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24 いつもと同じようで、いつもとは違う事情
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そして忘年会の日。
世間ではレストラン宴会場居酒屋、どこも予約で埋まる時期。
金曜日なんてとにかく早くに予約をしないといけない曜日だった。
それでも人数が少ないせいか第一希望でとれた。
「今年も参加させてもらえてうれしいです。来年もこの二人は第二研究室とともにあります。」
馬鹿らしい挨拶をして高田が乾杯の音頭を取る。
軽くグラスを合わせて飲み始める。
相変わらずそれぞれが手酌で。
いつの間にか高田の周りに人が寄り、端にいた自分の周りが空いた。
おしぼりの追加を頼まれて外から帰ってきた玉井。
自分の席はすっかりとられてしまってる。
空いた自分のすぐ目の前の席に座ったのでグラスを渡してやる。
「飲みすぎるなよ。」
「分かってます。」
いつものやり取りだった。
「近藤さん、異動願いって結構聞いてもらえるものなんですか?」
はぁ?確かに毎年この時期に提出するようにと配られる。
だがあくまでも専門色のつよい自分たちが対象になるとは考えてなかった。
必要があり支社や製造部に行きたいときは、結婚やその他の理由などつけて相談の上か出向という形が多い。
「玉井お前、どこかに出たいのか?」
相談もなかったが。
「いえ、違います。ただ聞いただけです。希望せずにチェックしてますよ。」
ビックリした。
「そうだよ、お前がいなくなると寂しいぞ。」
グラスを持った手が揺れた。ビックリされたらしい。
別にいつもの軽口なのに。
他の奴がいない状況が珍しかったか?
「不満があるなら言えよ。」
「ないです、全然ないです。」
「なら安心だ。」
お互いにグラスに口をつける。
「年明けもあっという間だぞ。あと少ししたら新人が入ってくるかもしれない。まあ、うちは3人も来たし、しばらく補充はないだろうが。いよいよ2年目だな。最初はどうなるかと思ったが。」
「はい・・・・自分でも成長したと思ってます。」
「スタート前に助走つけて後ろに下がり過ぎたパターンだったな。懐かしいなあ。いろいろあり過ぎて数年前にも思えるほどだ。」
「私は・・・あっという間でした。」
「なあ、あの最初の時・・・・・・。いや、何でもない。」
つい聞いてしまいそうになった。ちょっと気になっただけだ。
首を倒して見上げる玉井のグラスを酒で満たす。
「飲め飲め。」
「珍しいですね。勧めるなんて。大丈夫ですよ。最近はちゃんと確保してますから。」
「今日もか?」
「それはまだですけど。途中で電話します。」
「彼氏の部屋か?」
「わざと言ってますか?」そっぽ向いて答えない。
違うのか?
「近藤さん、楽しんでますよね?」
既に目がすわってる気がする坂井。
玉井を見ると驚いた表情で坂井を見ている、同じことを思ってるようだ。
注がれるままにビールを飲む。
「茜ちゃん、食べてる?最近全然量が減ってるよね?痩せてきたよね?どうしたの?相談に乗るよ、私も、近藤さんも。」
勝手に名前をつなげられた。
「食欲ないのか?」
「いいえ、少しダイエットです。」
「まあ、そう変わってはいないと思うが。」
「もう、だから鈍いって言うんです。近藤さんは。いい大人なのに。」
怒られる。実は坂井は飲むとめんどくさい。
玉井とは違う意味で絡みづらい。
「まあまあ、坂井ちゃん、ほらこっちに来て楽しく飲もうね。あんな唐変木のボケはほっといてね。」
高田が坂井を連れて行く。柳井の言い草を広めるな!
「大丈夫か?坂井になんかあったのか?」
「・・・特には聞いてませんが。」
携帯を見せ合いながら盛り上がる向こう。ゲームでもやってるのか?
静かに飲むふたり。
「なあ、高田のところに行ってもいいんだぞ。楽しそうだぞ。呼ぶか?」
「高田さんがいると、近藤さんが楽なんですよね。」
まあ、そうだな。適当に盛り上がるから。それは認める。
「まあ、ああいう奴だから。」
「別に高田さんがいなくても楽しいじゃないですか?今年最後ですよね、きっと。」
「あ、ああ。」
今年最後というところへの返事だ。
「・・・・もう、飲みますよ。」
グラスに残ったワインを空けて、自分でさらにつぎ足す。
「近藤さんはお正月の予定は?」
実家に帰るという選択肢はない。絶対ない。大人しく自宅で過ごすだけだ。
「特にない。玉井は実家でゴロゴロするのか?」
「聞き方に悪意があります。定番ですが大掃除の手伝いとおせちの手伝いと家族で夜更かしと蕎麦と寝坊と初詣です。」
「去年まではそうでも、・・・・今年は違うんじゃないのか?」
「いえ、ゆっくり炬燵にテレビとミカンです。後お父さんのお酒に付き合います。」
子供の顔で言う玉井。
「仲がいいんだな。」
「はい、近藤さんのお家は?えっとお姉さんと妹さんがいるんですよね?」
「そんな上品なものじゃない。モンスターだ。夏に呼ばれて帰ったが地獄を見た。相変わらず自己中心的で無礼で思いやりのかけらもない人でなしだ。」
忘れていたカサブタを剥がされて噴出したのは玉井が想像もつかないだろう憎悪に近い感情。
あいつらのおかげで異性を見る目が歪んだんだ。
今の自分は不愉快なくらいあのモンスターに反発して生まれた個性だ。
「近藤さん、顔が怖いです。」
思わずハッとなった。思い出したくない。
静かに目を閉じて深呼吸して眉間のしわを伸ばす。
納得できない顔をする。
「多分玉井の想像を絶するんだよ。頭から食われる恐怖を感じるよ。」
「逞しいということですかね?」
「いや傍若無人とか・・・。もう考えたくもないから他の話にしてくれ。」
「私はうらやましいです。何人も兄弟がいて。」
「玉井は一人だったよな?」
「そうです。お母さんとお父さんは仲良しなのに、私一人だけなんです。残念です。お兄ちゃんかお姉さんが欲しかったです。」
「グルグル頑丈に梱包して熨斗と『悪霊退散』のお札を貼りまくって進呈したいくらいだ。」
「お正月よりもクリスマスは楽しみなんじゃないか?」
「何故ですか?ぐりぐりと痛いところ突いてきませんか?」
「冗談だよ。」
本当に予定はないのか?さすがにしつこいか。
「近藤さんは・・・美人の彼女さんとですよね?」
「・・・ああ・・・まあな。」
明るく、でも窺がうように聞かれて。
見栄を張ってた訳じゃないのにそう答えてた。
「そうですか。」
あっさりと流された。
「玉井、うらやましいか?」
「いいです、別に。」無関心と顔に書いてるような無表情。
「家族と過ごすのも楽しそうだな。」
「そんなに半笑いで言うことですか?放っといてください。」
半笑い?そんなつもりはないのに怒らせたらしい。
「ほら、飲んで。」
グラスにワインを注いだのに手に取ることもしない。
静かにボトルを置いた。
高田を見て助けを呼ぶ。
揶揄うのはいつもの事なのに、最近ときどき反応に違和感がある。
敏感に察したらしい。一気に賑わしい声が寄ってきた。
「玉井ちゃん、聞いて。去年の忘年会ね、こいつ飲みすぎて俺が部屋まで送ったんだよ。男を送っても面白くないよね。今日飲んだくれた時は玉井ちゃんにお願いするからね。ん?どうしたの?いじめられた?」
無言で高田の一人劇場を見ている。
高田の語る話の真実は途中までタクシーに相乗りしただけだ。
ただ、そのいい加減さに助けられてる今。
そっと席を立ちトイレに行く振りをする。
振りとは言ってもトイレには行った。
そして少し外へ。
あと数週間でクリスマス。
この店の前も明らかに光が増えている。
もし彼女と別れずにいたら。
それなりのレストランを予約して食事して、結局あとは一緒だっただろう。
欲しいものを買いに出かけプレゼントすることはしただろうか?
分からないからという言い訳で一緒に行き選んだものをプレゼントする。
結局はそれが楽なのだ。
しょうがない、分からないじゃないか。
ちゃんと考えようともしなかったけど。
だから、結局こうなるのは必然で。
何を今頃反省してるのやら。
すっかり忘れてたのに、この間見せられたメールとさっき自分でついた嘘に思い出してしまった。
そろそろ大丈夫かな?
席に戻る。
場はまた明るい雰囲気になっていた。
そっと席に戻る。坂井は相変わらず楽しそうに周りに絡んでいる。
他もいい加減酔ってる。
ほとんどビールだけで食べた気もしない。
すっかり醒めたがパスタを取り分けて食べる。
今日は結構残ってる。
高階と坂井が酔っ払いグラスを離さない。玉井はまだ静かにしてる。
高田は何してたんだ?
ちらりと見ると肩をすくめられた。おいおい頼むよ。
俺はどんな間違いをやらかしたんだ?
奴の力でもリカバリー不能とは。
俺のせいって訳じゃないかも。そうかも。きっと、そうだろう。
デザートとコーヒーが運ばれてきた。
トレーを受け取り一番酔ってなさそうな自分が配る。
「坂井、大丈夫か?帰れるか?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと目を覚まして帰ります。」
そう願いたい。
他にも声をかけて酒のグラスを置かせる。
「玉井、ほら、美味しそうだぞ。」
気がつかないふりして声をかけて去る。
スプーンを持ったのは見た。
高田に配る時に目配せして外に連れだす。
「砂糖もらってくるね。」
言い訳をしながら時間を開けてついてきた。
「おい、何だよ。全然元気になってないぞ。」
「本当にアホなのか?いい加減に気がつけ。今日こそ玉井ちゃんとちゃんと話をしろ。ここでな。」
胸をドンと突かれて言われた。
めんどくさそうに見放されたとも言える。
さっきまで話をしてたじゃないか。黙ったのは玉井なのに。
高田のせいじゃないのか・・・?
割り切れない思いで背中を見ていると本当に砂糖をもらってくるらしくホールを突っ切っていく。
しょうがないので先に戻る。
それなりに落ち着いた雰囲気で誰もがデザートを食べている。
いつものように坂井の前に二人分あった。
玉井が谷垣君に話しかけて、しばらくうっすらと聞いてたら唐突に会話が終わった。
顔を上げると2人で携帯を見て何かしている。
谷垣君が楽しそうで、焦ってるような玉井。
何だろう?会話がないままの2人でよく分からない。
結局高田が立ち上がり最後の挨拶をした。
何だかこいつの研究室の様だ。
室長は俺だがそんな事にはこだわない。やりたきゃ、やれ。
「もうすぐクリスマスですよ。みんなハッピーに迎えましょう。そしていい年にして締めくくりましょう。それではまた新年会で会いましょう。」
余計なことを最後に言った気もする。
新年会もこのメンバーなのか?本当に図々しい奴だ。
拍手でしめられて満足げに座る高田。
「谷垣、迷惑だったら断っていいんだぞ。楽しんでもらえるならもちろん大歓迎だが。」
「楽しいです。やっぱり楽しいですよ、女性もいて人数も多くて。高田さんも別人のようです。」
「そうか。ならいいや。」
「近藤、まだ俺が無理やり連れて来てると思ってるのか?たまには楽しい飲み会に参加させたい上司の優しい気遣いなのに。」
自分が楽しみたいくせに。
荷物を持ちそれぞれが席を立つ。前もってお金を集めていて店長に預けている。
帰りに領収書をもらうだけだ。
「はい、領収書。」
「お、いつの間に。」
「さっき、ちょうど手が空いてたみたいだからもらってきた。気が利くだろう。」
「まあな。サンキュ。」
外に出て解散してそれぞれ散る。
「玉井、お前ちゃんと電話したのか?」
ハッとして携帯を探る。してないな。
「玉井ちゃん、今日は近藤のことろに泊めてもらいなよ。疲れたよね、タクシー呼んでもらえばいいから。」
ここで嫌がるそぶりはできない。
半分はそうしてもいいと思ってた。
「いいからうちに来い。泊めてやるから。」
無言で返事をしない。考えてるようだ。
「玉井ちゃん、じゃあ、気を付けてね。近藤のことよろしく。」
あっさり高田が背中を見せて離れていく。
「無理にとは言わないが、空いてると思うか?」
無言で携帯を手にしたまま。
「嫌じゃなかったら。」
「すみません。お願いします。タクシー代払います。」
「じゃあ、半分な。」
大通りに出てタクシーを止めて乗り込む。
先に乗り込んで奥に移動するとついてきて端に座る。
相変わらず無口だ。
でも起きてるだけで満足だ。自分で歩いてくれ。
「コンビニに寄るか?」
「いえ、大丈夫です。」
運転手さんにマンションの前まで着けてもらい結局支払いは任せた。
世間ではレストラン宴会場居酒屋、どこも予約で埋まる時期。
金曜日なんてとにかく早くに予約をしないといけない曜日だった。
それでも人数が少ないせいか第一希望でとれた。
「今年も参加させてもらえてうれしいです。来年もこの二人は第二研究室とともにあります。」
馬鹿らしい挨拶をして高田が乾杯の音頭を取る。
軽くグラスを合わせて飲み始める。
相変わらずそれぞれが手酌で。
いつの間にか高田の周りに人が寄り、端にいた自分の周りが空いた。
おしぼりの追加を頼まれて外から帰ってきた玉井。
自分の席はすっかりとられてしまってる。
空いた自分のすぐ目の前の席に座ったのでグラスを渡してやる。
「飲みすぎるなよ。」
「分かってます。」
いつものやり取りだった。
「近藤さん、異動願いって結構聞いてもらえるものなんですか?」
はぁ?確かに毎年この時期に提出するようにと配られる。
だがあくまでも専門色のつよい自分たちが対象になるとは考えてなかった。
必要があり支社や製造部に行きたいときは、結婚やその他の理由などつけて相談の上か出向という形が多い。
「玉井お前、どこかに出たいのか?」
相談もなかったが。
「いえ、違います。ただ聞いただけです。希望せずにチェックしてますよ。」
ビックリした。
「そうだよ、お前がいなくなると寂しいぞ。」
グラスを持った手が揺れた。ビックリされたらしい。
別にいつもの軽口なのに。
他の奴がいない状況が珍しかったか?
「不満があるなら言えよ。」
「ないです、全然ないです。」
「なら安心だ。」
お互いにグラスに口をつける。
「年明けもあっという間だぞ。あと少ししたら新人が入ってくるかもしれない。まあ、うちは3人も来たし、しばらく補充はないだろうが。いよいよ2年目だな。最初はどうなるかと思ったが。」
「はい・・・・自分でも成長したと思ってます。」
「スタート前に助走つけて後ろに下がり過ぎたパターンだったな。懐かしいなあ。いろいろあり過ぎて数年前にも思えるほどだ。」
「私は・・・あっという間でした。」
「なあ、あの最初の時・・・・・・。いや、何でもない。」
つい聞いてしまいそうになった。ちょっと気になっただけだ。
首を倒して見上げる玉井のグラスを酒で満たす。
「飲め飲め。」
「珍しいですね。勧めるなんて。大丈夫ですよ。最近はちゃんと確保してますから。」
「今日もか?」
「それはまだですけど。途中で電話します。」
「彼氏の部屋か?」
「わざと言ってますか?」そっぽ向いて答えない。
違うのか?
「近藤さん、楽しんでますよね?」
既に目がすわってる気がする坂井。
玉井を見ると驚いた表情で坂井を見ている、同じことを思ってるようだ。
注がれるままにビールを飲む。
「茜ちゃん、食べてる?最近全然量が減ってるよね?痩せてきたよね?どうしたの?相談に乗るよ、私も、近藤さんも。」
勝手に名前をつなげられた。
「食欲ないのか?」
「いいえ、少しダイエットです。」
「まあ、そう変わってはいないと思うが。」
「もう、だから鈍いって言うんです。近藤さんは。いい大人なのに。」
怒られる。実は坂井は飲むとめんどくさい。
玉井とは違う意味で絡みづらい。
「まあまあ、坂井ちゃん、ほらこっちに来て楽しく飲もうね。あんな唐変木のボケはほっといてね。」
高田が坂井を連れて行く。柳井の言い草を広めるな!
「大丈夫か?坂井になんかあったのか?」
「・・・特には聞いてませんが。」
携帯を見せ合いながら盛り上がる向こう。ゲームでもやってるのか?
静かに飲むふたり。
「なあ、高田のところに行ってもいいんだぞ。楽しそうだぞ。呼ぶか?」
「高田さんがいると、近藤さんが楽なんですよね。」
まあ、そうだな。適当に盛り上がるから。それは認める。
「まあ、ああいう奴だから。」
「別に高田さんがいなくても楽しいじゃないですか?今年最後ですよね、きっと。」
「あ、ああ。」
今年最後というところへの返事だ。
「・・・・もう、飲みますよ。」
グラスに残ったワインを空けて、自分でさらにつぎ足す。
「近藤さんはお正月の予定は?」
実家に帰るという選択肢はない。絶対ない。大人しく自宅で過ごすだけだ。
「特にない。玉井は実家でゴロゴロするのか?」
「聞き方に悪意があります。定番ですが大掃除の手伝いとおせちの手伝いと家族で夜更かしと蕎麦と寝坊と初詣です。」
「去年まではそうでも、・・・・今年は違うんじゃないのか?」
「いえ、ゆっくり炬燵にテレビとミカンです。後お父さんのお酒に付き合います。」
子供の顔で言う玉井。
「仲がいいんだな。」
「はい、近藤さんのお家は?えっとお姉さんと妹さんがいるんですよね?」
「そんな上品なものじゃない。モンスターだ。夏に呼ばれて帰ったが地獄を見た。相変わらず自己中心的で無礼で思いやりのかけらもない人でなしだ。」
忘れていたカサブタを剥がされて噴出したのは玉井が想像もつかないだろう憎悪に近い感情。
あいつらのおかげで異性を見る目が歪んだんだ。
今の自分は不愉快なくらいあのモンスターに反発して生まれた個性だ。
「近藤さん、顔が怖いです。」
思わずハッとなった。思い出したくない。
静かに目を閉じて深呼吸して眉間のしわを伸ばす。
納得できない顔をする。
「多分玉井の想像を絶するんだよ。頭から食われる恐怖を感じるよ。」
「逞しいということですかね?」
「いや傍若無人とか・・・。もう考えたくもないから他の話にしてくれ。」
「私はうらやましいです。何人も兄弟がいて。」
「玉井は一人だったよな?」
「そうです。お母さんとお父さんは仲良しなのに、私一人だけなんです。残念です。お兄ちゃんかお姉さんが欲しかったです。」
「グルグル頑丈に梱包して熨斗と『悪霊退散』のお札を貼りまくって進呈したいくらいだ。」
「お正月よりもクリスマスは楽しみなんじゃないか?」
「何故ですか?ぐりぐりと痛いところ突いてきませんか?」
「冗談だよ。」
本当に予定はないのか?さすがにしつこいか。
「近藤さんは・・・美人の彼女さんとですよね?」
「・・・ああ・・・まあな。」
明るく、でも窺がうように聞かれて。
見栄を張ってた訳じゃないのにそう答えてた。
「そうですか。」
あっさりと流された。
「玉井、うらやましいか?」
「いいです、別に。」無関心と顔に書いてるような無表情。
「家族と過ごすのも楽しそうだな。」
「そんなに半笑いで言うことですか?放っといてください。」
半笑い?そんなつもりはないのに怒らせたらしい。
「ほら、飲んで。」
グラスにワインを注いだのに手に取ることもしない。
静かにボトルを置いた。
高田を見て助けを呼ぶ。
揶揄うのはいつもの事なのに、最近ときどき反応に違和感がある。
敏感に察したらしい。一気に賑わしい声が寄ってきた。
「玉井ちゃん、聞いて。去年の忘年会ね、こいつ飲みすぎて俺が部屋まで送ったんだよ。男を送っても面白くないよね。今日飲んだくれた時は玉井ちゃんにお願いするからね。ん?どうしたの?いじめられた?」
無言で高田の一人劇場を見ている。
高田の語る話の真実は途中までタクシーに相乗りしただけだ。
ただ、そのいい加減さに助けられてる今。
そっと席を立ちトイレに行く振りをする。
振りとは言ってもトイレには行った。
そして少し外へ。
あと数週間でクリスマス。
この店の前も明らかに光が増えている。
もし彼女と別れずにいたら。
それなりのレストランを予約して食事して、結局あとは一緒だっただろう。
欲しいものを買いに出かけプレゼントすることはしただろうか?
分からないからという言い訳で一緒に行き選んだものをプレゼントする。
結局はそれが楽なのだ。
しょうがない、分からないじゃないか。
ちゃんと考えようともしなかったけど。
だから、結局こうなるのは必然で。
何を今頃反省してるのやら。
すっかり忘れてたのに、この間見せられたメールとさっき自分でついた嘘に思い出してしまった。
そろそろ大丈夫かな?
席に戻る。
場はまた明るい雰囲気になっていた。
そっと席に戻る。坂井は相変わらず楽しそうに周りに絡んでいる。
他もいい加減酔ってる。
ほとんどビールだけで食べた気もしない。
すっかり醒めたがパスタを取り分けて食べる。
今日は結構残ってる。
高階と坂井が酔っ払いグラスを離さない。玉井はまだ静かにしてる。
高田は何してたんだ?
ちらりと見ると肩をすくめられた。おいおい頼むよ。
俺はどんな間違いをやらかしたんだ?
奴の力でもリカバリー不能とは。
俺のせいって訳じゃないかも。そうかも。きっと、そうだろう。
デザートとコーヒーが運ばれてきた。
トレーを受け取り一番酔ってなさそうな自分が配る。
「坂井、大丈夫か?帰れるか?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと目を覚まして帰ります。」
そう願いたい。
他にも声をかけて酒のグラスを置かせる。
「玉井、ほら、美味しそうだぞ。」
気がつかないふりして声をかけて去る。
スプーンを持ったのは見た。
高田に配る時に目配せして外に連れだす。
「砂糖もらってくるね。」
言い訳をしながら時間を開けてついてきた。
「おい、何だよ。全然元気になってないぞ。」
「本当にアホなのか?いい加減に気がつけ。今日こそ玉井ちゃんとちゃんと話をしろ。ここでな。」
胸をドンと突かれて言われた。
めんどくさそうに見放されたとも言える。
さっきまで話をしてたじゃないか。黙ったのは玉井なのに。
高田のせいじゃないのか・・・?
割り切れない思いで背中を見ていると本当に砂糖をもらってくるらしくホールを突っ切っていく。
しょうがないので先に戻る。
それなりに落ち着いた雰囲気で誰もがデザートを食べている。
いつものように坂井の前に二人分あった。
玉井が谷垣君に話しかけて、しばらくうっすらと聞いてたら唐突に会話が終わった。
顔を上げると2人で携帯を見て何かしている。
谷垣君が楽しそうで、焦ってるような玉井。
何だろう?会話がないままの2人でよく分からない。
結局高田が立ち上がり最後の挨拶をした。
何だかこいつの研究室の様だ。
室長は俺だがそんな事にはこだわない。やりたきゃ、やれ。
「もうすぐクリスマスですよ。みんなハッピーに迎えましょう。そしていい年にして締めくくりましょう。それではまた新年会で会いましょう。」
余計なことを最後に言った気もする。
新年会もこのメンバーなのか?本当に図々しい奴だ。
拍手でしめられて満足げに座る高田。
「谷垣、迷惑だったら断っていいんだぞ。楽しんでもらえるならもちろん大歓迎だが。」
「楽しいです。やっぱり楽しいですよ、女性もいて人数も多くて。高田さんも別人のようです。」
「そうか。ならいいや。」
「近藤、まだ俺が無理やり連れて来てると思ってるのか?たまには楽しい飲み会に参加させたい上司の優しい気遣いなのに。」
自分が楽しみたいくせに。
荷物を持ちそれぞれが席を立つ。前もってお金を集めていて店長に預けている。
帰りに領収書をもらうだけだ。
「はい、領収書。」
「お、いつの間に。」
「さっき、ちょうど手が空いてたみたいだからもらってきた。気が利くだろう。」
「まあな。サンキュ。」
外に出て解散してそれぞれ散る。
「玉井、お前ちゃんと電話したのか?」
ハッとして携帯を探る。してないな。
「玉井ちゃん、今日は近藤のことろに泊めてもらいなよ。疲れたよね、タクシー呼んでもらえばいいから。」
ここで嫌がるそぶりはできない。
半分はそうしてもいいと思ってた。
「いいからうちに来い。泊めてやるから。」
無言で返事をしない。考えてるようだ。
「玉井ちゃん、じゃあ、気を付けてね。近藤のことよろしく。」
あっさり高田が背中を見せて離れていく。
「無理にとは言わないが、空いてると思うか?」
無言で携帯を手にしたまま。
「嫌じゃなかったら。」
「すみません。お願いします。タクシー代払います。」
「じゃあ、半分な。」
大通りに出てタクシーを止めて乗り込む。
先に乗り込んで奥に移動するとついてきて端に座る。
相変わらず無口だ。
でも起きてるだけで満足だ。自分で歩いてくれ。
「コンビニに寄るか?」
「いえ、大丈夫です。」
運転手さんにマンションの前まで着けてもらい結局支払いは任せた。
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