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突然の言葉
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「プリムローズ様!」
「レイチェル!」
屋敷のエントランスに着くと、レイチェルは目を真っ赤に泣き腫らしてプリムローズに抱きつく。
「おケガはありませんか?ご無事ですか?」
「ええ、どこも大丈夫よ」
「ああ、よかった。本当によかった。申し訳ありません。わたくしがそばについていなかったせいで、プリムローズ様をこんな危険な目に…」
「ううん。レイチェルは何も悪くないわ。心配かけてしまってごめんなさいね」
「そんな、わたくしのことなどよろしいのです。プリムローズ様…。もう二度とこのようなことがないよう、わたくしがこの身をかけてプリムローズ様をお守りしますわ」
「レイチェル…」
ずっと抱き合ったままの二人を、サミュエルが中に促した。
「さあ、外は寒いので早く中へ」
「はっ!そうですわね。プリムローズ様、お湯を沸かしてありますわ。早く温まってくださいませ」
「ええ、ありがとう。レイチェル」
プリムローズは微笑んで、レイチェルと一緒に屋敷に入った。
*
身体を温めたあと、レイチェルが用意してくれた料理を食べて、ホッと人心地つく。
するとマルクスがソファから呼びかけた。
「プリムローズ、こっちへおいで」
「はい」
プリムローズが隣に座ると、マルクスはそっとプリムローズの両手を取った。
「綺麗な手首にアザが…。痛むか?」
「いいえ、もう大丈夫です」
「酷い目に遭ったな。本当にすまなかった」
マルクスは優しく親指でプリムローズのアザをなぞる。
「プリムローズ。俺はもう二度とそなたを危険な目に遭わせないと誓う。だが、四六時中そなたのそばにいる訳にもいかないし、そなたを連れ回す訳にもいかない。だから…」
そこまで言うとマルクスは、苦しそうに一瞬顔を歪め、思い切ったように顔を上げた。
「そなたを伯爵家に帰そうと思う」
「マルクス様、何を…」
プリムローズは、あまりの衝撃的な言葉に呆然とする。
「そんな、嫌です!ここを離れるなんて、そんなこと絶対に嫌!」
「プリムローズ、落ち着け。ここにいたのでは、いつまた敵が襲ってくるかもしれない。伯爵家に戻り、家族と共に過ごすんだ」
「嫌!わたくしをこのままここに置いてください。マルクス様のそばに。離れるなんて、考えただけでもわたくしは」
「プリムローズ!」
マルクスはプリムローズを強く胸に抱きしめて、頭をなでる。
「そなたの命が何よりも大事だ。頼む、分かってくれ」
「嫌です、マルクス様。お願いですから、わたくしを帰さないで」
ポロポロと大粒の涙を流すプリムローズに、マルクスはいたたまれなくなる。
だが唇を噛みしめて必死にこらえた。
「プリムローズ、そなたを妃候補にする話は終わった。もうここには必要ない。私の命令だ。明日伯爵家に帰れ」
冷たく言い放つと、プリムローズはビクッと身体をこわばらせる。
マルクスはもう一度だけプリムローズをギュッと抱きしめると、立ち上がって隣の部屋に姿を消した。
*
翌朝。
朝陽が昇り切る前にマルクスは部屋を出た。
「プリムローズは?」
廊下を歩きながらレイチェルに尋ねると、レイチェルは重苦しい雰囲気で答える。
「一晩中泣き続けておいででした。先程、ようやく泣き疲れて眠られたようです」
「そうか」
プリムローズの部屋の前まで来ると足を止め、少しためらってからゆっくりとドアを開ける。
暗い部屋を横切ってベッドに近づくと、プリムローズは目を泣き腫らし、頬に涙のあとを残しながら眠っていた。
(プリムローズ、ありがとう。どうか幸せにな)
そっと髪をなでながらプリムローズの顔を目に焼きつけると、マルクスは迷いを振り切るように背を向けてドアを出た。
「王家の馬車が九時に迎えに来る。プリムローズを伯爵家まで送り届けるよう、手配した。レイチェル、見送りをよろしく頼む」
「かしこまりました」
朝靄の中、ひっそりと出かけるマルクスとサミュエルを、レイチェルは深々とお辞儀をして見送った。
「レイチェル!」
屋敷のエントランスに着くと、レイチェルは目を真っ赤に泣き腫らしてプリムローズに抱きつく。
「おケガはありませんか?ご無事ですか?」
「ええ、どこも大丈夫よ」
「ああ、よかった。本当によかった。申し訳ありません。わたくしがそばについていなかったせいで、プリムローズ様をこんな危険な目に…」
「ううん。レイチェルは何も悪くないわ。心配かけてしまってごめんなさいね」
「そんな、わたくしのことなどよろしいのです。プリムローズ様…。もう二度とこのようなことがないよう、わたくしがこの身をかけてプリムローズ様をお守りしますわ」
「レイチェル…」
ずっと抱き合ったままの二人を、サミュエルが中に促した。
「さあ、外は寒いので早く中へ」
「はっ!そうですわね。プリムローズ様、お湯を沸かしてありますわ。早く温まってくださいませ」
「ええ、ありがとう。レイチェル」
プリムローズは微笑んで、レイチェルと一緒に屋敷に入った。
*
身体を温めたあと、レイチェルが用意してくれた料理を食べて、ホッと人心地つく。
するとマルクスがソファから呼びかけた。
「プリムローズ、こっちへおいで」
「はい」
プリムローズが隣に座ると、マルクスはそっとプリムローズの両手を取った。
「綺麗な手首にアザが…。痛むか?」
「いいえ、もう大丈夫です」
「酷い目に遭ったな。本当にすまなかった」
マルクスは優しく親指でプリムローズのアザをなぞる。
「プリムローズ。俺はもう二度とそなたを危険な目に遭わせないと誓う。だが、四六時中そなたのそばにいる訳にもいかないし、そなたを連れ回す訳にもいかない。だから…」
そこまで言うとマルクスは、苦しそうに一瞬顔を歪め、思い切ったように顔を上げた。
「そなたを伯爵家に帰そうと思う」
「マルクス様、何を…」
プリムローズは、あまりの衝撃的な言葉に呆然とする。
「そんな、嫌です!ここを離れるなんて、そんなこと絶対に嫌!」
「プリムローズ、落ち着け。ここにいたのでは、いつまた敵が襲ってくるかもしれない。伯爵家に戻り、家族と共に過ごすんだ」
「嫌!わたくしをこのままここに置いてください。マルクス様のそばに。離れるなんて、考えただけでもわたくしは」
「プリムローズ!」
マルクスはプリムローズを強く胸に抱きしめて、頭をなでる。
「そなたの命が何よりも大事だ。頼む、分かってくれ」
「嫌です、マルクス様。お願いですから、わたくしを帰さないで」
ポロポロと大粒の涙を流すプリムローズに、マルクスはいたたまれなくなる。
だが唇を噛みしめて必死にこらえた。
「プリムローズ、そなたを妃候補にする話は終わった。もうここには必要ない。私の命令だ。明日伯爵家に帰れ」
冷たく言い放つと、プリムローズはビクッと身体をこわばらせる。
マルクスはもう一度だけプリムローズをギュッと抱きしめると、立ち上がって隣の部屋に姿を消した。
*
翌朝。
朝陽が昇り切る前にマルクスは部屋を出た。
「プリムローズは?」
廊下を歩きながらレイチェルに尋ねると、レイチェルは重苦しい雰囲気で答える。
「一晩中泣き続けておいででした。先程、ようやく泣き疲れて眠られたようです」
「そうか」
プリムローズの部屋の前まで来ると足を止め、少しためらってからゆっくりとドアを開ける。
暗い部屋を横切ってベッドに近づくと、プリムローズは目を泣き腫らし、頬に涙のあとを残しながら眠っていた。
(プリムローズ、ありがとう。どうか幸せにな)
そっと髪をなでながらプリムローズの顔を目に焼きつけると、マルクスは迷いを振り切るように背を向けてドアを出た。
「王家の馬車が九時に迎えに来る。プリムローズを伯爵家まで送り届けるよう、手配した。レイチェル、見送りをよろしく頼む」
「かしこまりました」
朝靄の中、ひっそりと出かけるマルクスとサミュエルを、レイチェルは深々とお辞儀をして見送った。
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