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第二章・王都学園にて

12・ジュリアスの憂鬱(ジュリアスSide)

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 エドモア公爵家の嫡男として生まれた私は、幼い頃既に達観していた。
 公爵の後を継ぐ為にに勉学に勤しんで、伴侶を迎え後継を作る…それで文句はないんでしょう?って。

 美し過ぎる容姿と冴え渡る頭脳、そして有り余る金と公爵家という地位…
 一遍に何もかもを与えられたら、努力する意義を無くしてしまう。大勢の者達にかしずかれ、物を右から左に移動させることすら必要ない。だけど唯一与えられないのは『愛情』だ。
 両親はいつだって忙しく、子供になど構っている暇もない。たとえ暇があったとしても近付きもしないだろう。そんな環境で育った私は、相当冷めた子供になっていた。

 一時期、そんな私よりも高い地位の者なら、この空虚な気持ちを分かってくれるかも知れない…と思った。それで父に頼んで、第一王子の友として名乗りを上げる。そしてほんの少しの期待を抱いて城に上がったんだ。

 「君がジュリアスかい?」

 そう微笑むラウル・カッシーノ殿下。確かに容姿端麗で、利発そうなお方だ。だけど何でかな?こうやって殿下にお会いできた喜びも、全然心に響かない。それから何度かお茶を飲んだり、一緒にお勉強したりして交流は進んだ。一応臣下として失礼な態度や言動はしないが、だからといって心に踏み込みたいという欲望も起きなかった。やっぱり私は、既に人として枯れているんだ…そう悟る。
 だけどそんな時、意外なところから変化が訪れる!

 ある日、使用人のアルベルトと共に街へと向かった。公爵邸に居ながら何でも手に入る私だけれど、たまには息抜きだってしたい。そう感じて少しだけ変装して街中をぶらぶらした。アルベルトは私の専属従者で、こう見えて相当護衛としての腕もある。声が大きいのが玉にキズだけどね…

 特に欲しくもない文房具などを買って、そろそろ帰ろうか…と思っていたところで、先の建物の陰に何やら動くものが見えた。もしかして、刺客か…?
 
 エドモア公爵家は、公爵といっても王家の血筋ではない。祖父の代に戦争の功績を認められ、侯爵から公爵へと陞爵されたのだが、それを妬んだ者達からの嫌がらせを今でも受けている。今、公爵家の子は私一人だ…。そのたった一人を始末してしまったら?と考える者がいないとも限らないのだ。そうでなくても、色々な思惑が渦巻くのが貴族だし…

 そう思って緊張が走る。アルベルトの方に無言で合図して、様子を見に行かせた。近付くアルベルトは通りに置かれた大きな木箱に身を隠し、そこからそっと覗く。それをじっと見ていたアルベルトは、スクっと立ち上がり私の方へと問題ない旨の合図を送ってくる。それにちょっとホッとして、一体何だったんだ?と近付いた。

 見ると、建物と建物の僅かな隙間に子供が倒れている。服は所々擦り切れて、雨にも降られたのだろう薄汚く黄ばんでいた。顔は汚れた手で何度も拭ったのか真っ黒になっている。

 「君、君大丈夫?死んでないよね!?」

 思わず私は、そう声をかけた。こんな所に何故子供が!?この辺りはこういう子供は居ない筈なのに…と。

 「おい!起きろ。そんな所に居たら本当に死ぬぞ」
 
 アルベルトもそう声をかけたが、身動き一つしない。もう死んでいるのか?それとも動けないのだろうか…

 「坊ちゃま、薄汚れた乞食のようです。少しお金を恵んでやったらどうでしょう?だけどそもそも坊ちゃまが気にされることではないと思いますが…」

 アルベルトからそう言われた瞬間、自分でも何故かは分からないが非常に腹が立った。私が気にする必要がないだって?それは私自身が決めることだ!

 「何を言ってる?この私、ジュリアス・エドモアが目についたという事が重要なんだ。助けてあげなさい!」

 そう叱責して、アルベルトは渋々といった感じでその子供を無理矢理起き上がらせた。そんな乱暴な…と言いかけた時、その子供がパチッと目を開ける。

 ──な、なんて美しいチリアンパープルの瞳…
 
 その子の、赤みがかかった紫色の目がうるうると揺れ動いていた。待てよ!この珍しい紫の瞳を持つ家門があったような気がするが…どこだっただろう?

 確かそんな貴族家があった筈だが…と考えていると、突然その子供が笑い出した。流石の私もそれにギヨッとして、その子を見つめる。先程までの生気のない目ではなく、何故かキラキラと命の輝きに満ちていた。その変わりように目が離せないでいると…

 「初めましてジュリアス様。どうか僕をあなたのお側に置いてはいただけませんか?そうなれば今後は退屈などさせません!」

 そう言われた途端、私の心臓は動き出した。何故そう思ったのかは分からない…だけど確かにそう感じたのだ!ドキドキと早鐘を打って、初めて血が通ったような気がした…

 まるで生まれ変わったかのような二人。この出会いが…エリオットと出会えた幸福しあわせが、その宣言通り『退屈』という日常から私を救ってくれたのだ。
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