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龍の姫巫女と星座の占術 〜春雷演舞〜
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遙か昔、東の国に龍の末裔が住んでいた。
彼らは宇宙と深く関わりを持ち、夜空に煌めく星座の位置や距離から占星術を行い、禍福を見極めていたと言い伝えられている。
また龍の姿になる事ができ、龍神が隠した財宝を守っていると噂されていた。
豪族達はこぞって彼らに取り入ろうとするが、決して口を開かない。
そこである一人の男を遣いとして、彼らの元へ向かわせた。
♢♢♢
「まさかこんな森が残っているとは……」
男は巨木や苔むした岩肌を見て、ここが人ならざる者の住まう神聖な場所だと確信する。
「お前は誰?」
木陰から一人の可憐な少女が姿を現した。
仄暗い森の中で少女は淡い光を放ち、鮮やかな朱色の衣装を纏っている。
「其方が龍の姫巫女か?」
「ええ、わたしは麗春。占星術が得意よ」
優美に微笑む彼女はこちらの思惑などお見通しだとばかりに、くるりと踵を返す。
「悪い事は言わないから早く都に帰りなさい。ここはお前のような人間が訪れていい所じゃないの」
「私の名は雲雷。龍の末裔である其方に会いに来た」
麗春は艶やかな黒髪を風に靡かせる。
ふわり、と花の良い香りが漂ってきた。
「会ってどうするつもり? まさか財宝の在処を教えるとでも?」
「いや、私は其方を妃として迎えたいのだ」
雲雷の真剣な面持ちに麗春は一瞬だけ目を丸くするが、ゆったりとした袖で口元を隠しながら笑う。
「わたしはこう見えてお前よりもずっと歳上。人間など瞬きをする間に土へ還ってしまうわ」
「だが其方は美しい」
生来、好奇心旺盛な麗春は気まぐれで雲雷の戯言に付き合うことにした。
「いいわ、お前には特別に見せてあげる」
花吹雪が舞うと、麗春は白龍へと変身した。
あまりの神々しさに雲雷は言葉を失う。
「ほら、早く背中に乗って」
龍の姿の麗春が促す。
雲雷は恐る恐る背中に跨った。
「しっかり角に掴まっているのよ」
麗春は勢いよく空へと飛翔する。
目を開くと山々が連なり、青い海原がどこまでも広がっていた。
「わたしとお前は決して結ばれない運命なの。いくら愛し合っていても」
「それでも私は――」
次の瞬間、雲雷は森の中に佇んでいた。
「遊びはお終い。楽しかったわ、さよなら」
「麗春、また会いに来よう」
雲雷は懐から香嚢を取り出し、麗春に渡した。
受け取ると悪戯っぽく笑う。
「今度会った時はお前を食べてしまうかも」
「ああ、構わない」
麗春は立ち去る雲雷の背中を一瞥すると、昏い森へと姿を消した。
♢♢♢
その夜、麗春は占星術を行った。
「――ふふ」
雲雷とは長い付き合いになりそうだと分かり、麗春はひとり微笑む。
END
彼らは宇宙と深く関わりを持ち、夜空に煌めく星座の位置や距離から占星術を行い、禍福を見極めていたと言い伝えられている。
また龍の姿になる事ができ、龍神が隠した財宝を守っていると噂されていた。
豪族達はこぞって彼らに取り入ろうとするが、決して口を開かない。
そこである一人の男を遣いとして、彼らの元へ向かわせた。
♢♢♢
「まさかこんな森が残っているとは……」
男は巨木や苔むした岩肌を見て、ここが人ならざる者の住まう神聖な場所だと確信する。
「お前は誰?」
木陰から一人の可憐な少女が姿を現した。
仄暗い森の中で少女は淡い光を放ち、鮮やかな朱色の衣装を纏っている。
「其方が龍の姫巫女か?」
「ええ、わたしは麗春。占星術が得意よ」
優美に微笑む彼女はこちらの思惑などお見通しだとばかりに、くるりと踵を返す。
「悪い事は言わないから早く都に帰りなさい。ここはお前のような人間が訪れていい所じゃないの」
「私の名は雲雷。龍の末裔である其方に会いに来た」
麗春は艶やかな黒髪を風に靡かせる。
ふわり、と花の良い香りが漂ってきた。
「会ってどうするつもり? まさか財宝の在処を教えるとでも?」
「いや、私は其方を妃として迎えたいのだ」
雲雷の真剣な面持ちに麗春は一瞬だけ目を丸くするが、ゆったりとした袖で口元を隠しながら笑う。
「わたしはこう見えてお前よりもずっと歳上。人間など瞬きをする間に土へ還ってしまうわ」
「だが其方は美しい」
生来、好奇心旺盛な麗春は気まぐれで雲雷の戯言に付き合うことにした。
「いいわ、お前には特別に見せてあげる」
花吹雪が舞うと、麗春は白龍へと変身した。
あまりの神々しさに雲雷は言葉を失う。
「ほら、早く背中に乗って」
龍の姿の麗春が促す。
雲雷は恐る恐る背中に跨った。
「しっかり角に掴まっているのよ」
麗春は勢いよく空へと飛翔する。
目を開くと山々が連なり、青い海原がどこまでも広がっていた。
「わたしとお前は決して結ばれない運命なの。いくら愛し合っていても」
「それでも私は――」
次の瞬間、雲雷は森の中に佇んでいた。
「遊びはお終い。楽しかったわ、さよなら」
「麗春、また会いに来よう」
雲雷は懐から香嚢を取り出し、麗春に渡した。
受け取ると悪戯っぽく笑う。
「今度会った時はお前を食べてしまうかも」
「ああ、構わない」
麗春は立ち去る雲雷の背中を一瞥すると、昏い森へと姿を消した。
♢♢♢
その夜、麗春は占星術を行った。
「――ふふ」
雲雷とは長い付き合いになりそうだと分かり、麗春はひとり微笑む。
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