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心からの祝福

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「ええええー?!けけけ、結婚?!」

アートプラネッツのオフィスに、野太い男3人の声が響き渡る。

透がサラリと結婚すると話すと、大河も洋平も吾郎も、椅子から落ちそうになるほど仰け反って驚いた。

「透、お前、いつの間に?いや、ちょっと待て。相手は誰だ?まさか…」

アリシア、とか言わないだろうな?と、大河は恐怖に怯える。

「相手はね、ア…」

「ギャーーー!!」

両手で頭を抱えて絶叫する大河に、3人は、うるさい!と睨みを効かせる。

「声が、声が枯れた…」

「こっちは鼓膜が破れそうになったぞ。それで?透。相手は誰なんだ?」

「うん、アリシア…」

「ヒーーーッ!!嘘だろーー!?」

またもや「うるさい!」と皆は大河を睨む。

「アリシアの事務所の後輩で、由良 亜由美ちゃん」

……へ?と、気の抜けた返事をする大河を尻目に、そうか!と洋平と吾郎が喜ぶ。

「千秋さんと瞳子ちゃんの事務所の子か。いい子なんだろうな」

「うん。めちゃくちゃ可愛いよ」

「あはは!出たよ、透のゾッコン節」

「でも良かったな、透。瞳子ちゃんが結婚して落ち込んでないか、心配してたんだけど」

洋平の言葉に、吾郎も頷く。

「そうだよ。もう『アリシアに首ったけ』ってドラマが出来そうな勢いだったもんな」

「あはは!前にも言っただろ?アリシアは俺のスーパースターだよ。現実の世界とは違う存在なんだ」

「なるほど。で?現実のお前がゾッコンになった子は、いつ紹介してくれるんだ?」

「明日、ミュージアムのプレオープンイベントの件で、千秋さんとアリシアがMCの打ち合わせに来てくれるだろ?もし良かったら、彼女も同席してもいいか?」

「ああ、もちろん。これから夫婦揃ってのパーティーにも出席してもらったりするだろうから、彼女にもアートプラネッツのこと、知ってもらいたいしな」

「うん、分かった。じゃあ明日紹介するね」

「おう!楽しみにしてるぜ」

吾郎がポンと透の肩に手を置く。
そして急にしょんぼりと肩を落とした。

「どうかした?吾郎」

「よく考えたら、俺だけ取り残されたー!ぼっち仲間がいなくなったー!あああ…」

「まあまあ、そう落ち込まずにさ。吾郎だって、きっといい人と巡り合うよ。案外、数ヶ月後には、吾郎も結婚してたりして?」

「くうー!余裕だな、透。そうならなかったら、思い切り愚痴こぼしてやるからなー」

気が抜けて呆然としたままの大河と、さめざめと悲しみに暮れる吾郎の横で、洋平はおめでとう!と満面の笑みで透を祝福していた。



同じ頃、オフィス フォーシーズンズでも、驚きの絶叫が響き渡っていた。

「ええええー?!けけけ、結婚?!」

亜由美を前に、瞳子と千秋は椅子から落ちそうになるほど仰け反って驚く。

「あの亜由美が?いつの間に?」

「千秋さん、あのってなんですか?」

「いや、だって、毎日キャピキャピルルルン!って感じで、およそ結婚なんてまだ先だと…。独身生活を謳歌してから落ち着くのかなと思ってたのに、まさか22歳で結婚を決めるなんて」

「まあ、そこは私もちょっと意外でしたけどね。30くらいまでに結婚出来ればいいなって思ってましたから」

すると瞳子が身を乗り出してくる。

「でも、それだけの人と出逢えたってことでしょう?亜由美ちゃんが、この人しかいない!って、22歳で結婚を決意するような素敵な人に」

「ふふふ、はい」

「きゃー!可愛い、亜由美ちゃん。お相手はどんな方なのかしら?気になるなあ。いつか紹介してくれる?」

目を輝かせる瞳子に、亜由美は、うーん、と視線を逸らす。

「紹介しなくてもいい気がするなあ」

「え?どうして?」

「だって、瞳子さんも千秋さんも、よく知ってる人だから」

…は?と、二人は目が点になる。

「私達が、よく知ってる?」

「それって…、え?まさか!」

瞳子と千秋は顔を見合わせると、思わず互いの手を握り合った。

「亜由美、もしかして…」

「ふふっ、はい。アートプラネッツの方です」

「やっぱり!誰?どっち?」

「透さんです」

きゃー!と二人は声を上げて身悶える。

「透さんが?ひゃー!あの甘ーいセリフを亜由美ちゃんに?やだ!お似合い!妄想が膨らんじゃう」

両手で頬を押さえて盛り上がる瞳子達に、亜由美が声を張って話す。

「それで!あの、もしお邪魔じゃなければ、明日のアートプラネッツの打ち合わせに、私も同席して構いませんか?透さんが、皆さんに挨拶したいからって」

「やーん!結婚の挨拶?緊張しちゃう!もちろんいいわよ。一緒に行きましょ!」

楽しみー!と、そのあとも散々瞳子と千秋は浮かれていた。



「あー、大河さん、早く帰って来ないかなー」

その日の夜。
瞳子はマンションで今か今かと大河の帰りを待ち構える。

亜由美と透の話を、大河ともしたかった。

「大河さん達もびっくりしただろうなあ。明日が楽しみ!透さん、亜由美ちゃんにメロメロなんだろうな」

ニヤニヤと想像していると、ふいにスマートフォンが鳴り出した。

「誰からだろ?あ!ハルさん」

瞳子は急いで通話ボタンをタップする。

「もしもし、ハルさん?」

『瞳子ちゃん、お久しぶり。元気?』

「はい、元気にしてます。ハルさんは?相変わらずお仕事忙しい?」

『うん、まあね。でもあの、ちょっといいことがあって…』

声を潜める嬉しそうなハルの口調に、瞳子は、ん?と首をひねる。

「ちょっといいこと?って、なんですか?」

大きなお仕事が決まったのかな?と思いきや、思いもよらない言葉が返ってきた。

『実は私、倉木さんとおつき合いを始めて…』

「えっ?」

一瞬固まってから、ええー?!と驚きの声を上げる。

「お、おつき合いを?倉木さんと?」

『うん。でも、その、普通のおつき合いとは違うかも。デートとかは出来なくて、時々夜に電話したり、仕事の合間にメッセージを送ったり。そんな感じなんだけどね』

「ひゃー!立派なおつき合いですよ!良かったですね、ハルさん」

『ありがとう!まさかこんなことになるなんて、私もまだ実感湧かなくて…。誰にも話してないんだけど、瞳子ちゃんにだけは、と思ってね』

そう言ってハルは、事の経緯を瞳子に話して聞かせた。

「わあ!なんて素敵なの。お揃いのハンカチがきっかけなんて、もうドラマみたい。ううん、ドラマよりもキュンとしちゃう。ハルさん、本当におめでとうございます!」

『瞳子ちゃん、ありがとう。まだまだ恋人同士とは言えないし、気軽に会うことも出来ないけど、でもね、気持ちは繋がってる気がするの』

「うんうん。可愛い!ハルさん」

『もう!からかわないで』

「だって本当に可愛いから。ピュアなハルさんが」

『そうかな?なんだか高校生よりも幼い恋愛だけど』

「ううん、そんなことない。それだけお互いを真っ直ぐに想い合ってるってことだもん。ハルさん、本当におめでとう!」

『ありがとう!私も毎日嬉しいの。会えなくても、声を聞くだけで幸せで』

「ふふっ、素敵」

『やだ!なんか恥ずかしくなってきちゃった』

「あー、本当に可愛い!ハルさん、また今度うちに遊びに来てください。恋する乙女の可愛いハルさんに会いたいから」

『なあに?瞳子ちゃんったら。随分余裕ね。瞳子ちゃんだって新婚ホヤホヤでしょ?ホワーンって、ハートマークが飛び交ってるんじゃない?』

「そうかも。じゃあ、どっちがハートマーク多いか、競争しましょ!」

『おっ、いいわよ。負けないんだからー』

「私も!…って、どうやったら勝ちなの?」

『え、分かんない』

あはは!と二人で笑い出す。

『ま、いいか!お互い幸せならそれで』

「そうですね。でも本当に会いたい!いつでもうちに来てくださいね」

『うん、分かった!必ず行く。私だって瞳子ちゃんの新婚生活、根掘り葉掘り聞いちゃうんだからね?』

話は尽きることなく、二人はいつまでもおしゃべりを楽しんでいた。



「初めまして、由良 亜由美と申します」

次の日。
千秋と瞳子と一緒にアートプラネッツのオフィスを訪れた亜由美は、メンバーに頭を下げて挨拶する。

「うわっ、若い!可愛い!え、いいの?ほんとに透で。こいつ、30のオッサンだよ?君、まだ10代でしょ?」

吾郎の言葉に、亜由美はふふっと笑う。

「いえ、私、こう見えて22歳です」

「そうなんだ!でも8歳違うのか。大丈夫?透と話、合う?」

「はい。私、透さんのこと大好きなので」

ひゃっ!と、瞳子は千秋と手を取り合って後ずさる。

「ありがとう。俺も亜由美が大好きだよ」

ひょえ!と、大河と洋平もおののく。

「うわっ、ラブラブ!なんだこれ、スイートパラダイスか?くうー、いいなあ!千秋さん、俺にも誰か事務所の女の子、紹介してよ」

「えー?いたかな?ゴリマッチョが好みの子って」

「千秋さん?!」

吾郎と千秋のやり取りに、あはは!と皆が笑い出す。

「という訳で、千秋さん。亜由美のことは必ず俺が幸せにします。どうかご安心ください」

「ええ、透さんなら安心だわ。うちの末っ子をどうぞよろしくね。亜由美、幸せになるのよ」

「はい!」

亜由美と顔を見合わせる幸せそうな透に、大河も顔をほころばせた。

「大河、やっとひと安心だな。これで瞳子ちゃんは狙われずに済む」

洋平がそっと大河に話しかける。

「ん?いや、どちらかと言うと申し訳なかったんだ」

「透に?」

「ああ。でも余計なお世話だったな。あんなにもお似合いで可愛い彼女と結婚するなんて。俺も嬉しくて仕方ない」

「確かに。ま、あと一名、地団駄踏んでるやつがいるけど」

ムキー!とゴリラのように悔しさを露わにしている吾郎に、洋平は苦笑いする。

「あいつだって、そのうち可愛い子を連れてくるよ」

「そうだな。案外、すぐかもね」

「ああ」

頷き合うと、二人はもう一度透に目をやる。

心の底から、おめでとうと祝福しながら。
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