地球滅亡一日前

三月 深

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キャビンアテンダント 大島瑛子

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*** 四十時間半のうち二十五時間経過。十月三十一日水曜日。八時半 ***

 

*キャビンアテンダント 大島瑛子*

 アメリカ・ニューヨーク行きの飛行機305号便の機内は疲労と不安で満ち満ちていた。

昨日の朝の八時半頃に放たれた地球滅亡のニュースは遥か上空の305号便にも届いていた。

瞬く間に機内の隅々まで感染したそのニュースは乗客の心を煩わせ、大島と大島の同僚を混乱の渦に突き落とした。

何故か目的地のアメリカには連絡が取れないし、日本は日本で「状況を把握出来ない為こちらも対応しきれない」という返答しか返って来なかったことに乗客は納得せず、大島らは訳が分からないまま謝罪を続けた。

乗客は怒り続けるが、謝りながらも心の奥底で先に逝った旦那を思い出していた。

結婚してすぐに逝去した旦那と同じ場所に逝けるのかと、少し喜ばしくさえある。

そんなことを考えながら謝り倒していること約三十分。

ここで状況が一変した。

日本時間の三十日の二十時頃に日本とも連絡が取れなくなったのだ。

乗客は怒る元気さえも無くし、そこからは乗員乗客共に精神的消耗戦。

全員のメンタルを削るに削った。

そして現在時刻の八時半に至る。

そんな中、突然に各座席前のモニターが使い物にならなくなった。

どうやら配線を奪われたらしい。

バチバチッ、と数秒画面が点滅した後、

『はーい、はーい!ニューヨーク行き305号便の乗員乗客の皆様、こーんにっちは~!』

と、若いと表現するにはまだ幼い少女の声が聞こえて来た。

画面いっぱいに、鼻から上にかけて狐の面をした中学生程の少女が映っている。

ざわつきだす乗客の中、モニターの少女は続ける。

『え~、この度、わたくしキャットが当飛行機305号便をハイジャックさせて頂くこととなりました!現在この飛行機はー、このキャット様の手中に在り、私の判断によって何時でも墜落させることが可能でーす!』

そう言った瞬間に機体がグラッと揺れた。

機内は赤ちゃんや子供の泣き喚きと、乗客のざわめきで溢れる。

そんな中でも陽気な少女の声は続く。

『みんな~!わかって貰えたかな?このキャット様にハイジャックされているってことを忘れずにこの後の森澤一郎総理大臣と後藤弘官房長官のライヴ映像をご覧下さ~い!ライヴだよ!リアルタイムだよ!忘れないでね~!』

そしてその、衝撃のライヴ映像は始まった。

乗客はもちろんのこと、大島らキャビンアテンダントもどうすることも出来ず、乗員乗客全員がその映像を終始目に納めることとなった。
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