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小さな厄災

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「色々なモンスターが居るんですね···。」


 あんな極小のモンスターが居るとは思わなかったので、響はいたく感心しながらキルシィの後へと続いて歩く。

 祠の中のなだらかな道を、何故かキルシィは無言で突き進む。

 一変して無口なキルシィに疑問を感じながらも、響は遅れをとらないように後に続く。

 しかし、5分も歩かないうちにキルシィの様子が刻々と変化していく。

 多量に汗をかき地面に汗がポタポタと流れ落ちる、息遣いも徐々に荒くなっていき、まるで全力疾走したかの様に肩で息をするまでになってしまう。

 その上、段々足取りも泥酔した人の様に、覚束無くなっていってしまった。


「大丈夫ですか?キルシィさん?!」


 明らかな異変に響が心配して声を掛けると、キルシィは等々膝を付いてしまった。

 キルシィは響の声掛けに対して、苦し気ながら自嘲気味に笑う。


「失敗···しました···。どうやら···もう一匹···リーフティックが潜んでいた様···です。」


 キルシィは髪を掻き分け、首の後ろに触れる。

 そこには吸血して丸々と膨らんだリーフティックが食い付いていた。

 キルシィはリーフティックを強引に剥ぎ取ると、忌々しげに地面に叩き落とし、渾身の力で握ったこぶしで叩き潰す。

 プチンと音がして、キルシィの手に吸血された血が付着したが、キルシィはそれを気にする余裕も無く崩れ落ちる。

 
「キルシィさん!?」


 響が慌てて抱き起こすと、キルシィは意識を失い、苦悶の表情を浮かべ荒い息を吐いている。

 体は熱を持ち、かなり体温が上がって居る様だった。

 先刻言っていたリーフティックが媒介する疫病にかかってしまったのかもしれない。

 響は周囲を警戒して、急ぎ危険が無い事を確認すると、キルシィをそっと横たえる。


「病気も状態異状の一種だから、光属性で何とか成るかな?」


 少し思案してそう呟きながら、道具袋から光属性の洗剤のスプレーを取り出した。

 キルシィを蝕む物を全て、綺麗サッパリ掃除するイメージを強く思い描く。

 そしてスプレーを吹き掛けると、淡い光がキルシィに降り掛かり、その体に吸収されていく。

 直ぐ様、キルシィの息遣いが穏やかになり、体温も平常に戻ったのか紅潮していた顔も赤味が引いている。

 苦悶を浮かべていた表情も穏やかになり、響は漸く詰めていた息を吐き出す。

 疫病の対処法が分からなかった響には、洗剤の力の助けが無ければキルシィを助けられなかったかもしれない。

 つくづく、応用の効きすぎる便利な力だと思わずには要られない。

 便利な故のリスクも秘めているので、使い方だけは間違えない様にしなければ成らない。

 そう考えながら···ふと、昔家の近くの道場に居た、空手道場の師範をしていたおじさんの言葉を思い出した。

『強くなるということは、その力に合わせた責任が生じるということだ。力のままに振る舞うのは、強さとは言えない。使いどころを間違えれば力は守るものではなく壊すだけのものになってしまう。だから、時と場合によって緩急を付けなければならない。力を持つ者の在るべき姿を常に意識していなければならない。力に善悪はない。只、使う者の心の資質に左右されるというだけだ。』

 若気のいたりでよく喧嘩をしていた響に、少し説教染みてはいたが、色々な声を掛けてくれた。

 気さくで人徳のあるおじさんだった。

 もう会うことは出来ないだろうが、元気にしているのだろうか?

 少しだけ、望郷の切なさを感じた。

 響が感慨に耽っている間に、キルシィが漸く身を起こした。


「また、助けて頂いたのですね···。ありがとうございます。しかし、リーフティックの媒介する疫病に効果の有る万能薬は希少な物なのに···すみませんでした。」


 恐縮するキルシィに、響は洗剤の件は黙っておくことにした。

 直感でそうした方が良い予感がひしひしとしたのだ。
 
 キルシィもまた、アイシャと同じく興味を持てば突き詰めるまで探究するタイプなので、響の選択は正しかった。

 もし知られてしまえば、四六時中付きまとわれてしまう可能性は濃厚である。


「気にしないで下さい。困ったときにはお互い様ですから···。それよりも体の方は大丈夫ですか?かなり辛そうでしたから、回復出来たとしてもどの様な疫病なのか分からなかったので、何か後遺症が残らないと良いのですが···。」


「リーフティックの媒介する疫病はティック熱と言って、酩酊した様に足元からの脱力が起こり、意識を失うほどの高熱と強い筋肉の痛みが特徴です。発熱してすぐに万能薬を服用しなければ、筋繊維が徐々に破壊されていき最悪死に至るか、辛うじて助かっても筋繊維が回復出来なければ寝たきりになってしまう恐ろしい疫病です。リーフティック自体は虫除けのかぐわし草で避ける事が出来るのですが、魔族の出現で慌ててしまい、かぐわし草の効果が切れているのに気付かずに油断して居ました。」

 キルシィに体の状態を念入りに確認して貰い、大丈夫だと返事が返ってきて響は安堵する。

 キルシィを無事に見付けて助け出して、安全な所まで連れていくのが響の仕事だ。

 五体満足でなければ、依頼達成とは言えないだろう。



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