極上の彼女と最愛の彼

葉月 まい

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あなたになら

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「えっ、ここがお部屋ですか?」

ホテルに戻ってチェックインし、客室のドアを開けると、瞳子が驚いて立ち尽くした。

「ここに泊まるの?本当に?」

「そうだけど、何?」

「だってここ、普通のお部屋じゃないですよね?ひょっとして、ススス、スイートルーム?」

「ははは!そうですよ。ススス、スイートルーム」

「もう、大河さん!」

「あれ?ひょっとして気に入らない?」

「まさか!とっても素敵なお部屋です」
「良かった。どうぞ、お嬢様」

大河がうやうやしく手で促し、瞳子はゆっくりと足を踏み入れる。

窓の外にはパノラマの夜景が広がり、部屋のインテリアも上質でシックな雰囲気だった。

「瞳子、部屋に荷物運ぶね」

景色に見とれていると後ろから声をかけられ、え?と瞳子は振り返る。

(部屋に運ぶ?って、どういうこと?)

不思議に思い目で追っていると、大河はベッドの横のドアを開けて中に入って行く。

「あれ?そっちにもお部屋があるんですか?」

「うん、ベッドもバスルームもあるよ。瞳子がこっちの部屋でいい?」

「え?あ、はい」

何だかよく分からないまま、あとに続いて部屋に入ると、大河は「じゃあ今夜はゆっくり休んで。おやすみ」と言って部屋を出て行った。



「なに?どういうこと?そりゃあね、私も半信半疑でしたよ。一緒に旅行するってことは、つまり、そういうことになるかも?でも、今回はまだかも?って。だけどね、まさか別の部屋だとは思いませんでしたよ」

バスタブの湯に浸かりながら、瞳子はブツブツと独りごちる。

「それにさ。カップルで旅行って言ったら、夜が一番ロマンチックでしょ?お部屋に二人切りで、時間も気にせずゆっくり過ごせる訳じゃない。それなのにあっさり、おやすみーって、あんまりよね。え?私がおかしい?私の認識が間違ってますか?世の中の女性の皆様!」

だんだん司会者の口調になってくる。

「私、こう言っては何ですが、ホテルに着いてからちょっぴり緊張しておりました。高鳴る胸、赤らむ頬。それはもう、恋する乙女そのものでしたよ。ついでに申しますと、わたくし、この旅行の為に下着を新調いたしました。もしかして、もしかするかも?と淡い期待を寄せていたからであります。別にそうならなかったとしても、それはそれでいいんですよ。だけれども!別の部屋はあんまりじゃないですか?うわーん。スイートルームのバカー!狭くても一つのベッドにくっついて寝たかったよー」

大声で語っているうちに、本当に涙が込み上げてきた。

「うっうっ、せっかく楽しい旅行だったのに。まさかの夜にこんなことに…。ううん。このまま泣き寝入りはしたくない!大河さんに、くっついて寝てもいいか聞いてみよう!」

瞳子はキッと顔を上げると、ザバッと勢い良くバスタブから立ち上がった。



(ふう、ビールでも飲むか)

同じ頃。

隣の部屋でシャワーを浴びた大河は、冷蔵庫からビールを取り出して窓際のソファに座った。

綺麗な夜景を見ながら、瞳子と一緒にもっとゆっくり眺めたかったな、と思う。

だが、それはあまりにも危険だ。

こんなにもロマンチックなシチュエーションで、あの瞳子と二人切りになったら…。

大きなベッドがある部屋で、風呂上がりの瞳子を目の当たりにしたら…。

平常心でいられる自信など微塵もなかった。

(過去のトラウマを抱えた瞳子を、大切にしたい。恐怖心を取り除けるよう、少しずつ少しずつ慣れていって欲しい)

そう思っているが、自分は瞳子に対して少しで済むのかと問うと、即座に首を振る。

あんなにも魅力的な瞳子に少し触れるだけで、一気に己の身体は燃え上がってしまうだろう。

それなら少しでも触れない方がいい。

All or Nothingだ。

大河は自分に頷くと、考えを振り切るように一気にビールを煽った。

その時だった。

コンコンとノックの音がして、大河は顔を上げる。

(どこのドアだ?え、まさか瞳子…?)

そう思いつつ、はいと返事をすると、ゆっくりとベッドの横のドアが開いた。

「大河さん、まだ起きてましたか?」

そっと顔を覗かせた瞳子に、大河は身体中が一気にカッと熱くなるのを感じた。

つい今しがた想像し、慌てて己の頭の中から振り払った風呂上がりの瞳子の姿。

洗いたての髪とほんのりピンクに染まった頬。

バスローブから覗く、スラリと長く白い素足。

「もう寝るところでしたか?」

再び声をかけられて、大河はハッとする。

「寝る?!いや、寝ない。起きてる」

すると自身の中心がピクリと反応した。

(いや、お前は起きるな!)

悟られないよう、ゆったりと自分のバスローブの前を整える。

「大河さん、あの。ちょっとお話してもいいですか?」

「えっ?!あ、はい。どうぞ」

てっきりその場で話し出すのかと思いきや、瞳子はドアを閉めると、真っ直ぐに大河の座るソファにやって来た。

(ヒーーーッ!いかん、これはいかん!ちょっとでもダメだぞ。All or Nothingだ!)

己に強く言い聞かせ、瞳子から目を逸らす。

瞳子がソファの隣に座ると、ヒッ!と縮み上がり、ジワジワと端ににじり寄った。

「大河さん、あのね」

「う、うん。なんだ?」

「私、大河さんがイタリアに行ってる間、すごく寂しくて、会いたくて堪らなかったの」

(そ、そんな可愛いこと言ってくれるな!息子の為にも、頼むから今だけは!)

大河は必死に心の中で念じる。

「だから今日、大河さんとこうして旅行に来られて、楽しくて幸せで。この時間がずっと続けばいいのになって思ってた。少しでも長く、大河さんと一緒にいたいの」

そう言うと、瞳子は上目遣いに、ダメ?と首を傾げて聞いてきた。

(ダメだ、もうダメだー!)

叫びたくなる衝動を懸命に堪える。

「大河さん、お疲れだからゆっくり休みたいのよね?私、邪魔にならないように気をつける。だからここで一緒に寝てもいい?何もしないから。ただ大河さんのそばにいたいの」

(何もしないで一緒に寝る?!そんな…、もはや、拷問…)

大河は絶望にガックリと肩を落とす。

「やっぱり…ダメ?」
寂しそうな瞳子の呟きに、我に返った大河は急いで首を振る。

「違う、ダメじゃないよ」

「ほんと?じゃあ、隣で寝てもいい?人差し指を繋いで寝るだけでいいから」

(人差し指ー?!なんだ?その絶妙なチラリズムは。たとえ人差し指1本でも、俺の息子は立ち上がれるんだぞ。 ほんの少しでもダメ!All or Nothingだ!)

「あの、大河さん?どうかしたの?」

顔面一人芝居を繰り広げる大河に、瞳子が不思議そうに声をかける。

大河は意を決すると、咳払いをしてから顔を上げた。

「瞳子。大事な話をしたい」

「はい」

「だがその前に、ちょっと場所を移動させてくれ」

そう言うと大河は席を立ち、テーブルを挟んだ反対側に座り直した。

「瞳子」

「はい」

改めて向き合うと、瞳子は真剣に大河を見つめる。

「瞳子はこれまで、散々嫌な思いをさせられてきた。俺は同じ男として、瞳子が酷い目に遭ったことが申し訳なくて、胸が痛む。もう二度と瞳子にそんな思いをさせたくない。だから、瞳子が異性に対しての恐怖心がなくなるまで、ずっと待つつもりだ。どれだけかかってもいい。君の心を大切にしたいんだ」

大河さん…と、瞳子は言葉に詰まる。

「だけどその為には、俺は君から遠ざかる必要がある。軽蔑されたくないから黙ってたけど、瞳子は、その…、俺にとって魅力的すぎるんだ。少しでもそばにいたいと言ってくれる君の気持ちは嬉しいし、俺も同じ思いだ。一つだけ違うのは…」

そこまで言ってうつむいてから、大河は思い切ったように顔を上げた。

「君は、何もせずただ一緒に寝たいと思っていても、俺にとってそれは無理なんだ」

瞳子は、ぱちぱちと瞬きを繰り返し、頭の中で大河の言葉をじっと考えた。

「だから、ごめん。別の部屋で寝て欲しい。君を傷つけたくないから」

大河はそう言うと立ち上がり、ベッドの横まで行ってドアを開けた。

瞳子もゆっくり立ち上がると、思い詰めたようにドアへと向かう。

その表情に、大河は居たたまれなくなった。

「瞳子、ごめん」

通り過ぎる瞳子に思わず謝った次の瞬間、瞳子が涙で潤んだ瞳で大河を見上げ、両腕を伸ばして抱きついてきた。

「瞳子…?!」

驚いて後ずさるが、瞳子は手を緩めない。

「瞳子、離して」

「いや!」

「離すんだ」

「いやなの!」

「瞳子…」

瞳子は大河の胸に顔をうずめて首を振る。

悲痛な叫びに、大河は言葉を失った。

「大河さん、私の心を大切にするって言ってくれたでしょう?」

「ああ、そうだ。君を傷つけたくないから」

「だったら!今の私の心も大切にして」

「今の、君の心…?」

「私、今、大河さんに抱いて欲しいの」

「なっ……?!」

大河は目を見開いて呆然とする。

「大河さんのことが大好きだから、心も身体も触れ合っていたいの。私の今のこの気持ちを、受け止めて欲しい。そう願ってはいけないの?」

涙をポロポロこぼしながら懸命に訴えてくる瞳子に、大河の中にわずかに残っていた理性がプツンと切れた。

「瞳子…」

大河はギュッと強く瞳子を抱きしめると、後頭部に手をやり上を向かせる。

すぐさまその唇を奪い、深く、激しく、何度もキスを浴びせた。

「んっ…」

小さく吐息を洩らす瞳子の身体から、徐々に力が抜けていく。

キスから逃れようとするのを許さず、大河は更に強く瞳子を抱きしめ、荒々しく舌を絡める。

そのままベッドに押し倒すと、真上から瞳子を見つめた。

「瞳子…。俺はお前が欲しい。俺の愛情を全てぶつけたい。受け止めてくれるか?」

肩で息を繰り返していた瞳子は、じっと大河を見つめ返し、はい、と頷いた。

大河は堪らないというようにギュッと切なく表情を歪め、一気に瞳子に覆いかぶさった。

熱にうかされたように、瞳子…と呟きながらキスを繰り返し、髪の中に指をくぐらせ、白くて綺麗な首筋をなで下ろす。

その指を追いかけるように唇を這わせると、瞳子は仰け反って吐息をつく。

何も考えられなくなった大河は、瞳子の鎖骨をなぞり、貪るように口づけた。

シーツをキュッと握りしめ、瞳子は背中を浮かせながら大河の激情を受け止める。

いつの間にかバスローブの胸元がはだけ、瞳子の豊満な胸の谷間が露わになっていた。

大河はチュッと音を立てて瞳子の胸元から唇を離すと、もう一度、瞳子、と声をかける。

「少しでも嫌だと感じたら、いつでも俺を払いのけて」

真剣なその眼差しに、瞳子はコクリと頷く。

大河は優しく微笑むと、瞳子の頭をそっとなでてからゆっくりと唇にキスをする。

まるで壊れ物に触れるように、愛おしそうに頬に手を添え、何度も何度も口づけた。

やがて瞳子の耳元で、愛してる、と囁くと、バスローブの上から瞳子の左胸に手を載せた。

しばらくそのままで、頬や首筋にキスを落としながら、瞳子の様子をうかがう。

瞳子が目を閉じて大河に身を任せていると、大河はゆっくりと右手を動かし始めた。

胸を触られている、と瞳子は一瞬恥ずかしさに駆られたが、それよりも大好きな大河に触れられていることが嬉しかった。

大河は優しく優しく、まるで心を解きほぐすように、身体に触れてくれる。

うっとりとその心地良さを味わっていた瞳子は、だんだん感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。

大河に触れられている箇所に意識が集中し、知らず知らずのうちに身体に力が入る。

バスローブの下で胸の真ん中がツンと硬さを持ち始めたのが分かり、瞳子は思わず身体を仰け反らせる。

だがそれは、差し出すように大河に胸を突き出し、ますます己の感覚を敏感にさせるだけだった。

逃れようと身をよじるが、それも、大きな胸を揺らして、更なる行為をねだるようにしか見えない。

瞳子はどうしていいか分からず、ただ何かが押し寄せてくる感覚に身悶えながら耐える。

大河は瞳子の反応を見ながら大きな胸を揉みしだき、遂に人差し指を伸ばして中央の固い蕾に触れた。

「んんっ!」

瞳子の胸がピクンと跳ね、駆け抜ける痺れに耐えるように身を固くする。

やがてクタッと身体の力を抜くと、おずおずと視線を上げて大河を見つめた。

「瞳子、大丈夫?」

「うん…」

大河は左手を瞳子の背中の下に入れて、自分の胸に抱きしめた。

「可愛かった。もっと見せて。何も考えずに、俺に身を任せてて」

耳元で囁くと、瞳子はコクンと頷く。

大河は瞳子の頭をなで、そのままスーッと首筋を通り、バスローブの胸元に手を差し入れた。

滑らかな肌の上を滑るようになで、豊かな胸に直接触れる。

固くなったままの蕾は、再び与えられる刺激にプクンと立ち上がった。

親指のつけ根でクルクルと蕾を転がしていると、瞳子が両手でシーツを握りしめ、必死に首を振る。

「あっ、んん…、ダメ」

ねだるような甘い声と色っぽい吐息に、大河は左手を押し上げて更に瞳子の胸を突き出させ、右手の刺激を強めていく。

「いや、んん…、あっ、ダメ、やっ…」

快感が昂り、遂に頂点に達した瞳子は、んんー!と身体を仰け反らせて硬直する。

ビクンビクンと震えてから、大河の腕にクタリと身体を預けた。

潤んだ瞳と上気した頬、はあ…と艶かしく洩らす吐息に、大河の欲情も限界を超える。

瞳子のバスローブのリボンを解き、荒々しく前をはだけると、そのままあちこちに口づけていく。

胸を揉みしだき、その中心をチュッと吸い上げると、快感が去ったばかりの瞳子は、また大きく仰け反って身体を震わせた。

その隙にショーツを一気に足から引き抜き、既に濡れそぼった一番敏感な部分に手を触れる。

瞳子は足をすり合わせて身をよじるが、大河は構わず指でほぐし、ゆっくりと指を中に入れた。

「ああっ!んん…」

瞳子は必死に大河の腕を掴んで耐えるが、いつしか誘うように腰が揺れ、少しずつ足を開いて大河の指を奥へと招く。

胸を吸われ、指で中をかき回され、瞳子はもう何も考えられずに、ただひたすら大河に身を委ねる。

やがてまた登り詰める感覚がせり上がってきて、瞳子はギュッと大河にしがみついた。

「んんーー………!」

大河の指を引きちぎってしまうのではないかと思うほど、自分の身体の中心がものすごい力で締めつけるのを感じた後、その反動でグッタリと力が抜けた。

荒い息を繰り返しながらぼんやりと目を開けると、一度身体を離してバスローブを脱いだ大河が、また瞳子を優しく抱きしめた。

「瞳子、君の全てが欲しい。俺を受け入れてくれる?」

瞳子は大河を見つめながら小さく頷く。

大河は頬を緩めて瞳子にキスをしてから、自分の中心をあてがい、ゆっくりと瞳子の中に入っていく。

奥へ進むにつれて身体に力を入れて耐える瞳子に、大河は一度動きを止めて優しく頭をなでた。

「瞳子、愛してる」

耳元で囁き、甘くキスをすると、瞳子の身体から力が抜けていく。

その様子を見ながら、大河はまた腰を進めた。

ゆっくり、ゆっくり、優しく、労るように…

遂に二人の身体はピタリと重なった。

「瞳子…。俺は君を傷つけてない?」

大河の言葉に、瞳子の目から涙が溢れる。

「そんなことない。大河さん、私の傷を癒やしてくれてありがとう。私、大河さんのおかげで乗り越えられた。大河さんが大きな愛で包んでくれたから、私はもう大丈夫です」

「良かった…」

大河は嬉しそうに微笑む。

「これからもずっと君に愛を注ぎ続けるよ。どんな時も、君を守るから」

「はい」

幸せな涙を溢れさせながら、瞳子は大河に愛される。

他の人になら、ほんの少し身体に触れられただけでも嫌悪感が走るだろう。

それはきっと、これからも変わらない。

ただ一つ、今までと違うこと。

この人になら、触れられても構わない。

その想いもずっと変わらない。

この人だから、触れられても愛を感じる。

この人だから、触れて欲しい。

瞳子はそのことを確信しながら、温かい大河の温もりを感じ、大きな愛に包まれる幸せに身を委ねていた。
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