ふざけるな!

うさみん

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漸く、一心地着けてレオンは身仕舞いを正す。

 天誅を受けた5人も程無く復帰して、意味深に視線を向けたが、『何も言うな』と語るレオンの悪魔の如く怒気を孕む眼光に、誰も声を出せなかった。
 それは、何時もなら茶々を入れるカイルすらも黙らせる程だったので、余程腹に据えかねたのだろう。

「作戦中に皆に、。最上級魔族の淫魔姫と交戦して、殲滅する事はできたが、相手の最後の悪足掻きで呪いを掛けられてしまった。油断していた訳ではないが、完全に私の落ち度だ。」

 謝罪しながらも、そのままていにレオンが無理矢理持って行き、第1部隊の6人で膝を向き合わせて緊急の打ち合わせが行われる事になった。

「性別変化で身体能力が低下する部分の呪いは、パーフェクトピュリフィケイション(完全浄化)で解除する事が出来ている。だが、完全解除出来た訳では無いから、月光を浴びると魔法が使えなくなってしまう。そういう理由で、月が出ている間の時間は残念ながら私は戦力外になる。ここでは完全解除に必要な法具が揃えられ無いから、一時的に私の戦線離脱も検討してみたけれど、魔族が悪魔系主体なのを考えると、戦線を離れる事は得策では無いと総合的に判断した。殲滅戦が終わる迄は、日中の殲滅は第1陣で一手に引き受ける。すまないが、第2陣は夜間殲滅を担当してくれ。」

 レオンは動揺する様子も見せず、淡々と経緯の説明と変更を告げる。 

 本来の核心には決して触れず、有耶無耶にしようとしているのは明白であったが、薮蛇を恐れて誰も口に出来なかった。 

 第2陣のグリードとアルベルトとルイは、レオンに追い立てられる様に森に向かうため天幕を後にする。

 そして第2陣の3人は、モヤモヤとする内心のフラストレーションを、全て魔族殲滅にぶつけることになるのだった。


「ライナス、本部へ私の代わりに団長に変更の報告と、最上級魔族が出現による第2級警戒体制への進言を頼む。団長から要請があれば、各部隊への伝令も必要になるかもしれないから、その場合も任せる。」 

 天幕に残った第1陣のメンバーの役割分担を、レオンは淡々と行う。

「カイルは、割り当て分の食材を受け取りに行ってくれ。戻り次第、調理を頼む。私は、グリード達の持って帰った備品の片付けと追加補充分の確認を行う。2人とも頼んだぞ!」

 割り振りを終えて、レオンは2人に視線を向ける。

「了解、レオン。本部に行って来るね!カイル、美味しい食事を期待してるよ!」

 好青年らしい爽やかな態度で、ライナスが天幕を後にする。
 カイルの作る料理は万人受けする味で、美味しくハズレが無いので、調理担当になった時に皆の期待値が高い。
 それもあってレオンは調理をカイルに任せたのである。

 そして、天幕の中はレオンとカイルの2人になる。

「カイル?何で行かないんだ?」

 動こうとしないカイルにレオンが声を掛ける。

「レオンに話したい事が有るのさ。大事な話が・・・。」

 カイルはニヤリと、胡散臭い笑みをレオンに見せる。

「話したい事?」

 カイルがこういった言い方をする時は、ろくな事が無いのでレオンは内心で警戒の色を強める。

「その呪いは、普通の『淫魔の呪い』で無く『月の呪い』だろ?聖職者に向けて掛けられる筈の呪いが、どうしてお前に掛けられたのかは謎だが・・・。」

 カイルの言葉に、レオンは思わず眉間にシワを寄せる。

「何故、『?」

 カイルは鼻で笑うと、一歩レオンに歩み寄った。

「簡単な事だろ?満月の瞬間は確かに月齢15だったが、お前が呪いを受けた時は、時間が経っていて月齢14に変わっていた。男に戻る為に14回も男の精が必要だなんて、月齢に変動がある『月の呪い』しか有り得ない。」

 カイルからの意外な発言に、レオンは目を見張る。

「見掛けによらず、意外に博識だな・・・。まさか回数まで数えていたとは思わなかった・・・。色々な意味で驚いたよ。」

 レオンは固い声で言葉を絞り出す。

「偶々、古い知り合いに、詳しい奴が居たからな。一時凌ぎで性別変動は浄化が効いた様だが、淫魔化は残ってるだろ?其処でだ、提案があるんだがどうだ?」

 意味深に回りくどいカイルの言葉に、レオンは苛つきながらもその真意を問う。

「提案・・・?どういうつもりだ?」

 「『善意の人助け』の提案さ!俺が『淫魔化を鎮める手助けをする』だけの提案かな・・・。勿論、他意は無いぜ?」

 真面目な顔でありながら、カイルのその瞳に悦の光を垣間見て、レオンは強く拒絶した。

「断る。」

 カイルは断られるのが分かっていたのか、その余裕を崩さなかった。
 
「良いのか?淫魔の本質を甘く見ると、後悔する事に成ると思うけどな。淫魔化すれば理性は効かなくなっていく。不特定多数と性交する事に、お前は堪えられるのか?俺なら1人との性交で鎮める事が可能だぞ?」
 
「・・・・・・・。」

 レオンの性格を踏まえた上でのカイルの言い分に、レオンは思わず無言になる。
 
「保険だと考えればいい・・・。悪い提案じゃないだろ?」

 確かにカイルの提案は、今現状の選択肢としては最善では有ったが、レオンにとっては安易に受け入れられない悪魔の囁きだ。

「確かに、だろうが、月光を浴びなければ済む話だ。断然断るに決まってる。」

 キッパリと言い切るレオンに、カイルは苦笑する。

「気が変わったら何時でも声を掛けろよ。お前の目論見通りに事が運べば良いがな?」

 理想と現実は違うので、弱味を見せたくないレオンの強がりだと解っているからカイルはこれ以上言うのは止めた。
 レオンはカイルの不遜な言い方に、苛つきが治まらない。

「気が変わる事なんて、絶対無い!有って堪るものか!」

 レオンの叫びを聞きながら、カイルは天幕を出ていった。
 レオンは唇を噛みながら、天幕の隙間から覗く月光の下の景色をしばらく見つめていた。
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