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七章序章

43.『ルームNo.2』

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―十分後―

「ふむ、ここか……」
「ニャー(みたいだね)」

ついたのは、シャーレンさんの部屋と同じくらい大きな扉のある部屋。

扉には呪いでもかかってそうな禍々しい文字で『ルームNo.2』と書いてある。

「んー……扉のデザインが気に入らんな」

クローデンが指を一振りすると、あっという間に扉がミス・クロウの家のような、いかにも、なこじんまりとした暖かみのある木製の扉に変わった。

「まぁこんなもんでいいか。入るぞ」

ぎいっ……と扉のきしむ音がして。扉が開かれる。

ゆっくりと足を踏み入れるとそこは……。

壁、かべ、カベ!

レンガのごつい壁が四面をズラーッ!と囲んでいる。

「ニャー……(うわぁ、独房みたい……)」
「ふむ……強度がすごいな……。そしてその分見た目が酷い」

周りを呆れて見回すクローデン。

何をするつもりなのか、魔法らしき力がこもっている。

「なぁテトラ、ここにはまず何が必要だと思う?」
「ニャー(え、知らな……)」
「もちろんライトだよな!」

コイツ聞く気ねぇな。

クローデンが指を振るたびに壁に一つ二つと逆スズラン型の照明が現れる。

それに続いて火が跳ねながら照明の中に火を灯した。

独房の様だっただだっ広い部屋が一気に洒落てくる。

『何と言う事でしょう!』だ。

「よし、照明はオーケー。あとは……」

また指先に力を灯す。今度は神通力の方だ。

各場所を指して力を込めるごとに、棚、机、椅子、フラスコ……と、クローデンの薬部屋にあったものが現れる。

ハハーン?

「ニャー(さては神通力が使いたくてミーシャ達を追い払ったな?)」
「正解」

ニヤリと笑って、今度は

「ふむ……エルフの方も心配だし、ここを私の寝室と繋げるか」

と言った。

『ここ』と、指されたのは間違いなく壁。

だが止める間もなくクローデンの神通力が炸裂して、壁に扉が出現した。

あー……やってしまった……。

メカニックルームに続き、エルフの里の森へワープとは……もはや城が最終兵器レベルに変なものに……。

「うん!これであの森と行き来もできるし、私の部屋は完成だ!さぁ、ミーシャ達のところに行こうか!」

頭を抱えている僕を置いて、クローデンはどんどん進んで行く。

「ニャー!(あっ、コラ!一人でフラフラするな!)」

僕も慌ててクローデンを追いかけて部屋を出てから十分。

僕らは何故か外に居た。

何故かって言うと話は長い……。

廊下で会った侍女には

「ミーシャ様とマシマさん?確か外にお肉取りに行ったけど……」

と言われ、外の馬車引きには

「姫様と侍女様ですかい?大量の肉を抱えて調理室に向かってらっしゃったですよ?」

と言われ、調理室の見習いシェフには

「姫様とマシマさんなら、さっき師匠を連れて広場に飯を配りに行ったよ」

と言われたからだ。

何かデジャブ……。

広場とは城下町・スピアートラの中心広場のことなのだが……。

「いかん。道に迷ったな」

そういうことだ。

「というかテトラ。広場への道くらいお前わからんのか?」

確かにわかるけど……。

「ニャー……(全部猫用の道なんだよ……)」

人型のクローデンが通れる道じゃない。

「そうか……」
「ニャー?(って、クローデンこそ昔住んでいたところなんだから道くらいわかるんじゃないの?)」
「わかるわけないだろ!何年前だと思ってるんだ、まったく……」

だよねー。

それより、クローデンは気付いているだろうか?

今僕たちは傍から見れば、ニャーニャー鳴く猫と、それに話しかけている頭のおかしい女にしか見えないことに。

「そうだテトラ!良いことを思いついたぞ。私が猫になればいいんだ!」

と言った瞬間に神通力で猫になろうとするクローデン。

「ニャー!(ちょっ、人前で神通力はアウトだから!)」

僕の言葉にクローデンは

「あ、そうか」

と体中に神通力を迸らせるのを止めた。

あぶなかったぁ……。

あと一秒遅かったらヤバかったな……。

「さぁ、いくぞ!」

と、あっという間に路地裏に入っていく。

あいつ……人の迷惑を考えても、僕の迷惑だけは考えないとこ、そのまんまだな。

「ニャー!(おい、早く!)」

あ、もう猫になってる。

僕も急いで路地裏に駆け込んだ。

「ニャー(相変わらず綺麗な黒毛だな。和牛レベルだ)」

本当に気に入らないくらい光が反射する艶のある毛だ。

「ニャー(勝手に黒毛和牛にするな)」
「ニャー(ほら、行くぞ)」

と言ってクローデンは左の路地へと入っていく。

「ニャー!?(いやいや、そっちじゃないからね!?)」
「ニャー(お?すまんすまん)」

歩き出したはいいものの……ちゃんとつけるか心配である。
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