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六章
41.エルフ編⑨<真実とその後>
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ミス・クロウが「ちっ」と舌打ちをした。
「あの毒は本来、女王、お前に盛られるものだった。全く腑抜けの平和主義の女王を殺すための毒。そのためにエルフ隊は動物を全て別の場所に移動させ、森の植物には枯らし薬をかける。ちなみにエルフ隊が二か月ほど前に私から枯らし薬を買ったのは変えようのない事実だ」
毒は女王に盛られるものだった……?
ん?
「でも何で動物を別の場所に移動させて森の植物を枯らすことがリーディアに毒を盛ることにつながるの?」
「ミーシャ、良い質問だ。考えてみろ、お前が食べるものは普段は何処から仕入れる?」
「んー……」と悩んでいると、後ろにいたマシマが
「王家直属契約をしている農家や畜産場から仕入れております」
と答えた。
あ、そうだったんだ……。
「マシマ、ありがとう。だがそれが貧困すると、例えばエルフ隊のような騎士団の持ってきた果実やら肉でも食べるだろう?それが狙い目だ。果実やら肉やらに毒を仕込めばいいのだ。だがそれを実行しようとしていたところにミーシャらが来た。致死量の毒の分量を調べるための実験台にすることをエルフ隊は企み、実行。マシマが毒を食べた」
「さらに言えば、多種との交流を絶ってきたエルフの里にニンゲンが入ることをよく思わなかったのだろうな」とミス・クロウは付け足して言う。
ん?でも……。
どうやらテトも同じことを考えたらしく、
「ニャー?(でも、そうすると化け物伝説は?)」
「あ、『化け物伝説はなんだったのか』と言ってます」
するとミス・クロウは少し悩むと
「まぁ、女王の民を愛する気持ちの現れ……なんだろうな。すべてわかっていて、そのために必要な動物の消滅、植物の枯れを正当化するためのでまかせを言ったのだろう。とっさの行動と言えど、エルフ隊がもし毒を仕込まなかったときに何も罪にならないように、と考えてついたのだろうよ」
少し茶化しながらも、ミス・クロウはそう語った。
「さて、リーディア女王、私の推測に間違いはあるかな?」
笑った口元に反し、しっかりとリーディアを射抜くその目。
「リーディア、ミス・クロウの言う事は本当なの?」
「……本当よ……」
すごく小さな声でリーディアはそう呟く。
「そう……でもそれ、間違ってるよ」
はっ……としてリーディアが顔を上げた。
「だめだよ、甘やかしちゃ。一つの罪を黙認したらね、このエルフの里全ての罪がなかったことになる。リーディアは、この里を不幸にしたいの?違うでしょ?」
「じゃあ……」
リーディアの瞳から涙が零れる。
「じゃあどうしたら良かったのよ!?私だって父さんみたいな立派な王になりたかった!でも、気付いた時には味方なんて居なかったのよ!貴女が死ぬのが最善ですって……ナイフを手渡してくる者だっていたわ!でも、死ねなかった……。だから、知らないうちに毒で死ねるなら、それが一番じゃない!」
パァン……と乾いた音が響く。
私がリーディアの頬を張った音だ。
瞬間に、壁に控えていた侍女たちがリーディアを囲み、兵士たちが私達に槍を突き付けてきた。
「リーディア様、大丈夫ですか!?」
「客人と言えど、場合によっては処罰が下るぞ!」
全員の目は私を睨んでいる。
「……ねぇリーディア、この状況でも同じことが言える?」
「へ……?」
「今貴女のもとに駆け付けた侍女に兵士。全員が貴女の死を願っているとでも?」
私の言いたいことが伝わったのか、リーディアは周りのエルフたちを見回す。
「それだけじゃないぞ、女王よ。私は下町の少女から伝言を預かっていてな。もっと下町に遊びに来てほしいらしいぞ。お前に憧れている様だったな?」
冗談めかしてミス・クロウが言う。
「なんだリーディア、貴女の死を願っている人なんて、たったの一握りじゃない」
そう笑いかけて初めて、今日一回目のリーディアの笑顔が見れた。
「大丈夫、やり直せるよリーディア。ちょっとずつ、やり直していこう」
右手を差し出す。
手を取ったリーディアを勢い良く立ち上がらせる。
「……ありがとう、ミーシャ」
そうして、この化け物騒動は幕を閉じた。
◆
そこからは鬼の様に話が進んだ。
エルフ隊の人たちは隊の下っ端に落とされ、また隊長になる為にそれぞれ奮闘している。
追放レベルのことになるかと思ったのに意外と軽い罰なのかリーディアに聞けば「私を殺そうとしたことも一つの思想。彼らがまた力を持つまでに私が女王であることを認めてもらえなければ女王である意味はない」のだそうだ。
かなりスリリングな賭けだが、リーディアなら大丈夫だろう。
動物は無事に解放され、私達もイノシシを三十匹、ウサギを二十匹、シカを五十匹貰って帰った。
どうやらもともと生き物の豊富な森だったらしい。
植物はミス・クロウ協力のもと、植物再生計画が進んでいる。
そして……私達には大きなお土産が一つ。
ここは帰りの馬車の中なのだけど……。
「ニャー!(なんでお前が乗ってんだよ!)」
「いいだろう、王城で専属魔法士として仕えるんだ」
「魔法使いに猫!うるさいです!少しは静かにしてください!」
そう、ミス・クロウが、スティラフィル国に来ることになったのだ……。
「あの毒は本来、女王、お前に盛られるものだった。全く腑抜けの平和主義の女王を殺すための毒。そのためにエルフ隊は動物を全て別の場所に移動させ、森の植物には枯らし薬をかける。ちなみにエルフ隊が二か月ほど前に私から枯らし薬を買ったのは変えようのない事実だ」
毒は女王に盛られるものだった……?
ん?
「でも何で動物を別の場所に移動させて森の植物を枯らすことがリーディアに毒を盛ることにつながるの?」
「ミーシャ、良い質問だ。考えてみろ、お前が食べるものは普段は何処から仕入れる?」
「んー……」と悩んでいると、後ろにいたマシマが
「王家直属契約をしている農家や畜産場から仕入れております」
と答えた。
あ、そうだったんだ……。
「マシマ、ありがとう。だがそれが貧困すると、例えばエルフ隊のような騎士団の持ってきた果実やら肉でも食べるだろう?それが狙い目だ。果実やら肉やらに毒を仕込めばいいのだ。だがそれを実行しようとしていたところにミーシャらが来た。致死量の毒の分量を調べるための実験台にすることをエルフ隊は企み、実行。マシマが毒を食べた」
「さらに言えば、多種との交流を絶ってきたエルフの里にニンゲンが入ることをよく思わなかったのだろうな」とミス・クロウは付け足して言う。
ん?でも……。
どうやらテトも同じことを考えたらしく、
「ニャー?(でも、そうすると化け物伝説は?)」
「あ、『化け物伝説はなんだったのか』と言ってます」
するとミス・クロウは少し悩むと
「まぁ、女王の民を愛する気持ちの現れ……なんだろうな。すべてわかっていて、そのために必要な動物の消滅、植物の枯れを正当化するためのでまかせを言ったのだろう。とっさの行動と言えど、エルフ隊がもし毒を仕込まなかったときに何も罪にならないように、と考えてついたのだろうよ」
少し茶化しながらも、ミス・クロウはそう語った。
「さて、リーディア女王、私の推測に間違いはあるかな?」
笑った口元に反し、しっかりとリーディアを射抜くその目。
「リーディア、ミス・クロウの言う事は本当なの?」
「……本当よ……」
すごく小さな声でリーディアはそう呟く。
「そう……でもそれ、間違ってるよ」
はっ……としてリーディアが顔を上げた。
「だめだよ、甘やかしちゃ。一つの罪を黙認したらね、このエルフの里全ての罪がなかったことになる。リーディアは、この里を不幸にしたいの?違うでしょ?」
「じゃあ……」
リーディアの瞳から涙が零れる。
「じゃあどうしたら良かったのよ!?私だって父さんみたいな立派な王になりたかった!でも、気付いた時には味方なんて居なかったのよ!貴女が死ぬのが最善ですって……ナイフを手渡してくる者だっていたわ!でも、死ねなかった……。だから、知らないうちに毒で死ねるなら、それが一番じゃない!」
パァン……と乾いた音が響く。
私がリーディアの頬を張った音だ。
瞬間に、壁に控えていた侍女たちがリーディアを囲み、兵士たちが私達に槍を突き付けてきた。
「リーディア様、大丈夫ですか!?」
「客人と言えど、場合によっては処罰が下るぞ!」
全員の目は私を睨んでいる。
「……ねぇリーディア、この状況でも同じことが言える?」
「へ……?」
「今貴女のもとに駆け付けた侍女に兵士。全員が貴女の死を願っているとでも?」
私の言いたいことが伝わったのか、リーディアは周りのエルフたちを見回す。
「それだけじゃないぞ、女王よ。私は下町の少女から伝言を預かっていてな。もっと下町に遊びに来てほしいらしいぞ。お前に憧れている様だったな?」
冗談めかしてミス・クロウが言う。
「なんだリーディア、貴女の死を願っている人なんて、たったの一握りじゃない」
そう笑いかけて初めて、今日一回目のリーディアの笑顔が見れた。
「大丈夫、やり直せるよリーディア。ちょっとずつ、やり直していこう」
右手を差し出す。
手を取ったリーディアを勢い良く立ち上がらせる。
「……ありがとう、ミーシャ」
そうして、この化け物騒動は幕を閉じた。
◆
そこからは鬼の様に話が進んだ。
エルフ隊の人たちは隊の下っ端に落とされ、また隊長になる為にそれぞれ奮闘している。
追放レベルのことになるかと思ったのに意外と軽い罰なのかリーディアに聞けば「私を殺そうとしたことも一つの思想。彼らがまた力を持つまでに私が女王であることを認めてもらえなければ女王である意味はない」のだそうだ。
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動物は無事に解放され、私達もイノシシを三十匹、ウサギを二十匹、シカを五十匹貰って帰った。
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そして……私達には大きなお土産が一つ。
ここは帰りの馬車の中なのだけど……。
「ニャー!(なんでお前が乗ってんだよ!)」
「いいだろう、王城で専属魔法士として仕えるんだ」
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