極上の彼女と最愛の彼

葉月 まい

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バースデーパーティー

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「やりたい!やりたい!これだけはぜーったいに譲れないからな!」

「あー、もう、うるさい!しつこい!何度言ったら分かるんだよ!」

外出先から戻り、オフィスのドアを開けた洋平は、聞こえてきた大きな声に、なんだ?と吾郎に目で尋ねる。

「いつもの不毛な争いですよー」

吾郎は椅子をユラユラ揺らしながら、呆れたように洋平に答えた。

「でも今回は透の勝ちかな」

「どうしてだ?」

「俺も透と同感だから」

どういうことだ?と洋平は眉根を寄せる。

すると透が大河に、またしても大きな声で訴えるのが聞こえてきた。

「アリシアの誕生日だぞ?年に一度の大切な日を、盛大にお祝いして何が悪い?大河がそんな血も涙もない人間だなんて、知らなかったよ!」

「俺は彼女の都合を考えろって言ってんだ。何か予定があるかもしれないだろ?それなのに誘ったら、気を遣わせてしまうかもしれないんだぞ?」

「そんなの、聞いてみなけりゃ分かんないだろ?」

むーっと二人は睨み合う。

「まあまあ、お二人さん。じゃあこうしよう。瞳子ちゃんに、誕生日に何か予定はあるか?って聞いてみる。なければ、その時はうちでパーティーしないか?って誘う。それならいいだろ?」

吾郎が取りなすと、わーい!と透は両手を挙げた。

「いいとも、いいともー!聞いてみる!」

透!と大河が止める声も虚しく、透はさっさと電話をかけ始めた。

「あ、もしもしアリシア?元気かい?もうすぐ君の誕生日だね。うちのオフィスで盛大にバースデーパーティーをしようと思うんだ。来てくれる?」

おい!話が違うだろ!と大河が突っ込むが、透の耳には届いていないようだった。

「そっか。じゃあ、仕事が終わってからなら大丈夫?うん、良かった!美味しい料理とケーキを用意して待ってるからね。はーい、またね!」

スマートフォンから耳を離すと、来れるってー!と嬉しそうに笑う。

「透!お前はもうー!」

鬼の形相の大河には目もくれず、早速透は料理とケーキをどこに頼もうかと検索し始めた。

「いいじゃないか、大河。最近パリの映像作りで、俺達パンクしかけてたしさ。気分転換になると思って、今回ばかりは透の好きにさせてやろうぜ」

洋平がポンと大河の肩を叩く。

仕方なく、大河は見逃すことにした。

「それにしても、透。お前、そんなに瞳子ちゃんにゾッコンで、そろそろ告白しようとか思ってんのか?」

吾郎の言葉にギクリとして、大河は思わず透を凝視する。

「んー?思わないよ」

スマートフォンを操作しながら、やけにあっさり否定する透に、吾郎も拍子抜けする。

「へ?なんで?」

「だってアリシアは、俺にとってはスーパースターみたいな存在だからね。手の届かない雲の上の存在。あんなに極上の女性の隣には、超絶にいい男が並ばなきゃ。俺なんかじゃ釣り合わない。俺はアリシアが幸せでいてくれたらそれでいいんだ」

透、お前…、と吾郎が言葉に詰まる。

「尊い、尊いぞ、透!まさかお前がそんなに大人だとは。てっきり尻尾フリフリの子犬かと思ってたのに」

「あー、子犬ね。憧れるなあ。アリシアに抱っこしてもらって、頭なでなでしてもらいたいなー」

うぐっと吾郎が妙な声を上げる。

「前言撤回。透、お前はやっぱり大人じゃない」

「えー?なんでだよ」

二人のやり取りを聞きながら、大河は次に瞳子に会う時にどんな話をすればいいのだろうと頭を抱えていた。



「ハッピーバースデー!」

ドアを開けた瞬間、クラッカーがパンパン!と鳴って、瞳子は、わっ!と驚く。

誕生日当日。

仕事を終えた足で、瞳子はアートプラネッツのオフィスを訪れていた。

「おめでとう!アリシア。さ、入って」

「ありがとうございます。あー、びっくりした」

瞳子は胸に手を当ててひと息つくと、満面の笑みで皆に挨拶した。

「皆さん、今日は私の為にありがとうございます」

「お礼を言うのはこっちだよ。うるさい透の誘いにつき合ってくれて、ありがとね、瞳子ちゃん」

そう言って洋平が瞳子をテーブルへと促す。

中央の丸テーブルには、所狭しとパーティーメニューが並べられ、瞳子は目を輝かせる。

「美味しそう!ホテルのビュッフェみたいですね」

「そうなんだ。去年、アリシアの誕生日をお祝いしたホテルでオーダーしたんだよ。あの時は楽しかったね」

透が思い出したように目を細める。

「ふふっ、そうですね。皆さんの仮装がとっても面白くて。あの時の写真、今でも時々見返して笑っちゃいます」

「へえ、そうなの?俺もだよ。アリシアがとびきり美人でさ。あ、もちろん今夜もね」

「ありがとうございます。それにしても、1年って早いですね」

二人で語り合っていると、吾郎が皆にグラスを配り始めた。

「ほら、まずは乾杯しよう。瞳子ちゃん、26歳おめでとう!」

おめでとう!と皆はグラスを掲げ、瞳子はまた笑顔でお礼を言った。



「そうなんだ。瞳子ちゃん、もうすっかりMCの仕事に復帰したんだね」

「はい、お陰様で」

美味しい料理を味わいながら、瞳子は洋平や吾郎とおしゃべりを楽しむ。

「もう週刊誌に追われたりしてない?」

「全然です。私なんて、そもそも芸能人でもないので、誰も興味ないですしね」

そんなことないよ!アリシアは泣く子も黙るウルトラ級の美女じゃないか!

という透の言葉は皆にスルーされる。

「瞳子ちゃんには、また俺達のミュージアムでMCやって欲しいよな」

そうだよ!アリシアは俺達の専属MCだよ!

「でもしばらく国内でのイベントの予定はないしなあ」

だったらパリまで連れて行こう!パリジェンヌだよ、アリシア!

「もしまた日本でミュージアムを開催される時は、是非お手伝いさせてください」

もちろんだよ!アリシア以外に誰がいるっていうんだい?

「ああ。パリでの展覧会が成功したら、凱旋公演をやりたいよな。その時は必ず瞳子ちゃんにお願いするよ」

君の為に必ず成功させてみせるよ、アリシア!

「はい!楽しみにしていますね」

してて、しててー!俺もひと回り大きくなって、君のところに戻ってくるからね、アリシア!

「透、うるさい」

ずっと皆のやり取りを聞いていた大河が、最後にグサリと突き刺すように鋭い声で透を黙らせた。



「やーれやれ。ちょこまかうるさいのが静かになったと思ったら、酔いつぶれてんのな」

赤い顔でテーブルに突っ伏している透を見ながら、吾郎が呆れる。

「よほど楽しかったんだろう。最近ずっと俺ら4人で顔つき合わせて、カリカリしてたからな」

洋平が大人の余裕を漂わせながらそう言い、またワインを口にする。

「皆さんお忙しいのに、今夜は本当にありがとうございました」

改めて頭を下げる瞳子に、洋平と吾郎は優しく微笑んだ。

「こちらこそ。瞳子ちゃんに久しぶりに会えて嬉しかったよ」

「ああ。元気そうで良かった。またいつでも遊びに来てくれ」

はい!と瞳子も笑顔で頷く。

「そろそろ帰った方がいい。送っていく」

大河が車のキーを手に立ち上がった。

「あれ、お前飲んでなかったんだ?」

「ああ」

「へえ。ずーっと黙ってるから、てっきり一人酒でも楽しんでるのかと思ってたのに」

洋平の言葉をかわし、大河は瞳子をドアへと促す。

「それではここで。洋平さん、吾郎さん、今夜はありがとうございました。おやすみなさい」

「おやすみ、瞳子ちゃん」

「またな!」

瞳子はにっこりと笑顔を残してオフィスをあとにした。
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