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十章

76.護る

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クローデンの怒鳴り声は空気の振動に歪められ、二人には届かない。

二人の周りを厚い結界が覆い、僕らからの干渉を防いでいた。

「まずいぞテトラ…」
「ニャー!(わかってる!)」

ミーシャの神通力が暴走しているんだ。

結界の外側からかろうじて見える中の様子からして、ミーシャは極度の集中状態、エレナは『染められる』寸前のため二人とも抵抗なんて出来ないだろう。

「あの結界を破壊するにも、ミーシャと私達では神通力の量が段違いすぎるな…」

それはつまり、僕とクローデンの力を合わせても状況は変わらないということ…。

「…ニャー?(…クローデン、クローデン一人ならどこまでこの結界を壊せる?)」

一つ、方法を思いついた。

外からが駄目なら僕が内側に入ればいい。

とはいえ無謀な作戦、成功するとは決して言えない。

「うむ……お前の頭一つが限界というところだが…、どうした?」

眉間のシワをまた一段と深くするクローデン。

さすがに頭だけだと心もとないな…。

「ニャーオ(じゃあちょっと無理してさ、僕が通れるサイズの穴開けて通り抜けるまで開けといて)」
「は…!?」
「ニャーゴ!(早く!時間無い!)」

今にも結界の中でエレナが染まりきりそうになっている。

クローデンは「クソッ!」と吐き捨てて結界と対峙した。

『猫神が一柱クローデン・クラウスが命ずる。月光ささやく宵の夜、閉ざされし扉は柔く崩れゆく。開く道筋は光の一筋。入り行くその身に幸多からん!』

瞬間結界は揺れ、僕の目の前には綻びが出る。

多分、持って数十秒。

この結界はアマテラスの神通力を吸収しきったミーシャの神通力が並々と注がれている。

助走できる距離はない。後ろ足で一気に跳ねる。

綻びに向かって一直線。

頭が結界にぶつかる直前で、やっと結界に穴が空いた。

おせぇよ、クローデン!

僅かな隙間にするっと身を通す。

背後でクローデンが倒れ込む音がした。

予想以上に結界の威力は高いようだ。

しっぽまで結界の中に入りきった途端に後ろの結界が閉じきった。

さて、ここからは僕の仕事だ。

結界の内側にはびりびりと肌で感じるほど強く神通力が充満していた。

ミーシャに近づけば近づくほど痛みは増す。

が、今を変える方法なんて、体当たり以外を僕は知らない!

強く目をつむってエレナの額に触れるミーシャの手に飛び掛かった。

触れた瞬間、バリバリバリ!と電流が流れるような刺激が全身に奔った。

よし、ミーシャの手が外れた!

途端に周囲の結界がパラパラと崩れてゆく。

あぁ、くそ、全身が痛い!

「ニャーオ!?(クローデン、無事!?エレナのこと診れる!?)」
「っああ。テトラは!」
「ニャー!(僕はまだ平気!ミーシャの方診るね!)」

しびれる足でそう声をかけてミーシャに駆け寄る。

エレナの方には死屍累々のクローデンがたどり着き、診察を始めている。

見た感じ、怪我はないな。

頭を打ったりとかもしてなさそう。

魔力はかなり失ってるけど、ミーシャはもともとニンゲンだし支障が出る量じゃない。

安静にしていれば大丈夫だろう。

「…うん、染まってもいないし、この様子だと契約も出来ているだろう。テトラ、エレナは無事だぞ」

顔を上げると診察を終えたクローデンがエレナを抱き上げ、ベットに運んでいた。

「ニャーゴ(ミーシャも無事っぽい。悪いけど、ミーシャをベットに運ぶの任せてもいい?)」

さすがに人形を取れるほどの力は今はない。

「わかっている」

と短く返事をしてクローデンはミーシャを抱き上げてエレナの横に寝かせた。

気が抜けて、足元がおぼつかない。

それはクローデンの方も同じなようで、一人ドサリとソファに沈み込んでいた。

クローデンも僕も、ここで一旦電池切れ。

休憩に入るために、僕もクローデンの眠る膝の上で眠りについた。
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