夕陽を映すあなたの瞳

葉月 まい

文字の大きさ
上 下
22 / 24

1年ぶりの同窓会

しおりを挟む
 「片桐さん、ご無沙汰しています」
 「こちらこそ。またお会い出来て光栄です。本日もご来店、誠にありがとうございます」

 にこやかな片桐の変わらぬ笑顔に迎えられ、心達は4人席に案内される。

 春の暖かさを感じられるようになってきた頃、心は愛理や昴、慎也と一緒に、例の同窓会のレストランに来ていた。

 今年もまた同じ時期に同じ会場で同窓会を開くことが決まり、打ち合わせを兼ねて食事に来たのだった。

 「では、今回も前回と同じ料金プランでよろしいでしょうか?お料理の内容は、前回とは出来る限り変えてご用意いたします」
 「はい、よろしくお願いします」

 打ち合わせはすんなりとまとまる。
 今回の幹事は慎也と愛理、昴と心は"手伝う幹事"と、去年と入れ替わる立場で進めることになった。

 美味しい料理を味わったあと、心と愛理はオープンテラスで写真を撮っている。

 はしゃぐ女子二人を見ながら、慎也が昴に話しかけた。

 「それで?随分時間が経ったけど、心とは二人で食事に行けたのか?」
 「いや。でももういいんだ。告白出来たから」
 「え?!じゃあ、つき合い始めたのか?」
 「いや。俺が久住に好きだと伝えただけだ。別に返事を求めた訳じゃない」

 は?と、慎也は思わず裏声になる

 「好きだと伝えて、それで満足なのか?え、どういう心境だ?キスしたいとか、抱きしめたいとか思うのが普通だろ?」

 昴はふっと笑って、心に目を向ける。

 「俺は久住が笑顔でいてくれたらそれでいい。そして困った時は俺を頼って欲しい。それだけで充分なんだ」
 「お前…。もはや仙人か?師匠どころか、仙人の域にまで達したのか?」
 「ははっ、何だよそれ」

 ビールを飲みながら、昴はもう一度心に目をやり、その笑顔に微笑んだ。

*****

 「それでは、今年もみんなとの再会を祝して。かんぱーい!」
 「かんぱーい!!」

 河合先生の音頭で、1年ぶりの同窓会は幕を開けた。

 あれから1年。
 長いようで短い。

 独身だった女の子が何人か結婚し、既婚者だった女の子は出産して赤ちゃんを連れて来ていた。

 「おいおいー、孫抱いてる心境だぞ」

 未だに独身の河合先生は、教え子の赤ちゃんを恐る恐る抱いて、嬉しそうに笑う。

 慎也と愛理は、去年の同窓会の様子を動画に編集してくれており、それを鑑賞しながら皆で盛り上がった。

 ビンゴ大会では、去年皆が心と昴の為に集めてくれたお金を使って、慎也が豪華な景品を用意していた。

 景品を狙う皆の表情は真剣そのもの。
 今年も大いに盛り上がった。

 ビンゴのあとは、それぞれ歓談とデザートタイムとなり、心は二次会のお店の地図を手に、テラスの入り口にいる昴のもとへ行く。

 「伊吹くん、このあとの移動なんだけど…」

 そう言って顔を上げた時、昴に話しかける声が聞こえてきた。

 「伊吹くん、私、高校時代からずっと伊吹くんのことが好きだったの」

 思わず心は、近くの観葉植物の後ろに身を潜める。
 そっと覗いてみると、真紀が昴に話しかけていた。

 「去年の同窓会でまた会えて、嬉しかったけど勇気がなくて…。今年こそは告白しようって決めてたの。伊吹くん、私とつき合ってくれませんか?」

 心は、悪いとは思いつつ気になって仕方なく、固唾を呑んで聞き耳を立てる。

 すると、いつもと変わらない口調の昴の言葉が聞こえてきた。

 「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、俺、つき合ってる人がいるんだ」
 「え、そうだったんだ」
 「ああ。だからごめん。じゃあ」

 そう言って昴は去って行く。

 (伊吹くん…。いつの間に?)

 心は呆然としながらその場に立ち尽くしていた。

*****

 「いえーい!今日も朝まで盛り上がっちゃうぜー!」

 二次会はカラオケに場所を移し、早速慎也が張り切ってマイクを握る。

 去年と同じように、心は昴とお金を計算し、皆から集めて回った。

 「久住、明日も仕事だろ?時間大丈夫か?」

 昴の問いに心は頷く。

 「うん。明日は遅番だから、朝もゆっくり出来るの。あ!でも、終電の時間よね。今年は間違えないようにするね」
 「ああ。早めに出よう」

 集めた会費を愛理に預け、心は昴と外に出た。

 二人で肩を並べて駅へと向かう。

 「あれから1年か。なんかあっと言う間だったな」
 「うん、そうだね」
 「また来年も、あっと言う間にやって来るのかな」
 「うん、そうかもね」

 昴は、そっと隣の心を見る。
 さっきから、どうにも元気がないのが気になっていた。

 「久住、何かあった?」
 「え?どうして?」
 「んー、なんか途中から元気なくなったから。同窓会で、何かあったのか?」

 すると心は押し黙ってうつむく。

 「久住、俺には何でも本音で話してって言ったよな?」
 「あ、うん」
 「考え込まなくていいから、思ってること言ってみて?」
 「えっと、じゃあ…」
 「うん。何?」

 心は歩きながら、そっと上目遣いに昴の顔をうかがう。

 「さっき、伊吹くんが真紀に告白されてたのを、偶然聞いちゃって…。それで、その。伊吹くん、つき合ってる人がいるって言ってて…」
 「…うん。それで?」
 「いや、その。あー、そうなんだって思って」
 「それで?そこから元気がなくなったの?」
 「うーん、そうなの、かな?」

 昴は足を止めた。
 心も立ち止まり、二人で向かい合う。

 「久住、正直に思ったことを答えてね」
 「え?う、うん」

 心は昴の言葉に頷く。

 「俺が、つき合ってる人がいるって言った時、久住、どう思ったの?」
 「どうって…。何か思ったのかなー。ただ、そうなんだって」
 「ふーん。あのね、俺、つき合ってる人いないよ」
 「え、そうなの?!」

 思わず顔を上げて昴を見る。

 「うん。告白されたらそう言って断るのが一番いいと思って」
 「あ、確かに。それが一番傷つかないし、諦めつくね。そっか、なるほど」

 心が感心していると、昴がふっと笑う。

 「じゃあ今、俺がつき合ってる人いないよって言った時、久住どう思った?」
 「え?あ、そうなんだって」
 「嘘だね」
 「え?」

 思わぬセリフに、心は驚いて昴を見る。

 「久住の顔、パッと明るくなったよ」
 「え、そ、そうかな?」
 「じゃあ今、俺が久住に好きだって言ったら?どう思う?」
 「そ、それは、その…。そうなのねって」
 「…ふーん」

 昴は何かを考え込むように黙る。
 沈黙に耐えかね、心はそっと昴を見上げた。

 「あの…伊吹くん?」
 「じゃあ、俺が今、久住にキスしようとしたら?」
 「は?!な、何言って…」
 「嫌だって思う?やめてって、思わず引っぱたく?」
 「そ、そうかな?うん。そうかも」
 「じゃあ、確かめさせて」
 「え、な、何を…」

 思わず昴を仰ぎ見た心は、じっと自分を見つめる昴の瞳に息を呑む。

 切なげにゆらっと揺れる深い色の瞳。
 その瞳の奥に、あの夕陽のような温かさを感じ、心はまばたきを忘れて見とれた。

 やがてゆっくりと目を閉じた昴が、心の肩に手を置いてそっとキスをする。

 唇が触れた瞬間、心の胸がキュッと傷んだ。

 柔らかく温かい昴の唇から、たくさんの優しさや愛情が注ぎ込まれる気がして、思わず涙が込み上げる。

 名残惜しむようにそっと昴が唇を離すと、心は、もっと触れていたかったのにと、寂しささえ覚えた。

 「あれ?引っぱたくんじゃなかったの?」

 昴のいたずらっぽい声がして、心は一気に赤くなる。

 「え、そ、それは。そんな暇がなくて…」
 「ふーん。じゃあ、キスされてどう思った?」
 「どうって、な、何も…」
 「はあ、もう…。ほんとに嘘つき」

 昴はため息混じりに言う。

 「本音で話してくれるって言ったのに、どうして嘘つくの?」
 「え、嘘なんてついてないし…」
 「じゃあなんで、キスされて何とも思ってないのにそんなに真っ赤になるの?何とも思ってないのに、どうしてそんなに目を潤ませてるの?」

 うっ…と思わず、両手で頬を隠す。
 すると昴はいきなり心を腕に抱きしめた。

 「い、伊吹くん、何を…」
 「顔見ないから、正直に答えて。久住、今、俺に抱きしめられて嫌?」
 「う、…ううん」
 「じゃあ、キスされて嫌だった?」
 「…ううん」
 「俺に好きだって言われて、嫌だった?」 
 「ううん」
 「じゃあ、俺のこと、好き?」
 「………うん」

 昴はふっと笑って心の顔を覗き込んだ。

 「ようやく本音が聞けた」

 そしてもう一度、優しくそっとキスをする。

 「久住は俺が好きなんだよね?」
 「うん」
 「俺も。久住のことが大好きだよ」

 心は潤んだ瞳で昴を見上げる。
 自分の中で、私はこの人が大好きなんだと納得した。

 「私、伊吹くんのことが好きなの」
 「ふふ、知ってる」

 二人は微笑み合い、3度目のキスをする。
 それは優しく温かく、涙が出るほど幸せな瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

アンコール マリアージュ

葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか? ファーストキスは、どんな場所で? プロポーズのシチュエーションは? ウェディングドレスはどんなものを? 誰よりも理想を思い描き、 いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、 ある日いきなり全てを奪われてしまい… そこから始まる恋の行方とは? そして本当の恋とはいったい? 古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。 ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ 恋に恋する純情な真菜は、 会ったばかりの見ず知らずの相手と 結婚式を挙げるはめに… 夢に描いていたファーストキス 人生でたった一度の結婚式 憧れていたウェディングドレス 全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に 果たして本当の恋はやってくるのか?

国宝級イケメンとのキスは最上級に甘いドルチェみたいに、私をとろけさせます

はなたろう
恋愛
人気アイドルの恋愛事情① 国宝級イケメン、人気アイドルとの秘密の恋。長身、イケメン、態度はそっけないけど、優しい恋人。ハイスペ過ぎる彼が、なぜごく普通な私を好きになったのか分からない。ただ、とにかく私を溺愛して、手放す気はないらしい。 甘いキスで溶ける日々のはじまり。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く私。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動予定 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! 本作品の関連作品もぜひご覧ください。ドゥルキスの最年長、アラタの物語です。こちらはBL要素のあるストーリーですが、ちゃんとアイドルと主人公の女の子くっつきますw 「美容系男子と秘密の診療室。のぞいた日から私の運命が変わりました」

蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~

泉南佳那
恋愛
梶原茉衣 28歳 × 浅野一樹 25歳 最悪の失恋をしたその夜、茉衣を救ってくれたのは、3歳年下の同僚、その端正な容姿で、会社一の人気を誇る浅野一樹だった。 「抱きしめてもいいですか。今それしか、梶原さんを慰める方法が見つからない」 「行くところがなくて困ってるんなら家にきます? 避難所だと思ってくれればいいですよ」 成り行きで彼のマンションにやっかいになることになった茉衣。 徐々に傷ついた心を優しく慰めてくれる彼に惹かれてゆき…… 超イケメンの年下同僚に甘く翻弄されるヒロイン。 一緒にドキドキしていただければ、嬉しいです❤️

アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

処理中です...