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22.光りを帯びた人影

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 「モカ、リーダ~! どうすればいいの……」

 ア-リンは、涙を浮かべながらも、矢をつがえ放って行く。
 ただ、出来ることをするだけだ。

 その時、ア-リンの潤んだ目の中に、光りを帯びた人影が、ジュリアンとモカの所に駆け込んでくる。
 その人影は、覆面をした死人達の首を、次から次へと跳ね飛ばし、首を落とされた死人は、膝から崩れ落ちて行き、その動きを止める。

 「あれは、誰なの……」

 ア-リンの目に映る光りを纏うその人影は、ジュリアンとモカを取り囲む死人達を倒し、二人の窮地を救ってくれたようだ。

 ドオ-ン!

 ジュリアン達が助かり、ア-リンが『ホッ!』としていると、王国警備隊の前方で爆発が起きている。
 ア-リンは『また新しい敵か』と、目お凝らして見てみると、羽根がある人影が、空から魔法を放つ姿をとらえる。
 よくよく見るとその人影は、死人の頭に向けて、爆裂弾のような魔法を放ち、頭を吹き飛ばしている。

 「悪魔……そうか、奴らの急所は頭なんだ!」

 ア-リンは、死人の頭に向けて矢を放ち始める。
 その腕前は、動かないリンゴに当てる名人と違い、動く的を予測して確実に射抜く凄腕すごうでだった。

 死人の数も減り、あと少しで鎮圧出来そうである。

 その時、先ほど恥も外聞もなく逃げて行った貴族が、逃げる途中でビクトル・デッカ-副団長と騎士達に出会い、息を吹き返して戻って来る。
 その先頭を行くのは、タイリン男爵家の三男ヘン・タイリンである。

 「者ども我に続け~い!」

 先程の失態を取り返したいヘン・タイリンは、精鋭ぞろいの騎士達の力を背景に、指図をするのであった。
 調子のいい、変態さんなのである。

 ビクトル・デッカ-副団長と騎士達は、王国警備隊の窮地を救い、死人の殲滅に成功する。

 「タイリン男爵家、ヘン・タイリンが、敵を倒したぁ~」

 しらけた騎士達をよそに、一人勝利の叫びを挙げるヘン・タイリンであった。

 「リーダ~、何とか助かったね」

 「ああ、だけどあいつら……何者だったんだ? 一人は体が光っていたし、もう一人は空を飛んで、どう見ても魔族だった……魔族が人族を助ける? そんな話聞いた事もない……」

 ジュリアンは、命が助かった安堵感とは裏腹に、先ほど目にした状況の、理解が出来なかった。
 始めて見る、輝く光りを帯びた人影、そして人族の敵であるはずの魔族が、どちらかと言えば仲間であるはずの死人から、人を守って戦ったのである。理解出来る理由など、分かるはずも無いのである。

 コ-トの識別カラーをオフにし、暗視モ-ドで暗闇を激走する響は、戦いの高揚感と人助けが出来た充実感で、満足げな笑みを浮かべながら、現場から急いで離れて公爵家に向かう。
 クロエはと言うと、既にリングに戻り休憩中なのである。

 「クロエが言ったとおり、首を落としたら動かなくなったなぁ」

 響は当初、首を落とす事を躊躇ちゅうちょした。それは、首を落とした時の、血しぶきを気にしたからだ。
 ナイトベアーの首は、平気で落としたのに……

 「魔族が、使役している死人だからね。弱点くらい知っているさね」

 立場的に言えば、同族の企みを打ち砕いたのだが、偉そうに自慢するクロエであった。

 「そうか、よし早く帰らないと……抜け出したのがばれると、不味いからな」

 響は、ビクトル・デッカ-副団長が、出撃するどさくさに紛れて、部屋から抜け出して来たのだ。

 「マスター、公爵家が襲われているようです」

 「なんだと! ティス状況は?」

 「はい、先ほどの死人と、騎士達が現在交戦中です。後、中に一人悪魔のような者が……」

 「悪魔?」

 響の世界で悪魔と言えば、実体のない空想の生き物だ。想像しても、アニメや絵本で見た絵ずらしか想像出来ない。
 気にする所は、魔法やスキルの部類だろう。
 クロエの持つ魔法でも、あれだけの威力があるのだ。
 悪魔ともなると、適うかどうか分からない。

 「あたって砕けるか……」

 響は、考えても分からない場合『何とかなる』と言った、楽観論者なのだ。

 「クロエ、今回の戦闘は参加禁止だ! 公爵家の者達の目があるからな。まだ、魔族のお前を知られたくない」

 響も少しは考えて、物事を進めることが、出来るようになって来ている。

 「分かったよ」

 「ティス、サ-ベルと短剣を、転送してくれ」

 「かしこまりました。」

 響は、コ-トの内側からサ-ベルと短剣を取出し、腰のベルトに装着する。
 コ-トの内側は、武器等を収納出来るようになっており、転送と回収が意のままに出来るのだ。
 サ-ベルと短剣を装備したのは、クロエと同じく『ソ-ドブレ-ド』を、人目にさらさないためだ。
 このサ-ベルと短剣は、亡くなった騎士や死人が残した武器を、回収して『原子分解保存装置』で分解し、『オートモジュールジェネレーター』で、形状、強度や切れ味を向上させている。
 刃こぼれや血のりで切れ味が落ちても、回収して新たに取り出せばいいだけなので、遠慮なく使い捨てが出来る。
 原材料さえ尽きなければ。

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