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第二章・見つけたよ!旦那の弱み

8・何とか酔わせよう計画

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 あれから普通の日々が戻っていたけど、僕はあの時のことを思うと一つの疑問が浮かぶ。
 あれ…どこまでが嘘だったの?と。そもそも全部嘘だったのかも分からない。そして本当だという証拠もない。ただの酔っ払いの戯言たわごとだったのかな?

 そして僕は考えた…それを確かめる為に、もう一度酔わせようと!

 幸いと言おうか、友貴哉はあの一件を知らない。全く憶えてはいないようだ。それならもう一度酔わせたとしても、きっと憶えていないだろうと思う。これはやるっきゃないでしょう?
 取り敢えず離婚のことは横へ置いておいて、知ってみたいと思った。友貴哉の思っていること、いつもどんなことを考えているのかを…
 
 ただの興味本位だと思えばそうだけど、もちろんそれだけじゃない。男のくせに女々しいと言われるかも知れないが、今更ながらに友貴哉が普段何を考えて、何を感じているのかを知りたい!もう離婚は決定事項なんだ…それなら少しくらい無茶をしてもいいだろう?最後にそれを知ったってバチは当たらないと思うよ。
 そしてやっぱり酔わすなら平日よりも週末だな?と思って、決行する日を待った。その日は突然やって来る…

 「明日は取引先の娘さんが結婚するとかで、お祝いに行かないといけない。だから俺、明日は居ないけど大丈夫だな?」

 そんな大事なことを、前日の夜言うという現実。だけど今更だ…驚きもしないよ。それで僕は、何でもないような顔をして友貴哉に言うんだ。

 「大丈夫ですよ…分かりました。それなら御祝儀は?準備してあるんですか?」

 それに友貴哉は、読んでいる経済誌から目を離すこともなく、頷いている。

 「ああ。秘書の河合が用意してあると言っていた。その河合も招待されているしな」

 それに、そうですか…と呟く。秘書室長の河合さんは、元々友貴哉の大学の同級生で親友だ。社長になる友貴哉を助けたいと、Chikaiに入社した非常に優秀な人で。僕も勿論会ったことがあるが、凄くしっかりした人当たりが良いタイプで秘書になるのは天職のような人だ。それなら大丈夫だろうと安心する。今から御祝儀袋、買いに走らないといけないかと思ったよ…

 そんな僕のことなど相変わらず目にも入っていない様子の友貴哉は、涼しい顔をしているけど…僕はこれを密かにチャンスだと思っていた。結婚式の披露宴といえば酒が出るよね?もちろんそんな場で醜態を晒す訳もないから、そんなに飲まないだろう。それに河合さんも同行するなら尚更だ。だけど乾杯やお付き合い程度には飲む筈…そのギリギリな線で、家に帰ってくるよね?これまではそんなことを思ってもみずに、それ以上の飲酒を勧めることも無かった。だからその飲酒…勧めちゃいましょ!

 どうも先日の会話から、それ程の酒乱だとは自分では気が付いてもいないのだろう友貴哉。きっと今までは河合さんや親しい友人辺りが、寸前で抑えていたに違いない!だけどそれはあくまでも外で…だ。家で飲むならば、僕に分があるはず。

 ──ふっふっふ…やっと来たぜ!チャンス降臨と、僕は友貴哉の見ていないところでガッツポーズをした。


 +++++


 「それでは奥様…行ってまいります!社長のことはお任せ下さい」

 「はい河合さん。よろしくお願いしますね」

 休みだというのに、家までワザワザ迎えに来てくれた河合にお礼を言う。そして、ふと…興味がありカマをかけてみる。玄関脇の鏡で身だしなみをチェックしている友貴哉の目を盗んで、河合の耳元へ近付く。そして…

 「くれぐれも飲ませないように…お願いしますね?」

 そう微かな声で河合へと囁く。それにはバッと耳を押さえながら僕へと顔を向ける河合が。これはやっぱり知ってたな?そう確信する。それから河合は、僕に負けないくらい小さな声で「分かりました…」と囁く。それには笑顔で親指を立てて、グッとポーズを返す。

 「さあ、行こうか?」

 チェックが終わったらしい友貴哉がそう河合に声を掛け、二人して家を出て行く。友貴哉はさっさと出てゆき、河合はといえば扉が閉まるその瞬間まで、ペコペコと頭を下げていた。あの焦りよう…勝ったな!

 ずっと僕には内緒にしていたその友貴哉の酒乱ぶり。正直、人に迷惑を与える程ではないが、困惑はさせる。それにChikai Corporationの社長として、あの姿は致命的だ!普段と違いすぎるっ。

 僕はそれから家で一人で、ゴキゲンで待った。僕の他は誰も居ないし、ゆっくりしちゃおうと。なんだか今までの恨みを晴らす…っていうか、不思議な感情ですっかりハイになっていたんだ。だからいい気になってつい寝すぎた…起きたら真っ暗になっていて、おまけに友貴哉が僕を見下ろしていた。

 「はっ?もう帰ってた!今…何時?」

 そう焦って起き上がる。後1時間程で帰るかな?と、リビングでソファに寝そべりテレビを見ていたら、いつの間にか寝ていたようだ。おまけにカーテンも閉めずに、窓の外を見ると真っ暗になっているのが分かる。

 「しずねたん…ねむりひめかとおもっちゃったよ。キスしたらめざめるかとおもってさ、しようかとおもったんだけど…おきちゃった!」

 ──へっ、おきちゃった…じゃねぇわ!もしかしてもう酔っちゃったの?

 そらから辺りを見渡すと、乱雑に引き出物が入ったような袋が置いてあり、礼服の上着がソファの背もたれに掛けてある。そして僕がさっきエヘヘと準備しておいたワインクーラーの中のワインが取り出されて、栓が抜いてある。これ飲んだのか?自ら…えっ?

 「しずねたんがさ、ねてるから…さびしくてのんじゃった!」

 何それ、かわいい…じゃなくて!寝起きで少し呆けている僕は、家飲みするんだ…と唖然として友貴哉を見上げた。
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