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十章
72.夢
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「…ツ!……ガウツ!おい、シュガウツ!起きろ!」
低い怒鳴り声に重い頭を上げる。
うっすらと目を開けると、見えたのは石積みの壁と移動を阻む格子だった。
あぁ、夢だったのか。ミーシャ様が救ってくれて、再び会えるなんて、随分と都合のいい夢だ。
でも怖かったな、シャーレン様とマシマ先輩。
あの二人を相手にしたら神通力全部使い果たしても勝てる気がしない。
敵、になっちゃったんだもんな…。また受け入れてもらえるわけが無い。
あの二人の遠慮のない殺意は怖すぎる。
いっそ夢でよかったのかも。
あぁ何だかもう考えがまとまらないや。
またマシマ先輩に叱られちゃうな…。
「何をブツブツ言っている、エレナ・シュガウツ!尋問の時間だ、部屋を出ろ」
見覚えのある看守の顔を目の端に捕らえつつ、ふらりと立ち上がる。
うるさいな、私より立場が低いくせに。
もはや足元の感覚などない。
夢心地で牢獄を出ると、背中をどん、と押された。
前に倒れこむように足を出すと、そこはいつもの尋問部屋だった。
床に崩れ落ちる。気付けば周りは囲まれていた。
目の前にいるのは、鞭を持った犬神の男。
偉そうにふんぞり返って、バカみたい。
男は鼻息荒く私を見据えると、ツバを飛ばしながら声を荒げた。
「何故ミス・クロウとやらを殺さなかった。お前がスパイだからじゃないのか!」
「…違う」
だれが、スパイなんて。
「噓を言うな!」
「違う!スパイなんかじゃない!」
目の前の男が拳を振り上げ、その拳が降り注ぐ。
頭を殴られた振動で視界が揺れた。
パシリパシリと床を鞭で叩きながら、男は上機嫌にまた喋りだす。
「じゃあ次だ。何故ミーシャを殺せという命令に歯向かった。お前が敵とつながっているからだろう!」
口を開けばスパイだの内通者だの、それしか能がないのか。
「違う。…殺せなかった、だけよ」
「だからそれが!」
「違うってば!…そもそも、一人のニンゲンごときにこんなに手間取るなんて、そんな神にあるまじきことをするアマテラス様なんて…」
そうだ、なんでアマテラス様がこんなこと。
「貴様アマテラス様を愚弄するか!」
顔をゆがませ手を振り上げる男。
その手に持ってる鞭は何なのよ。
少しは使おうとしなさいよこの下級兵士が。
そんな罵倒にわざわざ口を開く気にもなれない。
体中が軋んで痛い。
なんだか、もう……抵抗する気も失せてきた。
「ミー…シャ……様…」
どうかお元気で、こんな奴らに捕まらないで…。
どこかに光がある気がして、虚空に手を伸ばす。
ねぇ、私にも夢があるんです。
貴方の守るこの国を見てみたい。
ちゃんと真正面から貴方のそばで見てみたいんです。
もうそれは、叶わないのかもしれないけれど。
「エレン、もう大丈夫よ」
そう諦めて下ろそうとした手は、優しく確かな温度に包まれた気がした。
低い怒鳴り声に重い頭を上げる。
うっすらと目を開けると、見えたのは石積みの壁と移動を阻む格子だった。
あぁ、夢だったのか。ミーシャ様が救ってくれて、再び会えるなんて、随分と都合のいい夢だ。
でも怖かったな、シャーレン様とマシマ先輩。
あの二人を相手にしたら神通力全部使い果たしても勝てる気がしない。
敵、になっちゃったんだもんな…。また受け入れてもらえるわけが無い。
あの二人の遠慮のない殺意は怖すぎる。
いっそ夢でよかったのかも。
あぁ何だかもう考えがまとまらないや。
またマシマ先輩に叱られちゃうな…。
「何をブツブツ言っている、エレナ・シュガウツ!尋問の時間だ、部屋を出ろ」
見覚えのある看守の顔を目の端に捕らえつつ、ふらりと立ち上がる。
うるさいな、私より立場が低いくせに。
もはや足元の感覚などない。
夢心地で牢獄を出ると、背中をどん、と押された。
前に倒れこむように足を出すと、そこはいつもの尋問部屋だった。
床に崩れ落ちる。気付けば周りは囲まれていた。
目の前にいるのは、鞭を持った犬神の男。
偉そうにふんぞり返って、バカみたい。
男は鼻息荒く私を見据えると、ツバを飛ばしながら声を荒げた。
「何故ミス・クロウとやらを殺さなかった。お前がスパイだからじゃないのか!」
「…違う」
だれが、スパイなんて。
「噓を言うな!」
「違う!スパイなんかじゃない!」
目の前の男が拳を振り上げ、その拳が降り注ぐ。
頭を殴られた振動で視界が揺れた。
パシリパシリと床を鞭で叩きながら、男は上機嫌にまた喋りだす。
「じゃあ次だ。何故ミーシャを殺せという命令に歯向かった。お前が敵とつながっているからだろう!」
口を開けばスパイだの内通者だの、それしか能がないのか。
「違う。…殺せなかった、だけよ」
「だからそれが!」
「違うってば!…そもそも、一人のニンゲンごときにこんなに手間取るなんて、そんな神にあるまじきことをするアマテラス様なんて…」
そうだ、なんでアマテラス様がこんなこと。
「貴様アマテラス様を愚弄するか!」
顔をゆがませ手を振り上げる男。
その手に持ってる鞭は何なのよ。
少しは使おうとしなさいよこの下級兵士が。
そんな罵倒にわざわざ口を開く気にもなれない。
体中が軋んで痛い。
なんだか、もう……抵抗する気も失せてきた。
「ミー…シャ……様…」
どうかお元気で、こんな奴らに捕まらないで…。
どこかに光がある気がして、虚空に手を伸ばす。
ねぇ、私にも夢があるんです。
貴方の守るこの国を見てみたい。
ちゃんと真正面から貴方のそばで見てみたいんです。
もうそれは、叶わないのかもしれないけれど。
「エレン、もう大丈夫よ」
そう諦めて下ろそうとした手は、優しく確かな温度に包まれた気がした。
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