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魔族達との戦い

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「キルシィさんは、先制する俺の後から続けて来てもらって、攻撃の援護をお願いします。状況に応じてですが、もし緊急事態で必要性があるならば、を固めてもらっても、構いませんから。」
 

 そういう風にキルシィに言い残して、相手に気付かれないように気配を殺したまま、死角から素早く魔族達の居る場所に躍り出ると、一番近くに居た剣を装備している魔族2体を、薙ぎ倒すためにモップで振り払う。

 ドゴッ!!

 有り得ない力で壁に打ち付けられた魔族達は、余りの衝撃ダメージに潰れたオブジェとなって沈黙して、霞みに変わって消えていく。

 ムカデよりも柔らかく手応えがまるで無い感触に、響は肩透かしを喰らった様に呆気に取られる。

 弱い魔族達は下級魔族の様だが、以前戦った下級魔族と比べてみても、全く手応えが感じられなかった様に感じる。

 まあいいか···。
 
 そう思いつつ軽快に身を翻し、2撃目のモップの振り払いで、5m程離れた場所に纏まっていたもう3体の下級魔族達を反対の壁に豪快に打ち付けて、同じ様に沈黙させる。

 虚を突かれて、いきなり半数に減らされた魔族達が、慌てふためき浮き足立ったタイミングを見逃さず、3撃目の攻撃を残りの魔族達に入れる為に、切れ目無く次の攻撃動作に入る。


「ウォー!!」


 ドカッ!

 そんな響の流れる様な動きを、野太い雄叫び声と共に地中にめり込む様な勢いで豪快に飛び込んで来たバレーボール程の大きさの頑丈な鎖が繋がったトゲだらけの鉄球が止める。

 思わぬ形で阻止された攻撃動作を直ぐに切り替え、響はゴルフのフルスイングの要領で風切り音をさせながらモップを振る。

 そして鉄球を飛んできた方向に器用に打ち返すと、視線を向けて相手の反応を見る。

 ガンッ!

 相手の魔族は、響の打ち返した鉄球を難無く素手で受け取ると、口の端を上げる。

 響はその姿をしっかりと視界に入れて、思わず声を出した。


「あれ?何で···純和風の鬼が?」


 その魔族の姿は筋肉粒々の3mは有りそうな厳めしい巨漢で、特徴的な虎柄のパンツ姿に、血走った紅くギラギラとした瞳と、紺色の短い髪に2本の短い角がアクセントになっており、口の両端からはみ出た尖った犬歯と全身毛深く赤い肌が、まるで日本昔話の赤鬼の様で響は微妙な気分になる。 

 これで金棒を持っていれば最早完璧パーフェクトなのだろうけれど、此処は所謂異世界だ。


「そんな訳は無いよな···。」


 どう考えても、アイシャから以前聞いた、中級魔族の特長に当てはまっている。

 
「中級魔族か···。」


 響は呟きながら、モップを握り直す。

 下級魔族と中級魔族の差は、アイシャの話からするとかなりの力量差があると考えられる。

 下級魔族が、人間相手レベルに手加減していた手刀を難無く受け止めていた事を考えると、中級魔族に対しては下級魔族程の余剰なは必要無いかもしれない。 

 この世界に来てからは割りとイージーモードで事が運んで、未だ本気を出した事の無い響には、周囲に迷惑を掛けない程度に戦う為の力加減を知っていく調整作業が急務だった。

 通常に比べて過剰に力が有るのは理解しているので、力加減のろくに出来ない歩く厄災に成り下がって、破壊活動を推進してしまう様では悪目立ちして色々とやり辛いし、先が思いやられる。

 読み違わない様に、細かい微調整は必要だろう。


「邪魔なエルフを追ったら、まさか仲間が居たとはな!どちらにせよ我が目的を遂げる為には、目障りな羽虫に違いは無い!叩き潰してやるぞ!!」


 中級魔族からすれば、奥で身を隠すように様子を窺っている女エルフに、モップを手にしているだけの防具すら着けていない町人風の出で立ちの軽装姿の優男の組合せは取るに足りない者と感じられたのだろう。

 異世界特有の冒険者らしい姿をする事も考えなかった訳では無いが、動きにくそうだし今の軽装の方が断然性能が良いので、見た目はこの際気にしない事にしたのだが、軽視されている所を見ると相手の油断を誘うのにも一役買っている様だ。

 
「キルシィさん!弓で残りの下級魔族を牽制するか、若しくは倒すかしてください!」


 後方に声を掛けながら、響は中級魔族と正面から対峙する。

 直ぐに中級魔族の傍らに陣取っていた下級魔族が、キルシィの弓を受けてその動きを鈍らせる。

 流石に下級であっても魔族は魔族と言うことなのか、弓での攻撃は致命傷を与えるまではいかなかった様だ。

 精霊魔法が上手く作用したなら、強力な属性魔法を弓矢に附与した攻撃が存分に出来るので結果は違うものに成っていただろうが、制限が掛かる現状では精霊魔法を使って属性攻撃にしても効果は下方修正されてしまう為、決定打に欠ける。

 お蔭で、何本もキルシィの弓矢を体に受けながらも、響の隙を狙おうと攻撃してくる下級魔族の存在が少し鬱陶しい。

 




 
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