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サプライズウェディングですか?!
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「真菜ー。ネットで予約された新規のお客様、あなたが担当してくれる?」
真菜は、はーいと返事をして、久保から書類を受け取る。
(えっと、なになに…。田辺 和之様と田辺 知美様。年齢は、50才と49才。うーん、再婚の可能性もあるかな。名字が同じって事は、既に入籍済みなのね。あら?他の欄は真っ白ね。とにかく会ってお話してみなくちゃ)
予約時間に現れた田辺夫妻を、真菜と美佳は笑顔でサロンに迎え入れる。
「田辺様、この度はご結婚、誠におめでとうございます」
すると二人は、戸惑った様に手を振った。
「あ、いや、その、私達は違うんです」
はい?と真菜も美佳も、目をパチクリさせる。
「実は、その…。娘夫婦に、結婚式を挙げさせてやりたくて。そういうのって、こちらで出来るのかなって、ご相談したくて来たんです」
「あの、詳しくお聞かせいただけますか?」
真菜の言葉に頷いて、二人は説明を始めた。
*****
「ん、娘さん夫婦の為の挙式?それって、サプライズって事?」
「はい」
久保に相談しようと、真菜は一旦オフィスに戻り、今聞いたばかりの内容を説明する。
田辺夫妻の娘は、高校3年生の冬に妊娠したのだそう。
相手は同じ学校の同級生、つまり18才同士だった。
二人とも大学に進学が決まっていたが、親や周囲の反対を押し切り、大学は諦めて結婚、出産した。
そんな二人も、今は22才。
その時に産まれた男の子も、3才の可愛い盛り。
最近では、どうしてあの時、あんなに反対してしまったのだろうと、両親は悔やんでいるのだそうだ。
「私達が反対したばかりに、二人とも結婚式も挙げず仕舞いで。出産も誰にも頼らず、出産費用も二人でバイトで貯めたお金を充てて…。悪かったなって、後悔してるんです。あ、今はもう関係は良好で、あちらのご両親とも仲良くやってるんですけどね。ドレス姿の写真も、撮らせてあげたいわねって、あちらのお母様も仰ってくれて…。身内だけで、こじんまり挙式出来たらなーと。そういうのって、お願い出来ますか?出来れば、本人達には当日まで内緒にしておきたいんですけど」
真菜は、これまでにもそういった対応をした事があり、可能だと説明した。
やり方としては、当日、皆で外で食事でもしようと二人を連れ出し、ここに連れて来てもらう。
そして、ブライダルフォトをプレゼントしたいからと言って、二人に衣裳に着替えてもらうのだ。
ヘアメイクを済ませ、では写真スタジオに移動しましょうと言って、スタジオではなくチャペルに案内し、扉を開けた途端、列席者が拍手で迎え、式が始まる、という流れだ。
「あら、いいわね!みんなはこっそりチャペルに入って待ってるって訳ね」
「はい。それに、このやり方ですと、衣裳も当日ご本人に選んで頂けます」
「それは喜ぶと思うわー。娘もね、やっぱりウェディングドレス、着たかったみたいでね。雑誌でそういうのが載ってると、じっと見てるのよ」
「ウェディングドレスは女の子の憧れですものね。では、ブライダルフォトをプレゼントしたいとお話された時点で、お二人に断られる可能性は?」
「それはないと思うわ。きっとびっくりして、喜ぶと思う」
「そうですか!では、わたくし共に是非お手伝いさせて下さい」
そして、一旦店長の耳にも入れた方がいいと、オフィスに戻ったのだった。
「ふーん、いいわね!そのまま真菜が担当して、進めてくれたらいいわ」
「かしこまりました!」
真菜は笑顔で頷くと、サロンに戻って、さらに詳しく打ち合わせをした。
そして、なるべく早くというご希望で日取りを確認し、空きがあった6月16日の金曜日の夜と決まった。
挙式のあと、披露宴会場で簡単にパーティーを開く事も出来ますよと話すと、それなら二人の友人にも声をかけてみる、と、ご両親は嬉しそうだった。
衣裳のカタログや、チャペルの中も見て頂き、ゲストの人数が分かり次第ご連絡下さいとお願いして、今日のところは打ち合わせを終える。
当日が楽しみです!よろしくお願いします!と、ご両親は笑顔で帰って行った。
*****
「真菜先輩!サプライズウェディングなんて、凄いですねー」
オフィスに戻ると、美佳は興奮気味に目を輝かせた。
「私もとっても楽しみです!喜んで下さるといいなー」
「そうね。サプライズウェディングは、事前の準備と当日のスタッフの動きがとても重要になるから、慎重に進めましょう」
「はい!頑張ります!」
美佳に頷くと、早速真菜は、ToDoリストを作る。
従来の準備とは、やる事がガラリと変わる。
なにせ、ご本人とは話が出来ないのだ。
ご両親にも、列席の方への連絡をお願いし、当日、無事に新郎新婦に会う事なく皆様をチャペルにご案内しなくてはならない。
真菜は、頭の中で何度もシミュレーションしながら、確認事項を考えた。
*****
6月に入ったある日。
真は、本社の社長室を訪れていた。
「お呼びでしょうか?」
頭を下げると、叔父である社長が頷いた。
「ああ。ちょっとお願いがあるんだ」
「はい。どの様な事でしょうか?」
真は、表情を変えずに聞く。
大学院を卒業後、真は、父が社長を、祖父が会長を務めるプルミエール・エトワールに入社する予定だった。
だが、急に、叔父が社長を務める関連会社のアニヴェルセル・エトワールに行けと言われ、真は、なぜ?という疑問で一杯だった。
とにかくがむしゃらに4年間海外事業部で働いたが、今でも、なぜこの会社に?と、父への不信感が消えず、叔父にも心を開けないでいた。
「どうだ?日本に帰って来てそろそろ3ヶ月か。会社にも慣れたか?」
「慣れた、というのがどういった状態かは分かりませんが、日々業務に邁進しております」
「ふっ、相変わらずだな。真、たまには実家にも顔を出しなさい。兄さん達も、ずっとお前に会いたがってるんだぞ?」
「お話はそれだけでしょうか?でしたらもう」
「あー、分かった分かった。この話はもうやめるから」
社長は慌てて手を挙げる。
「実はな、テレビ局から、撮影の許可が欲しいと連絡があった」
「テレビ局から、ですか?」
「ああ。朝の情報番組で、うちで挙式するあるカップルを密着で撮影し、内容が良ければ放送したいとの事だった。ただし、撮れ高が悪かったり、ご本人からNGが出れば放送はされないらしい。とにかくまずは、撮影させてもらえないか?との事だった」
「撮れ高はともかく、ご本人からNGとは?事前に聞いてOKもらえないのでしょうか?」
真が怪訝そうに言うと、それなんだがな、と社長は書類を見せてきた。
「この挙式は、新婦のご両親が計画したサプライズウェディングなんだそうだ。本人達には当日まで内緒で、身内の方々がこっそりチャペルで待ち受けるらしい。その新婦の兄が、テレビ局で駆け出しのADをしていて、たまたまこの事を番組のディレクターに話したところ、おもしろそうだから、取り敢えず撮影しておけ、と言われたらしい」
なるほど、と真は書類に目を通す。
新郎新婦の名前や年齢、依頼主であるご両親の名前や連絡先、そして当日の流れなどが簡単に書かれていた。
「日取りは6月16日…もうすぐですね」
「ああ。それでな、我が社としては、是非とも放送してもらえたらと思っている。全国ネットで、視聴率もいい番組だしな。うちの良い宣伝になるのは間違いない。真、お前も直々にこの件を手伝ってやってくれないか?サプライズウェディングの成功はもちろん、良い映像が撮れるように、準備や当日のサポートもお願いしたい」
「かしこまりました」
「よろしく頼む。式場はフェリシア 横浜、担当は、入社4年目の齊藤だそうだ」
えっ!と真は顔を上げる。
「あ、齊藤と言っても、うちの親戚ではないぞ。たまたま名字が同じだけだ。なんと、漢字も一緒らしい。珍しいな」
ははっと笑ってから社長は立ち上がり、頼んだぞ、と真の肩に手を置いた。
*****
6月9日。
サプライズウェディングを翌週に控え、フェリシア 横浜では、スタッフが一堂に会し、念入りに打ち合わせを行っていた。
「まず、タイムテーブルに沿ってご説明します。新郎新婦の入り時間は17時半。新婦様のご両親である田辺様ご夫妻が、新郎新婦のお二人と、お二人の3才のお子様、翼くんと一緒に来店されます。お父様が運転する車で地下駐車場に入り、その時点でお二人に、ブライダルフォトをプレゼントしたいとお話されます。担当の私と美佳ちゃんが、地下駐車場でお出迎え致します」
真菜の言葉を、皆は頷きながら聞いている。
「そのまますぐに控え室に入って頂き、まずは新婦様にドレスを選んで頂きます。新婦様のドレスが決まり次第、ヘアメイクに取り掛かります。希先輩、新婦様のお写真をお母様から預かりました。あとでお渡ししますね。普段のメイクも軽めで、髪はロングだそうです」
「了解。当日、ご本人からご希望を聞くわね」
希の言葉に真菜は頷く。
「よろしくお願いします。有紗さん、そんな訳で、ドレスもヘアメイクも当日まで分かりません。ブーケは有紗さんにお任せします。お母様のお話では、新婦様は、薄いピンクや水色などがお好きだそうです」
「分かった。任せて!」
有紗に頷くと、続いて真菜は拓真を見る。
「新婦様のヘアメイク中に、新郎様に衣裳を選んで着替えて頂きます。そして様子を見ながら、ご両親が翼くんを、お手持ちのよそ行きの服に着替えさせて下さるそうです。そのあと、控え室の撮影をお願いしていいですか?」
「オッケー。オフィスに待機してるから、インカムで呼んでくれ」
真菜は、最後にぐるっと皆を見渡した。
「他の皆さんは、ご列席の方のご案内をお願いします。新郎新婦と鉢合わせしない様、動線を決めてあります。基本的にお二人は控え室に入られたままですが、何かの事情でお部屋を出られる場合は、私がすぐにインカムでお知らせします」
「了解です」
皆が声を揃えて頷く。
「挙式は、新郎新婦のお支度が整い次第始めます。5分前位にインカム流しますので、列席者への説明や、席を外されている方の誘導をお願いします。扉が開くと同時にオルガン演奏スタート、新郎新婦とお子様の三人でご入場、あとは通常の流れです。指輪の交換に関しては、その場で私がお二人におうかがいします。退場後、隣のスタジオで写真撮影に入ります。まず初めに集合写真、その後お二人とお子様のお写真をお願いします」
「はーい、了解です」
拓真が再び返事をする。
「そして、挙式と並行して、ご友人の方々がお見えになります。直接、披露宴会場にご案内して下さい。集合写真を撮ったご列席の方々も、すぐに披露宴会場に入って頂きます。少しヘアメイクを整えてから、新郎新婦とお子様が、披露宴会場に入場。ご友人の方々も合流されたこのパーティーが、2度目のサプライズとなります」
私からの説明は以上です、と真菜が顔を上げる。
「真菜、ありがとう。みんな、当日は、必ずお客様1人1人のお名前を確認して下さい。ご友人なのか、お身内の方なのかを間違えない様に。あとの詳しい事は、追って連絡します。前日の最終ミーティングまでに、それぞれイメージしておいて下さい。それでは、続いて齊藤専務、よろしくお願いします」
久保に促され、真が顔を上げる。
「私からは、本社で決まった事をお伝えする。既に知っていると思うが、当日テレビ局の撮影が入る。撮影者は新婦のお兄様だ。他に、うちの映像事業部から撮影カメラマンが二人来る事になった。ただ、テレビ放送されるかどうかは分からない。ご両親は、おそらく新郎新婦がNGを出す事はないだろうと仰っていたが、使われるかどうかは、テレビ局の判断に委ねられる。我が社としては、宣伝効果も考え、是非使ってもらいたい。だが、君達はテレビの事は気にせず、とにかく新郎新婦やゲストへの対応に集中して欲しい。この結婚式がお二人やご家族、そしてご友人の皆様にとって幸せな時間となるよう、心を尽くして欲しい。よろしく頼む」
「はい!」
皆は、気持ちを1つに声を揃えて頷いた。
*****
「真菜」
ミーティングが終わり、ガヤガヤと皆が部屋を出て行く中、真は真菜に近付いて声をかけた。
「真さん!お疲れ様です」
にっこり笑う真菜を見て、なぜかとても懐かしい気持ちになる。
「お疲れ様。色々、準備大変だと思うが、よろしく頼むな」
「はい!私もとても楽しみなんです。素敵な結婚式になるように、精一杯頑張ります!」
真は微笑むと、ジャケットの内ポケットに手を入れた。
「真菜に、これを返そうと思って」
「あ、シュシュ!ありがとうございます。わざわざすみませんでした」
「いや」
そして沈黙が広がる。
何かを言いたいはずなのに、言葉が出て来ない。
「じゃあ…また」
「はい。また」
結局、後ろ髪を引かれる思いで、真は真菜に背を向けて歩き出した。
真菜は、はーいと返事をして、久保から書類を受け取る。
(えっと、なになに…。田辺 和之様と田辺 知美様。年齢は、50才と49才。うーん、再婚の可能性もあるかな。名字が同じって事は、既に入籍済みなのね。あら?他の欄は真っ白ね。とにかく会ってお話してみなくちゃ)
予約時間に現れた田辺夫妻を、真菜と美佳は笑顔でサロンに迎え入れる。
「田辺様、この度はご結婚、誠におめでとうございます」
すると二人は、戸惑った様に手を振った。
「あ、いや、その、私達は違うんです」
はい?と真菜も美佳も、目をパチクリさせる。
「実は、その…。娘夫婦に、結婚式を挙げさせてやりたくて。そういうのって、こちらで出来るのかなって、ご相談したくて来たんです」
「あの、詳しくお聞かせいただけますか?」
真菜の言葉に頷いて、二人は説明を始めた。
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「ん、娘さん夫婦の為の挙式?それって、サプライズって事?」
「はい」
久保に相談しようと、真菜は一旦オフィスに戻り、今聞いたばかりの内容を説明する。
田辺夫妻の娘は、高校3年生の冬に妊娠したのだそう。
相手は同じ学校の同級生、つまり18才同士だった。
二人とも大学に進学が決まっていたが、親や周囲の反対を押し切り、大学は諦めて結婚、出産した。
そんな二人も、今は22才。
その時に産まれた男の子も、3才の可愛い盛り。
最近では、どうしてあの時、あんなに反対してしまったのだろうと、両親は悔やんでいるのだそうだ。
「私達が反対したばかりに、二人とも結婚式も挙げず仕舞いで。出産も誰にも頼らず、出産費用も二人でバイトで貯めたお金を充てて…。悪かったなって、後悔してるんです。あ、今はもう関係は良好で、あちらのご両親とも仲良くやってるんですけどね。ドレス姿の写真も、撮らせてあげたいわねって、あちらのお母様も仰ってくれて…。身内だけで、こじんまり挙式出来たらなーと。そういうのって、お願い出来ますか?出来れば、本人達には当日まで内緒にしておきたいんですけど」
真菜は、これまでにもそういった対応をした事があり、可能だと説明した。
やり方としては、当日、皆で外で食事でもしようと二人を連れ出し、ここに連れて来てもらう。
そして、ブライダルフォトをプレゼントしたいからと言って、二人に衣裳に着替えてもらうのだ。
ヘアメイクを済ませ、では写真スタジオに移動しましょうと言って、スタジオではなくチャペルに案内し、扉を開けた途端、列席者が拍手で迎え、式が始まる、という流れだ。
「あら、いいわね!みんなはこっそりチャペルに入って待ってるって訳ね」
「はい。それに、このやり方ですと、衣裳も当日ご本人に選んで頂けます」
「それは喜ぶと思うわー。娘もね、やっぱりウェディングドレス、着たかったみたいでね。雑誌でそういうのが載ってると、じっと見てるのよ」
「ウェディングドレスは女の子の憧れですものね。では、ブライダルフォトをプレゼントしたいとお話された時点で、お二人に断られる可能性は?」
「それはないと思うわ。きっとびっくりして、喜ぶと思う」
「そうですか!では、わたくし共に是非お手伝いさせて下さい」
そして、一旦店長の耳にも入れた方がいいと、オフィスに戻ったのだった。
「ふーん、いいわね!そのまま真菜が担当して、進めてくれたらいいわ」
「かしこまりました!」
真菜は笑顔で頷くと、サロンに戻って、さらに詳しく打ち合わせをした。
そして、なるべく早くというご希望で日取りを確認し、空きがあった6月16日の金曜日の夜と決まった。
挙式のあと、披露宴会場で簡単にパーティーを開く事も出来ますよと話すと、それなら二人の友人にも声をかけてみる、と、ご両親は嬉しそうだった。
衣裳のカタログや、チャペルの中も見て頂き、ゲストの人数が分かり次第ご連絡下さいとお願いして、今日のところは打ち合わせを終える。
当日が楽しみです!よろしくお願いします!と、ご両親は笑顔で帰って行った。
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「真菜先輩!サプライズウェディングなんて、凄いですねー」
オフィスに戻ると、美佳は興奮気味に目を輝かせた。
「私もとっても楽しみです!喜んで下さるといいなー」
「そうね。サプライズウェディングは、事前の準備と当日のスタッフの動きがとても重要になるから、慎重に進めましょう」
「はい!頑張ります!」
美佳に頷くと、早速真菜は、ToDoリストを作る。
従来の準備とは、やる事がガラリと変わる。
なにせ、ご本人とは話が出来ないのだ。
ご両親にも、列席の方への連絡をお願いし、当日、無事に新郎新婦に会う事なく皆様をチャペルにご案内しなくてはならない。
真菜は、頭の中で何度もシミュレーションしながら、確認事項を考えた。
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6月に入ったある日。
真は、本社の社長室を訪れていた。
「お呼びでしょうか?」
頭を下げると、叔父である社長が頷いた。
「ああ。ちょっとお願いがあるんだ」
「はい。どの様な事でしょうか?」
真は、表情を変えずに聞く。
大学院を卒業後、真は、父が社長を、祖父が会長を務めるプルミエール・エトワールに入社する予定だった。
だが、急に、叔父が社長を務める関連会社のアニヴェルセル・エトワールに行けと言われ、真は、なぜ?という疑問で一杯だった。
とにかくがむしゃらに4年間海外事業部で働いたが、今でも、なぜこの会社に?と、父への不信感が消えず、叔父にも心を開けないでいた。
「どうだ?日本に帰って来てそろそろ3ヶ月か。会社にも慣れたか?」
「慣れた、というのがどういった状態かは分かりませんが、日々業務に邁進しております」
「ふっ、相変わらずだな。真、たまには実家にも顔を出しなさい。兄さん達も、ずっとお前に会いたがってるんだぞ?」
「お話はそれだけでしょうか?でしたらもう」
「あー、分かった分かった。この話はもうやめるから」
社長は慌てて手を挙げる。
「実はな、テレビ局から、撮影の許可が欲しいと連絡があった」
「テレビ局から、ですか?」
「ああ。朝の情報番組で、うちで挙式するあるカップルを密着で撮影し、内容が良ければ放送したいとの事だった。ただし、撮れ高が悪かったり、ご本人からNGが出れば放送はされないらしい。とにかくまずは、撮影させてもらえないか?との事だった」
「撮れ高はともかく、ご本人からNGとは?事前に聞いてOKもらえないのでしょうか?」
真が怪訝そうに言うと、それなんだがな、と社長は書類を見せてきた。
「この挙式は、新婦のご両親が計画したサプライズウェディングなんだそうだ。本人達には当日まで内緒で、身内の方々がこっそりチャペルで待ち受けるらしい。その新婦の兄が、テレビ局で駆け出しのADをしていて、たまたまこの事を番組のディレクターに話したところ、おもしろそうだから、取り敢えず撮影しておけ、と言われたらしい」
なるほど、と真は書類に目を通す。
新郎新婦の名前や年齢、依頼主であるご両親の名前や連絡先、そして当日の流れなどが簡単に書かれていた。
「日取りは6月16日…もうすぐですね」
「ああ。それでな、我が社としては、是非とも放送してもらえたらと思っている。全国ネットで、視聴率もいい番組だしな。うちの良い宣伝になるのは間違いない。真、お前も直々にこの件を手伝ってやってくれないか?サプライズウェディングの成功はもちろん、良い映像が撮れるように、準備や当日のサポートもお願いしたい」
「かしこまりました」
「よろしく頼む。式場はフェリシア 横浜、担当は、入社4年目の齊藤だそうだ」
えっ!と真は顔を上げる。
「あ、齊藤と言っても、うちの親戚ではないぞ。たまたま名字が同じだけだ。なんと、漢字も一緒らしい。珍しいな」
ははっと笑ってから社長は立ち上がり、頼んだぞ、と真の肩に手を置いた。
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6月9日。
サプライズウェディングを翌週に控え、フェリシア 横浜では、スタッフが一堂に会し、念入りに打ち合わせを行っていた。
「まず、タイムテーブルに沿ってご説明します。新郎新婦の入り時間は17時半。新婦様のご両親である田辺様ご夫妻が、新郎新婦のお二人と、お二人の3才のお子様、翼くんと一緒に来店されます。お父様が運転する車で地下駐車場に入り、その時点でお二人に、ブライダルフォトをプレゼントしたいとお話されます。担当の私と美佳ちゃんが、地下駐車場でお出迎え致します」
真菜の言葉を、皆は頷きながら聞いている。
「そのまますぐに控え室に入って頂き、まずは新婦様にドレスを選んで頂きます。新婦様のドレスが決まり次第、ヘアメイクに取り掛かります。希先輩、新婦様のお写真をお母様から預かりました。あとでお渡ししますね。普段のメイクも軽めで、髪はロングだそうです」
「了解。当日、ご本人からご希望を聞くわね」
希の言葉に真菜は頷く。
「よろしくお願いします。有紗さん、そんな訳で、ドレスもヘアメイクも当日まで分かりません。ブーケは有紗さんにお任せします。お母様のお話では、新婦様は、薄いピンクや水色などがお好きだそうです」
「分かった。任せて!」
有紗に頷くと、続いて真菜は拓真を見る。
「新婦様のヘアメイク中に、新郎様に衣裳を選んで着替えて頂きます。そして様子を見ながら、ご両親が翼くんを、お手持ちのよそ行きの服に着替えさせて下さるそうです。そのあと、控え室の撮影をお願いしていいですか?」
「オッケー。オフィスに待機してるから、インカムで呼んでくれ」
真菜は、最後にぐるっと皆を見渡した。
「他の皆さんは、ご列席の方のご案内をお願いします。新郎新婦と鉢合わせしない様、動線を決めてあります。基本的にお二人は控え室に入られたままですが、何かの事情でお部屋を出られる場合は、私がすぐにインカムでお知らせします」
「了解です」
皆が声を揃えて頷く。
「挙式は、新郎新婦のお支度が整い次第始めます。5分前位にインカム流しますので、列席者への説明や、席を外されている方の誘導をお願いします。扉が開くと同時にオルガン演奏スタート、新郎新婦とお子様の三人でご入場、あとは通常の流れです。指輪の交換に関しては、その場で私がお二人におうかがいします。退場後、隣のスタジオで写真撮影に入ります。まず初めに集合写真、その後お二人とお子様のお写真をお願いします」
「はーい、了解です」
拓真が再び返事をする。
「そして、挙式と並行して、ご友人の方々がお見えになります。直接、披露宴会場にご案内して下さい。集合写真を撮ったご列席の方々も、すぐに披露宴会場に入って頂きます。少しヘアメイクを整えてから、新郎新婦とお子様が、披露宴会場に入場。ご友人の方々も合流されたこのパーティーが、2度目のサプライズとなります」
私からの説明は以上です、と真菜が顔を上げる。
「真菜、ありがとう。みんな、当日は、必ずお客様1人1人のお名前を確認して下さい。ご友人なのか、お身内の方なのかを間違えない様に。あとの詳しい事は、追って連絡します。前日の最終ミーティングまでに、それぞれイメージしておいて下さい。それでは、続いて齊藤専務、よろしくお願いします」
久保に促され、真が顔を上げる。
「私からは、本社で決まった事をお伝えする。既に知っていると思うが、当日テレビ局の撮影が入る。撮影者は新婦のお兄様だ。他に、うちの映像事業部から撮影カメラマンが二人来る事になった。ただ、テレビ放送されるかどうかは分からない。ご両親は、おそらく新郎新婦がNGを出す事はないだろうと仰っていたが、使われるかどうかは、テレビ局の判断に委ねられる。我が社としては、宣伝効果も考え、是非使ってもらいたい。だが、君達はテレビの事は気にせず、とにかく新郎新婦やゲストへの対応に集中して欲しい。この結婚式がお二人やご家族、そしてご友人の皆様にとって幸せな時間となるよう、心を尽くして欲しい。よろしく頼む」
「はい!」
皆は、気持ちを1つに声を揃えて頷いた。
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「真菜」
ミーティングが終わり、ガヤガヤと皆が部屋を出て行く中、真は真菜に近付いて声をかけた。
「真さん!お疲れ様です」
にっこり笑う真菜を見て、なぜかとても懐かしい気持ちになる。
「お疲れ様。色々、準備大変だと思うが、よろしく頼むな」
「はい!私もとても楽しみなんです。素敵な結婚式になるように、精一杯頑張ります!」
真は微笑むと、ジャケットの内ポケットに手を入れた。
「真菜に、これを返そうと思って」
「あ、シュシュ!ありがとうございます。わざわざすみませんでした」
「いや」
そして沈黙が広がる。
何かを言いたいはずなのに、言葉が出て来ない。
「じゃあ…また」
「はい。また」
結局、後ろ髪を引かれる思いで、真は真菜に背を向けて歩き出した。
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