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十一章
83.里帰り編⑤<母体回帰…?>
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「ニャーオ…!(ツクヨミ様、自分で移動しますから…!)」
「何言ってるの。あなたの体、ほぼ神通力が残ってないじゃない」
仄かに月の光に照らされる神殿の通路を、ツクヨミ様が僕を抱えて進んでいく。
たしかに神通力はもう無いに等しいが…。
「まったく…何をしたらこんなことになるのよ?」
そう僕の前足を見るツクヨミ様。
「ニャー…(ちょっとミーシャに至近距離で一発…)」
面目ない。何百年猫神としてやってきてるんだって話だ。
「はぁ…貴方は少しやんちゃすぎるわよ。あと、何事も一人で頑張ろうとしないこと。見渡せば誰にだって仲間はいるものよ」
つん、と僕の頭を小突くと、止まって医務室の扉に手をかけた。
「失礼、今いいかしら」
「ツ、ツクヨミ様!?なな、何か御用でしょうか!」
慌てて立ち上がる医務長に「この子の治療をするから、場所と手を貸してもらいたいのです」と声をかける。
「え、えぇ、もちろんです」
すぐに準備を、と忙しそうに室内を小走りで回る医務長。
「こちらへ患者を」という声に僕は寝台の上に寝かされた。
すぐに全身くまなくチェックが入る。
そんな大事でもないと思うんだけどな…?
「損傷部は前足の右。肘から先を神通力が廻らなくなっています。そこから今もなお体内の神通力が放出され続けていますね。他に損傷は見られませんが…こりゃあ珍しい事態だ……」
「回復させる方法は?」
カルテに書き込む医務長に、ツクヨミ様がそう聞いた。
「じっくりと、純度の高い神通力で蓋をしていくしかないかと。体内の不足している神通力は無理に回復させるより、神界の滋養で自然治癒の方が望ましいと思います」
ほへー、そうなのか。
「純度の高い神通力…。わかりました、ありがとう」
言ったとたんにツクヨミ様が一気に僕を抱きあげて、そのまま部屋を出ていく。
「お大事にー」と医務長が背後から声をかけられた。
いや、どう見てもそれどころじゃないよね!?
「ニャー…?(ど、どこに行かれるんですか…?)」
そうツクヨミ様を見上げると、ばちっと目が合った。ニンマリと笑うツクヨミ様。
「着いてからのお楽しみ、よ」
それだけ言うとツクヨミ様は再び前を向いて歩きだした。あれ、おかしいな…ツクヨミ様がどんどんミーシャに見えてきた…。
◆
連れてこられたのは神殿の大きな大浴場だった。
普段はツクヨミ様が湯あみにお使いになっているが、時には神殿仕えの者たちにも開放されているこの場所。ツクヨミ様は傍にあった小桶を取って、湯船の湯を汲んだ。
「少し熱いわよ」と僕に声をかけると、僕の前足を桶の中に入れた。毛と毛の間を抜けてお湯がじんわりと肌を温める。
気持ちいい…。
全身は人型でもないと勘弁だが、手先だけであれば至福の時間だ。
でも、なんで湯あみ? もしかして僕、臭かったか…!?
疑っていると、桶の中で前足がツクヨミ様の手に包まれた。
「この中だったら外に神通力が逃げちゃわないし、一気にたくさんを与えられるでしょう?」
どうやら水中で神通力を送って、水ごと練りこんで手先を補完するつもりらしい。
ほら、という声と共に水中が神通力で満たされたのが分かる。
ニンゲンで言えば羊水の中が一番近いだろう。ふわふわと、心地よい。
僕がこの世に発現した時もこんな感じだったような気がする。
滑らかなツクヨミ様の手のひらが僕の手を包み込んで、粘土で形作っていくようにゆっくりと練る。
沁みこんでいく温かさが眠気を誘う。
そこで意識は途切れた。
「何言ってるの。あなたの体、ほぼ神通力が残ってないじゃない」
仄かに月の光に照らされる神殿の通路を、ツクヨミ様が僕を抱えて進んでいく。
たしかに神通力はもう無いに等しいが…。
「まったく…何をしたらこんなことになるのよ?」
そう僕の前足を見るツクヨミ様。
「ニャー…(ちょっとミーシャに至近距離で一発…)」
面目ない。何百年猫神としてやってきてるんだって話だ。
「はぁ…貴方は少しやんちゃすぎるわよ。あと、何事も一人で頑張ろうとしないこと。見渡せば誰にだって仲間はいるものよ」
つん、と僕の頭を小突くと、止まって医務室の扉に手をかけた。
「失礼、今いいかしら」
「ツ、ツクヨミ様!?なな、何か御用でしょうか!」
慌てて立ち上がる医務長に「この子の治療をするから、場所と手を貸してもらいたいのです」と声をかける。
「え、えぇ、もちろんです」
すぐに準備を、と忙しそうに室内を小走りで回る医務長。
「こちらへ患者を」という声に僕は寝台の上に寝かされた。
すぐに全身くまなくチェックが入る。
そんな大事でもないと思うんだけどな…?
「損傷部は前足の右。肘から先を神通力が廻らなくなっています。そこから今もなお体内の神通力が放出され続けていますね。他に損傷は見られませんが…こりゃあ珍しい事態だ……」
「回復させる方法は?」
カルテに書き込む医務長に、ツクヨミ様がそう聞いた。
「じっくりと、純度の高い神通力で蓋をしていくしかないかと。体内の不足している神通力は無理に回復させるより、神界の滋養で自然治癒の方が望ましいと思います」
ほへー、そうなのか。
「純度の高い神通力…。わかりました、ありがとう」
言ったとたんにツクヨミ様が一気に僕を抱きあげて、そのまま部屋を出ていく。
「お大事にー」と医務長が背後から声をかけられた。
いや、どう見てもそれどころじゃないよね!?
「ニャー…?(ど、どこに行かれるんですか…?)」
そうツクヨミ様を見上げると、ばちっと目が合った。ニンマリと笑うツクヨミ様。
「着いてからのお楽しみ、よ」
それだけ言うとツクヨミ様は再び前を向いて歩きだした。あれ、おかしいな…ツクヨミ様がどんどんミーシャに見えてきた…。
◆
連れてこられたのは神殿の大きな大浴場だった。
普段はツクヨミ様が湯あみにお使いになっているが、時には神殿仕えの者たちにも開放されているこの場所。ツクヨミ様は傍にあった小桶を取って、湯船の湯を汲んだ。
「少し熱いわよ」と僕に声をかけると、僕の前足を桶の中に入れた。毛と毛の間を抜けてお湯がじんわりと肌を温める。
気持ちいい…。
全身は人型でもないと勘弁だが、手先だけであれば至福の時間だ。
でも、なんで湯あみ? もしかして僕、臭かったか…!?
疑っていると、桶の中で前足がツクヨミ様の手に包まれた。
「この中だったら外に神通力が逃げちゃわないし、一気にたくさんを与えられるでしょう?」
どうやら水中で神通力を送って、水ごと練りこんで手先を補完するつもりらしい。
ほら、という声と共に水中が神通力で満たされたのが分かる。
ニンゲンで言えば羊水の中が一番近いだろう。ふわふわと、心地よい。
僕がこの世に発現した時もこんな感じだったような気がする。
滑らかなツクヨミ様の手のひらが僕の手を包み込んで、粘土で形作っていくようにゆっくりと練る。
沁みこんでいく温かさが眠気を誘う。
そこで意識は途切れた。
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