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第一章・思ってもみない結婚

2・政略結婚

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 「りょう、お前結婚しなさい。いわゆる政略結婚ってやつだ。」

 突然、耳を疑う叔父からのその言葉に固まる┉
 
 政略┉結婚?今どき?

 私は内藤ないとうりょう26歳、オメガだ。
 
 両親を早くに亡くした私は、叔父夫婦に引き取られた。
 それから高校、大学と通わせてくれた叔父には感謝しているが、政略結婚を強要されるいわれはない。
 
 今は出版社で編集者として自活している私は、お金に困っている訳でもないし┉

 叔父は元々、子供には何の興味もない人で結婚はしているが自身の子供はいない。
 その事で子供の頃は叔父夫婦の態度に少し傷付いてはいたけれど、慣れてしまえばどうって事なく今迄やってこれたんだ┉それを?

 「叔父さん!何故そんな事を?今迄私に掛かったお金を返せという事ですか?それなら今からでも┉」

 そうじゃないんだ┉と、さっきまでの高圧的な物言ものいいは影を潜め、頭を抱えて悩む様子の叔父に逆に不安になった┉

 「さっきは頭ごなしに言ってすまない┉。私だって困惑しているんだ。これはお前の父┉死んだ兄の遺言ゆいごんなんだ。」

 ──えっ、遺言だって?

 父と母は共に、私が小学校四年生の時に事故で亡くなった。祖父の代から小さな商事会社を経営していて、叔父の他にはほんの数名の従業員で。決して大きな会社ではなかったけれど、実直に経営に携わって┉

 その父が亡くなった後、後を継いだ叔父がかなり会社を大きくする事が出来ていた。
 私は大学を卒業後、あえてこの会社には入らなかった┉
 次の社長を私に┉と言うのは虫が良すぎるし、そう思われるのも嫌だった。それに┉
 
 所詮私はオメガだ┉そんな資格は元よりないだろう──。

 昔のように性で差別される世の中ではなくなったし、フェロモンをコントロール出来る薬の進化によって特有の症状も楽になっている。でも、高齢の人や特定の人にはまだまだ差別意識があるのが現状で┉
 だからもし私が社長を┉となったら株主からの反対は目に見えている。前のような小さい会社ではなくなった今は特に┉

 ──だから私は自分が生活できるお金を稼いでつつましく生きていく!
 もし、誰か私の事が好きだって言ってくれる殊勝しゅしょうな人が現れたら、結婚したいなって漠然ばくぜんとは思っていたけれど┉

 ──それが何故、政略結婚に?遺言┉そんな物あったっけ?

 そう考えを巡らしていると叔父が古い遺言書を見せてきた。

 ──父の字だ!間違いない。

 懐かしいその文字に少し感動していたが、その内容はにわかに信じられないものだった┉

 伏木家ふしきけ┉日本を代表するような大企業をいくつも経営する旧財閥きゅうざいばつの一族。

 今現在、そのトップである伏木ふしきかなめ氏と父は親友であったらしい。その時ふっと昔の記憶がよぎる。
 
 ──もしかして、記憶の隅にあるあの方だろうか┉?
 
 父の会社が経営難に陥った時にお金を融通ゆうずうして貰ったようだ┉当時のお金で一億円。

 一億┉凄い金額だ!今はそれ以上の価値になっているのではないか┉?

 「その借金を返さなくていいって言ったらしい伏木さんは。だけど兄の気が済まなかったらしいんだ┉それでは。」

 ──その返済の条件に息子である私の結婚が?
 
 アルファだったら伏木家の経営するいずれかの会社に入る。
 オメガだったら伏木の長男との結婚。
 それか返済する?┉無理です!!

 「でも叔父さん、それってあちらの得になる条件なんでしょうか?かえって負担になるかもしれませんよ?それに相手の方の意思はどうなるんでしょう┉」

 叔父はそれには天を仰ぎ、溜息をつく。

 「┉お前この前雑誌に載っただろ?写真付きで。あちらもこの借金自体を忘れてたみたいだ。だけどそれを偶然見た伏木さんが思い出されて┉」 

 ──ああ、あの時の?

 私は植物関連の雑誌の編集者の仕事をしている。その取材でお会いした方に凄く気に入られて。その時に一緒に撮った一枚の写真が編集長の目に止まって雑誌に使われる事になった。あれか┉

 「それで思い出して息子と結婚させようって?私がオメガだから丁度いいって?」

「お前が兄さんに似ていたんだそうだ。オメガだった兄さんに┉。好きだったんだと思う伏木さんは┉アルファだしな。」

 父はオメガだった、私と同じ。
 でも、だからって息子達を結婚させようってなるんだろうか?



 
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