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十章

75.契約について

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「ニャー!(ほら、クローデンもイライラしないで!)」

クローデンにもそう促すと、僕はミーシャとエレナに向き合うように指示した。

「ニャー?(エレナ、エレナは今、犬と主従の契約をしてるから、それに上書きするけどいいよね?)」
「いいけど…そんなこと不可能でしょ?」

訝しげに言うエレナ。

「ニャーオ?(それができるんだよね、エレナが契約してる主ってアマテラス様じゃないでしょ?)」
「……えぇ、配属された部隊の上司が主になるわ」

嫌なことでも思い出したようにエレナが顔をしかめる。

これはニホンでもあった『ぱわはら』ってやつがすごそうだな…。

「ニー(基本的に主従契約は最初にかけた術者よりもより強い魔力量を持った術者なら上書きができるんだ)」
「ミーシャはアマテラスやツクヨミ様に次ぐ魔力の持ち主だからな」

自慢げに言うクローデンに苦笑しつつ

「ニャーゴ(じゃあ始めるよ)」

と二人に声をかけた。

準備は十分だ。

神通力(魔力って言い換えたけど)の不安定なミーシャを支えるために部屋中をマシマが気絶するほどの濃度の高い神通力で満たし、部屋には二重の結界。

有事の際には僕もミーシャも対応できるように備えている。

しっかりと頷いたミーシャとエレナに、僕とクローデンは頷きあった。

「まずはミーシャ、以前倒れた時に使った超級魔法の感じは憶えているか?」
「な、なんとなくうっすらと?」

思い巡らすように首を傾げる。

「よし、その感覚が大切だ。目をつむってみろ」

ゆっくりとした喋りで指示をしていくクローデン。

「う、うん…」
「落ち着け。体の奥底の方に同じものがあるのを感じてみろ」

目をつむったミーシャがぐっと眉間にシワをよせた。

その瞬間、グラッと目眩がするほどの濃い神通力がミーシャから溢れ出した。

マシマを連れて来なくてよかった、きっと失神じゃ済まない。

さすがアマテラスの神通力を吸収しただけある。

「ニャー(行くよ、エレナ)」

僕の言葉にエレナは再び強く目を閉じて頷いた。

「ミーシャ、エレナの額に手を当てるんだ」
「わ、わかった」

ミーシャの震える手がエレナの額に置かれる。

「では、少しずつで構わん。魔力をエレナに」

ゴクリと生唾を飲み込む。

ミーシャは深く深呼吸をして、力を入れるように顎を引いた。

カタリ、と机においてあったカップが揺れる。

「ニ…(え…)」

と、途端に周囲が、正確には空気が揺れだした。

ガタガタと音を立てて物が落ちていく。

「ミーシャ、手を離せ!」
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