ふざけるな!

うさみん

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 第1小隊の第2陣の3人は、担当場所に出現した上級魔族の殲滅に当たっていた。

「思い掛けず美味しい思いも出来ましたが、本来の交代時間と四時間ズレの誤差は、やはりリズムが狂いますね・・・。」

 グリードはぶつぶつ言いながらも、攻撃の手を緩めない。
 闇属性の魔族相手に、闇魔法で精神に直接揺さぶりを掛けて、動きを封じられるグリードのスペックの高さは、流石に上位陣と言ったところだ。

「レオンがあの状態なら、仕方無いよ。女性になっても素敵だったけど、あの時限定だったのが残念・・・。あまり収穫無かったから、コレクションほぼ増やせなかったし・・・。」

 レイも残念そうに呟きながら暗器を器用に操り、逃げる魔族に止めを刺して廻る。
 ストーカーのコレクター魂を侮るなかれ、魅了されていてもするべき事は外さない。

「レオン様はどんな姿でも素晴らしい!あの冷やかな視線に投げ掛けられた御言葉・・・。あぁ!レオン様あぁ!」

 アルベルトは歓喜の叫びと共に、抑えきれない昂りを魔族にぶつける。
 無慈悲なウォールハンマーが魔族達を凪ぎ払い、その衝撃で叩き潰された肉塊が地面に飛び散る。

「しかし、魔族達の動きがおかしいですね?普通ならゲートから離れて散開するのに、ゲート側に集まっているようです。」

 グリードは魔族の分布と周囲を確認して、改めてメンバーの2人に向けて疑問を口に出す。
 その疑問に、ルイが同調する。

「確かに、今迄の動きと違う・・・。嫌な予感がする。」

 ルイの予感は、善くも悪くも良く当たる。

 魔族も馬鹿では無いのだ。 
 一ヶ所に集まると、まとめて殲滅される可能性が上がるのを理解している。
 だから通常は分散して、高位の魔族が出現する為の、時間稼ぎをするのが通例なのだ。
 それがセオリーを無視して、ゲートに集まっていくのは異様だ。

 そのタイミングを見計らった様に、空に魔法の信号弾が上がる。

「第2級警戒体制に移行した様ですね。しかも新たな最上級魔族が出現した様です。急ぎ他の小隊と連携を取りましょう!ルイ、情報収集を頼みます!アルベルトは第2部隊のサポートに回って下さい!」

 グリードが、指示を出し移動を開始する。

 最上級魔族の反応が魔道具で表示されているので、その場には上位騎士達が集まる。
 そうすると、上位騎士の抜けた下位騎士達の居る場所が手薄になってしまう。
 そこを上級魔族に狙われると、流石に一溜まりもない。
 だからそのフォローも、大事な役目だ。

 第2級警戒体制が発動され、シフトして休息に入っていた交代陣営も再導入となった。 
魔性の森は、騎士達の怒号と魔族の叫びで、殺伐とした戦場と化す。

「こっちに援護を頼む!!」

「追撃が来たぞ!回避!!」

 最上級魔族が出現した現場は、騒然としていた。

 ヴァンパイアロードはその名の通りの凶悪さで、騎士達を翻弄する。
 
 第3小隊のリーダーのアダムスは、神の祝福を受けた闇を祓う聖剣『ホーリーゲート』で、ヴァンパイアロードの攻撃を辛うじて凌いでいる状態だった。

 同じ小隊のメンバーも、次々と襲い掛かる上級魔族との戦いに忙殺され、アダムスの助けに入る事が叶わない。

 アダムスは上位騎士で現在7位だったが、最上級魔族と交戦したのは初めての体験だった。
 それ故に、どうしても押され気味であった。

「上級魔族とはとは聞いていたが!!」

 ヴァンパイアロードは、致命傷を与えなければ直ぐに再生してしまう。
 聖剣で手傷を負わせても、致命傷には足りず相手の闇を祓いきれない。
 お陰で、こちらの体力を削らされるばかりで、思わず舌打ちをする。
 救援要請は出したので、直ぐに援護が来るだろう、それまでの辛抱だと自身を奮い立たせる。

 しかし無情な事に、ヴァンパイアロードの激しい追撃にあい、踏ん張り切れずにバランスが崩れる。
 致命的なミスに、アダムスは思わず死を覚悟した。

ザシュッ!

 鮮血が飛び散り、アダムスの栗毛が、一房落ちる。
 アダムスの顔面を狙った攻撃は、横から割り込んだ剣により逸れた。
 頬の傷から血が零れる落ちるのも厭わず、アダムスのベージュの瞳が大きく見開かれる。

「待たせたな。」

 静かでいながら、頼もしい声が響く。

「団長!!」

 力強いその不動の勇姿に、現場の士気が一気に上がる。

「団長が居れば無敵だ!!一気に畳み掛けろ!!」

 勢い付いた騎士達は、恐れを捨て勇敢にヴァンパイアロードに挑んで行く。
 多勢に無勢で瞬く間に、ヴァンパイアロードが劣勢に追い込まれる。

「隙を見せると命取りだぞ。」

 クラウスは力強く、聖剣をヴァンパイアロードに叩き込む。
 それだけでヴァンパイアロードの片腕が消し飛ぶ。
 クラウスの攻撃は通常攻撃ですら、ヴァンパイアロードの再生力を上回る。

「この様な人族が居ようとは・・・。しかし、私も魔界の上位を統べる者!先陣を担う私が、ここで後れを取るわけには行かぬ!」

「後続が居るなら尚更!思い通りにはさせん!!」

 その力の真価を出そうとするヴァンパイアロードを、クラウスは聖剣『断罪の光刃』で両断する。

「ぐああぁぁ!!」

 断末魔と共にヴァンパイアロードが塵に帰る。

「やったー!!」

「油断するな!殲滅するぞ!!」

 歓声が上がり、ヴァンパイアロードの最後に合わせて、総崩れになった上級魔族に追撃を掛けていく。
 これで安心だと、クラウスを除く騎士達は安堵した。
 
 しかし、その場に無慈悲な知らせが届けられる。

「最上級魔族の死霊王とゾンビジェネラルとラストウィッチが現れた。第3級警戒体制の発動と最上級魔族に対して2小隊以上の人員で当たる様に通達!」

 騒然とする現場に、クラウスの重い怒号が響いた。
 
 夜明け迄はまだ時間が有る為に、闇属性の魔族達の力は衰えない。


 上空に更なる魔法の信号弾が上がる。

「この短時間に、第3級警戒体制に移行だと言うのですか!?」

 他の小隊と合流して、 サポートに廻っていたグリードは驚愕の声を上げた。
 最上級魔族が複数出現する事は、グリードが第2騎士団に所属して初の緊急事態だった。

 レオンが最上級魔族と交戦したと聞いた段階で、この可能性も予測出来なかった訳では無いにせよ、当然ながら楽観視出来る事態では最早無い。

 伝令が次々と届き、グリードの表情も流石に優れない。

「最上級魔族の死霊王にゾンビジェネラルにラストウィッチ・・・。淫魔妃にヴァンパイアロードと合わせて5人・・・。最上級魔族が同時に6人揃えば、魔王クラスを出現させるゲートを開く事が出来てしまいす。それが魔族達の今回の目的なのですか!?」

 最上級魔族の複数出現でも危機的状況であるのに、魔王クラスを迎え撃てるだけの余裕が有るとは考えられなかった。

 そうグリードが危惧するのも、仕方無い事だった。

 10年前の魔王クラスが出現した際の最大の被害は、魔性の森に一番近い都が一晩で壊滅した事であった。
 死者は三千人規模に及び、多くの騎士達が尽力し命を散らした。

「こんな時にレオンが戦えないのは、致命的な戦力ダウンです。」

 少し傾いた月を、恨みがましく仰ぎ見る。

「夜明け迄は持ちこたえないと、レオンに会わす顔がないよ。」

 ルイが光魔法を攻撃に乗せながら、他の小隊のメンバーのサポートに廻る。

「レオン様の為にも、雑魚は叩きのめすのみ!」

 アルベルトは豪腕で蹴散らし、第2部隊の為の活路を作り続ける。
 
  ゲートはまだ閉じておらず、魔族の数も衰えない。
  魔性の森は、激戦の様相を呈する事となった。
 
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