上 下
81 / 86
十一章

83.里帰り編⑤<母体回帰…?>

しおりを挟む
「ニャーオ…!(ツクヨミ様、自分で移動しますから…!)」
「何言ってるの。あなたの体、ほぼ神通力が残ってないじゃない」

仄かに月の光に照らされる神殿の通路を、ツクヨミ様が僕を抱えて進んでいく。

たしかに神通力はもう無いに等しいが…。

「まったく…何をしたらこんなことになるのよ?」

そう僕の前足を見るツクヨミ様。

「ニャー…(ちょっとミーシャに至近距離で一発…)」

面目ない。何百年猫神としてやってきてるんだって話だ。

「はぁ…貴方は少しやんちゃすぎるわよ。あと、何事も一人で頑張ろうとしないこと。見渡せば誰にだって仲間はいるものよ」

つん、と僕の頭を小突くと、止まって医務室の扉に手をかけた。

「失礼、今いいかしら」
「ツ、ツクヨミ様!?なな、何か御用でしょうか!」

慌てて立ち上がる医務長に「この子の治療をするから、場所と手を貸してもらいたいのです」と声をかける。

「え、えぇ、もちろんです」

すぐに準備を、と忙しそうに室内を小走りで回る医務長。

「こちらへ患者を」という声に僕は寝台の上に寝かされた。

すぐに全身くまなくチェックが入る。

そんな大事でもないと思うんだけどな…?

「損傷部は前足の右。肘から先を神通力が廻らなくなっています。そこから今もなお体内の神通力が放出され続けていますね。他に損傷は見られませんが…こりゃあ珍しい事態だ……」
「回復させる方法は?」

カルテに書き込む医務長に、ツクヨミ様がそう聞いた。

「じっくりと、純度の高い神通力で蓋をしていくしかないかと。体内の不足している神通力は無理に回復させるより、神界の滋養で自然治癒の方が望ましいと思います」

ほへー、そうなのか。

「純度の高い神通力…。わかりました、ありがとう」

言ったとたんにツクヨミ様が一気に僕を抱きあげて、そのまま部屋を出ていく。

「お大事にー」と医務長が背後から声をかけられた。

いや、どう見てもそれどころじゃないよね!?

「ニャー…?(ど、どこに行かれるんですか…?)」

そうツクヨミ様を見上げると、ばちっと目が合った。ニンマリと笑うツクヨミ様。

「着いてからのお楽しみ、よ」

それだけ言うとツクヨミ様は再び前を向いて歩きだした。あれ、おかしいな…ツクヨミ様がどんどんミーシャに見えてきた…。




連れてこられたのは神殿の大きな大浴場だった。

普段はツクヨミ様が湯あみにお使いになっているが、時には神殿仕えの者たちにも開放されているこの場所。ツクヨミ様は傍にあった小桶を取って、湯船の湯を汲んだ。

「少し熱いわよ」と僕に声をかけると、僕の前足を桶の中に入れた。毛と毛の間を抜けてお湯がじんわりと肌を温める。

気持ちいい…。

全身は人型でもないと勘弁だが、手先だけであれば至福の時間だ。

でも、なんで湯あみ? もしかして僕、臭かったか…!?

疑っていると、桶の中で前足がツクヨミ様の手に包まれた。

「この中だったら外に神通力が逃げちゃわないし、一気にたくさんを与えられるでしょう?」

どうやら水中で神通力を送って、水ごと練りこんで手先を補完するつもりらしい。

ほら、という声と共に水中が神通力で満たされたのが分かる。

ニンゲンで言えば羊水の中が一番近いだろう。ふわふわと、心地よい。

僕がこの世に発現した時もこんな感じだったような気がする。

滑らかなツクヨミ様の手のひらが僕の手を包み込んで、粘土で形作っていくようにゆっくりと練る。

沁みこんでいく温かさが眠気を誘う。

そこで意識は途切れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...