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25 街が華やぐ季節には

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忘年会は月初めの金曜日に決定!
この時期はお店の予約が大変だということで早めの週に予定したらしい。
相変わらず高田さんと谷垣君が参加する。

この時期はなんとなく落ち着かない。
町が華やぎ可愛くデコレートしたものがあふれる。
ボーナスが出たら自分と両親にクリスマスプレゼントを買う予定でいる。

自分には特別なイベントが入る予定すらない。
毎年と同じようにケーキを買って家族で食べる。
勿論チキンもちゃんとホイルで巻いた足を食べる。
お母さんが作ってくれる。
それは子供のころとちっとも変ってない。
シャンパンがアルコール入りの本物になっただけ。
今年はちょっと豪華なものにしよう!


何を買おうかなあとショーウィンドウを覗いて帰る。
パーティー向きのドレスも多い。
露出が高くてファーと合わせて着るような服。
・・・・・風邪ひきそう。


今も若菜ちゃんが一緒に買い物に行ってくれる。
少し若菜ちゃんの指導で女性らしさを気にしてるんだけど・・・。
気がついて褒めてくれる人はいるけど。

自分自身は何も変わらない。それでいいから。それがいいから。
それでも飲み会の後も近藤さんに迷惑をかけることもなく、勿論仕事でも大きな失敗はない、つもり。
いつも変わりなく明るく元気に仕事をしている。


先週近藤さんと高田さんが休憩室で話をしているのを聞いた。
また聞いてしまった。個人的な話。
だって、聞こえてしまった。

近藤さんは夏前に彼女と別れてたらしい。

知らなかった。

あれから彼女ありきの話をしても普通に話を合わせていた。
もともといろいろと話す方じゃないし、名前も職業も知らない。
近藤さんがそれだけで満足するくらいきれいな人って事しか知らない。

それ以上聞く前にそっと引き返した。

誰も知らない話を又聞いてしまった。



忘年会の日。
いつものお店だから特にきれいな格好をすることもなく、普段通り。


高田さんの音頭で乾杯をして食事とお酒を楽しむ。


途中席を離れたすきに高田さんの方へ皆が行って盛り上がっていた。
おしぼりが足りないからと頼まれてもらいに行った私。
すっかり盛り上がりに出遅れた。

1人端の席に残っていた近藤さんの前に座る。
やっぱり高田さんが入ると違う。本当に場を上手に仕切る人。
そして2人増えただけで話に加わらない人が出て来ることも不思議じゃない。

近藤さんと4月の頃のことを振り返り思い出話をする。
それから徐々に家族の話になる。
途中怖い顔をしてお姉さんたちの話をする。
なんだか仲が悪い?
一人っ子の私はとてもうらやましいのに。


年末年始の過ごし方を聞いてこっそり彼女の事も聞いてみた。
「別れたよ」と今ならさらっと言えたりするはずなのに、冬休みは一緒に過ごすと言う近藤さん。
隠したいのかもしれないけど。
・・・寂しい気がした。
だって・・・・教えてくれてもいいのに。


・・・・胸が痛い。時々近くにいるのが辛くなる。
それにさっきから私の彼氏の話を聞いてくる。
いないって知ってるでしょう。
逆に聞いてあげるよ、みたいな態度で。
そんなの、興味もないくせに。
無言の自分にワインを注いでくれる。
それでも手を付けないでグラスを見つめる。

「玉井ちゃん、聞いて。」

明るい声で静かな二人に割り込んできた高田さん。
しばらくして近藤さんが席を立つ。

こういうことはよくある。
せっかく気をつかってくれても、そう分かってても、どうしても自分が先に子供の様に拗ねて近藤さんを困らせる。そのあと助けてくれるのはいつも高田さん。
私は高田さんにも甘えてしまう。

「どうしたの?」

背中に温かさを感じる。

「ねえ、近藤は本当にアホだからさ。玉井ちゃんがガンって言わないとダメなんだよ。今日近藤の家に行って良く話をしたら?せっかくロマンティックな時期だしね。」

自分では認めたらいけないと思ってた。
人を愛せない人を、自分の上司を、彼女のいる人を好きになってもいい事なんてない。
ただ嫌われたくないからって自分に言い訳をして、部下としてなんとか認められたい、少しでも褒められたい。そう思って努力もしたのに。

相変わらずめんどくさそうに見ながら保護者の様に注意ばかりされて、上司と部下の線がはっきり見えるような。
でも、ときどき優しくて、軽口の冗談にドキドキしたり。

それが辛いのに、心が落ち着かなくて、辛くなるのに。


「大丈夫だから。絶対うまくいくよ。みんなそう思ってるから。」

「・・・・何でですか?」

「僕が信じられない?」

高田さんの根拠のない返事じゃ満足できない。

「さっきも聞いたんです。お正月は彼女と過ごすんですかって?」

「なんて言ってた?」

「『そう。』って。」

大きくため息をついて高田さんがのけぞる。

「アホだ、あいつはどうしようもないアホだ。」

「気にしないで。そっちは大丈夫だから。」

「顔を上げて、さっきから坂井ちゃんが心配してるよ。ね、僕に任せて。帰りは一緒に帰るんだよ。断っちゃだめだよ。」

ポンポンと背中を叩かれた。
近藤さんも帰ってきて元の席に戻る。
珍しく余った料理。近藤さんがパスタをとり食べ始めた。
ほとんど食べてないかもしれない。自分も。

高田さんの言葉が頭の中に響く。
皆が知ってるみたいに言った。
そんな気もする。

なのに当の本人は全く気にもしてない、気づいてない。
ちらりと見ると、さすがにパスタも冷めてしまって持て余しているみたい。


デザートが運ばれて近藤さんが配る。
周りを見ると大人しく席に着いた皆が酔っぱらっていた。
手伝いに立つ人もいない。コーヒーも一緒に配られる。
声をかけられたけど、軽くうなずくだけ。

いつものこの店で食べる美味しいティラミス。
少しずつ崩して食べる。
もっとおいしいはずなのに。

酔っているのに若菜ちゃんがいつもの大食漢ぶりを発揮していて。
隣の谷垣君が自分の皿を渡している。

「谷垣君、相変わらずだね。」

「うん。今日はほどんど食べてないけど、基本的に甘いものは好きじゃないみたい。」

「クリスマスは?彼女と一緒にディナーに行くでしょう?」

「うん、彼女ももう慣れたからね。ゆっくり食べれば何とかついて行けるけどデザートは彼女にあげるよ。」

「プレゼントは?もう買ったの?」

「う~ん、まだ。一緒に買いに行ったらダメかな?結構考えちゃうんだよね。」

「他にも少しだけクッキーとかでもいいから別に買ってたらいいんじゃない?」

「そうかな?」

「うん、多分。」


私の意見で参考になるかは微妙だけど、うらやましい悩み。


「玉井さんも、うまくいくといいね。」

気持ち近づかれて少し小声で言われた。

「えっっ。」

谷垣君の目がちらっと近藤さんの方に動いた・・・様な気がして。
私はどこまでバレてるの?
携帯を出して文字を打つ?

『今、何を思ったの?』

携帯を見た谷垣君に私の携帯を渡す。

『近藤室長。いいと思う。僕もうまくいくと思うよ。』

「も」って何だろう、高田さんに聞いたの?高田さんばらしたの?

『バーベキューの時にそうかなって思った。』

私の様子で察して答えてくれた。

『少し外で話せない?』

あの日そんな事が何かあったの?誰も何も言わなかったけど。

『知りたい?』

勿論聞きたい。聞かなきゃ。交互に私の携帯が行きかう。
それなのに高田さんが挨拶をはじめてしめられた。
どうしよう。手に携帯を持ったまま。

「またの機会に、楽しみにしててね。僕も楽しみにしてるから。」

あっさり谷垣君に言われた。

「・・・何を・・・・。」

「いろいろ。」にっこり微笑まれた。

そんな・・・・眠れないほど気になりそう。
近藤さんと話をしはじめた谷垣君に詳しく聞くことも出来ず。
そのまま解散となった。

しまった、うっかり忘れてた。
泊まる場所を探してない。


近藤さんに泊めてやると言われた。少し面倒そう?
無理!本当に無理だから。
でも、高田さんがダメ押しの様に勧める。


結局「お願いします。」最後にそう言って泊めてもらうことにした。
何で?

何も変わらないから、今までと一緒だから。
そう思ってるのに高田さんの声が頭の中で何度も繰り返される。


タクシーの中では端に座り外をぼんやりと見ていた。
マンションに到着して降りる近藤さんについて行く。
勿論お支払いは全部私に任せてもらった。



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