地球滅亡一日前

三月 深

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総理大臣 森澤一郎

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*** 四十時間半のうち五時間経過。十月三十日火曜日。正午 ***

 

*総理大臣 森澤一郎*

 「総理、緊急事態です!国会または省庁の公務員の大半が地球滅亡を理由に帰宅しました!」

いったい何が起きている?

今朝八時。

森澤が、右腕とも言える官房長官の秘書だという者から火急の知らせを受けてから四時間が過ぎた。

地球滅亡?はっ、バカ言ってんなよ。

と、笑い飛ばしてしまいたいのだが、どうもそう上手くいかないらしい。

まずは事実確認だと思い、森澤はアメリカ大統領を通してNASAに問い合わせるつもりだった。

だが、繋がらない。

ただネットワークが悪いだけかと思い、色んな場所で、何度も、色んな所にかけた。

だが、何処にも繋がらない。

さて、どうしたことか…。

「総理、どうなさいますか!?」

「うるさい、落ち着け。小木は何処へ行った?」

この際、真偽など小木まかせでいい。

「…それが…小木大臣は先程、家族と過ごすとおっしゃってご帰宅に…」

帰った?あの仕事人の小木が?

「…馬鹿者!今後誰一人として帰すな!」

「いやっ、それは流石に…誰だって地球最後に一緒に居たい人はいますよ。総理も奥さんはお亡くなりになりましたけど、娘さんいます…よね?」

妻だの娘だのとほざく男をおいて森澤はずかずかと進む。

男に言われて少しだけ【家族】だった者のことを思い出した。

愛する妻の忘れ形見だったはずの娘を、政務の邪魔だとしか考えなくなったのはいつだろう?

使用人を雇い、娘の世話を全て任せて家を出た十年前のあの日から会ってない。

地球最後の日さえも会いたいと思わないのだから、もうあれは娘とは呼ばないだろう。

少なくとも、森澤は呼ばない。

「今すぐ車を用意しろ!」

「無理です!地球滅亡のニュースが火種となり、異常なほどの渋滞が起きています!」

「渋滞…!八方塞がりじゃないか!」

事実確認にさえこんなにも手間取っているのに周りには更に多くの問題が積み重なっていく。

くそっ、どうしたら…っ!

「総理、少々よろしいでしょうか?」

声のした方に振り返ると、そこにはニコリと微笑むスレンダーな美人の女が立っていた。

「後藤官房長官の秘書の、保坂早苗と申します。後藤が呼んでおりますので、少々お時間をよろしいでしょうか?」

森澤は、早苗の後についていった。
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