの苦手だって知ってるくせに。」
『奈央だよ、ハルヒと変わらないよ。』
何がだよ・・・・。
『冗談、話を先にする?』
「うん、実はさあ、この間・・・・」
話しの流れと、アユさんに言われたことも話した。
『ええっ・・・・・良かったね・・・・。』
「なんで間が空いたの?」
『だってとっくに・・・まあ、改めて俺に鉄友卒業緒宣言したいんだなあって。でもうれしいよ。それで?』
「だから・・・・・何したらいい?」
『そんなの部屋で過ごすように、一緒に旅してる気分になれるような・・・・そんな感じ?テレビでもいいし、映画でもいいし。』
「その後だよ。準備だよ。どうしたらいい?」
『それはちゃんと買った方がいいよ。』
「・・・・・。」
たくさんあるんだよ、選べないよ、恥ずかしいよ。
『ギイチ、しっかりして。同じだから、皆。それにそれ以外はアユさんに聞いても不思議じゃないし、一緒に買っても不思議じゃないよ。あ、タオルとか、パジャマとか、化粧品とかってことだよ。』
小さい声になった一鉄。
当たり前だよ、さっきのはたくさんの種類からアユさんが好きなのを選んでいいよ、なんて・・・言えるわけないじゃないかっ。
必要ないですよ!!なんて言われたらどうする。
持ってるの?それとも早とちり?みたいな・・・・ああああ・・・・・。
一鉄も声を落としてくれたし、奈央さんには内緒だよね、言わないよね、まさかハルヒちゃんもこんな相談をしてるなんてこともないだろうなぁ。
だって、今まで、こんなことに直面することなんてなかったし。
『準備はちゃんとすること。』と一鉄に言われた。
それ以外のアドバイスはなかった、ただいつものようにと言われただけだ。
そんなことできたら苦労しない!!
『そう言えばさあ、式の日にちだけど、やっぱり前に伝えた日になったから。お昼過ぎの時間ね。』
うれしそうな一鉄の教えてくれた日にちは、やっぱりアユさんが旅行に行きたいと言ってた日に決まった。ああ・・・、ちょっとだけ残念に思ったけど、優先なのは当然だ。
「おめでとう・・・はまた言うけど。」
『うん、ギイチが寂しくないようにハルヒの近くにいてもらえるようにするから。』
「うん、絶対行くよ。」
『楽しみだね、週末。報告はいいからね。』
一鉄が笑って言う。
相談は終わりになって、一つ予定が決まった。
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