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第一章・思ってもみない結婚

6・結婚の条件

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 それって何ですか、つがいはよそでお互いに見つけよう┉って?

 私はすっかり途方に暮れて、一体どういう意味?ってその意図を探ろうとしたけど、どうにも分からない┉

 それじゃ、ホントにホントの形だけの結婚?
 正真正銘しょうしんしょうめいの夫婦の関係一切なし!なのかな┉?

 「それは完全に形だけと言う事ですか?それってお互いにメリット何処どこに?なんですが┉」
 困惑しきりでそう聞いて、直哉さんの意図を探ろうとする。

 「涼さんにはありますよね?借金が一切いっさい帳消ちょうけしになる。実際は時効ですから気持ちの問題だけですけどね?だけど叔父さんにも恩返しも出来ますし、何よりも伏木の人間になれます!この家の人間というだけで与えられる利益は全て享受きょうじゅしていただいて結構です。お金も地位も。」

 私はあまりの言い草に、ある意味感心する。こんな上から物を言う人いるんだ?って思うが、あながち間違っていないのが何だかムカつく。だけど納得いかないのは┉

 「それで直哉さんは何故そこまでして私との結婚を?」

 どう考えてもそう思う。叔父と縁続きに?そんなの大した事じゃない!直哉さんにとったら何のメリットもないのだから。

「私は┉父親の願いを叶えたいのです。それだけです。」

 それだけで┉って、お父様の願いだからって、そんな自分を犠牲にするような事を?

 「┉正直に言います。私もお見合いした時点では迷惑だと思っていたんです。それがつい最近、父の病気が判明したんです。今直ぐ┉という訳ではないのですが、病状は厳しいので。」

 ──そんなに重いご病気なの┉?

 「それに叔父さんから聞いてますか?父があなたのお父様の事を愛していた事を。結婚は親族からの大反対で泣く泣く諦めたそうです┉当時は差別が酷かったですから。それもオメガの男性との結婚ですからね。」

 ──なんか色々と大事な事を言われた気がするけど、全然頭に入って来ない。
 
 何て言った?今┉私の父と直哉さんのお父様が恋人同士だったって事?そんなの知らない!全く知らなかった┉
 
 それだったらお母さんはどうだったの?その後に知り合ったの?別れた後に┉

 私は昔、一度だけ会った事がある男の人を思い出していた。父と手を握り合って涙を流していたあの人なんだろうか?
 きっとあの人なんだね┉伏木さんは。

 自分は今まで特に苦労もなく育って来た┉
 確かに両親の死はショックだったが生前は精一杯愛してくれたと思う。
 それから叔父夫婦からは愛情は感じなかったけど、お金の面では何不自由なく育ててはくれた。友人や同僚にだって恵まれていると思う。

 その影に父親の悲恋ひれんがあったなんて┉
 それが実っていたら、今ここに自分は居なかったんだな┉と複雑な気持ちになった。

 でも目の前にいる直哉さんは、父親の為に私と結婚したいと言う──。

 私が叶わなかった親孝行をしようとしているんだろうか?この人なりに。

 そして父親が亡くなった後、離婚するつもりなんだろう。
 だから番にはならない┉って。

 だからなのか┉と思うが、それは正直ちょっと考える。
 お互いの父親の関係もある事だし協力してあげたい思いもあるにはあるけど┉でもお互いにバツイチになっちゃうね?それだと。

 「考えて貰えますか?この前初めて会った時、失礼な事を言ってしまった涼さんにこんな事を言うのも気が引けるんですが、私に出来る事は何でもするつもりです。ですから出来たら前向きに考えていただけないかと。」
 
 自分の事ではなく、父親の為だけにという思いで、そんな真剣な顔をして、ちょっとズルい┉と思ってしまう。

 だけど┉私は、その時点では考えさせていただきますと言うのが精一杯だった。


 
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