地球滅亡一日前

三月 深

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官房長官 後藤弘

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*官房長官 後藤弘*

 朝、九時に起きて目を剝いた。

スマホはひたすらに騒がしく鳴り続け、テレビでは地球滅亡のニュースを全チャンネルが報道していた。

後藤は数秒の間、状況がわからなかった。

数秒経ったところで状況は相変わらずよくわからなかったが、非常時であることはよくわかった。

電話をとるにも、片っ端から「ヤバい」としか発っしない為、意味がない。

外に出ようにも、電車は動かない、道路は渋滞、歩道は人でごった返している、地下鉄なんて論外。

店が開かない、万引きが多発、学校が休校、大半の会社が回らなくて社会が機能しない、など色々なことが起きている。

まるで日本じゃないようだ。

ここはスラムか。

これは…何が何でも総理の元へ行かなくてはならない。

後藤はそう決意するものの、総理の元へ行く手段など何一つなかった。

どうにか連絡だけは取りたくて、総理に電話を入れたり、メールを送ったりしたが、基本的にケータイを携帯しない総理には意味のないことだろう。

何もできないまま、刻一刻と時が過ぎ去ってていく。

十時…十一時…正午。

総理は何しているだろうか…。

こんな時にも後藤の腹はぐぅ…と、なんともなさけない音を鳴らす。

だが、仕事一筋に妻も娶らず、基本三食とも外食の後藤の冷蔵庫にはろくな物が入っていない。

十三時…十四時…十五時…

ピンポーン…と玄関のチャイムの音がした。

空腹と戦いながら玄関に赴き、ドアを開けるとスーツに身を包んだ何とも妖艶な雰囲気を持つ美人な女が立っていた。

女はうやうやしく首を垂れると、

「森澤一郎総理大臣の秘書の保坂早苗と申します。総理がお呼びですので少々よろしいでしょうか?」

この時、後藤がもう少し落ち着いていたら、もしくはもっと早苗が魅力的でなかったら、付いては行かなかっただろう。

「道が混んでいるから」

ということで共に乗ったバイクで、あんなにも密着することがなかったらもっと理性的でいられただろう。

早苗が主導するバイクはとあるビルの裏口に停まった。

バイクを適当に駐車して、早苗はにっこり笑った。

「お腹すきませんか?腹が減っては戦は出来ぬ、ですよ?」

極上の笑顔と共に差し出された左手にはおにぎりとお茶が一個ずつ載っていた。

「ああ、もらうよ」

後藤は何も疑うことなく、おにぎりをほおばり、お茶を飲んだ。

なんだかクラクラする。

ふわふわした気分になって、自然にまぶたが落ちてくる。

「この薬、わりと即効性なのね。総理さんもすぐ寝ちゃったわ」

可愛らしい早苗の笑い声と、誰かが近寄ってくる感覚。

「じゃああとは上に運ぶだけだな。よし、早苗はそっちを…」

「よろしくね、リーダー!」

「…はぁ、早苗さんはやらないんですね、はいはい」

知らぬ男と、早苗の会話。

ブラックアウト寸前の記憶の狭間で聞こえてきたのはそれだけだった。
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