29 / 32
第二章
029:海外の反応(1)
しおりを挟む【Side:とある外国人女性A】
「ニッキー、そろそろ起きなさ~い! 朝食が出来ているわよ~」
「…………………」
もう、あの娘ったら、いつまで寝ているのかしら。
既に朝の8時半よ。そろそろ起きて、9時には家を出ないと小学校の授業に間に合わないわよ。
飛び級で高学年になっても、娘はやっぱり未だ未だ子どもね。
レディーなら、朝くらいは自分の力で起きれる様にならないと。
「ニッキー、まだ寝ているの~? いい加減に早く起きなさ~い」
「…………………」
返事がないわね。まだ熟睡でもしているのかしら。
いつもなら、リビングから叫べば直ぐに起きてくる筈なんだけど、……おかしいわね。
もしかして体調でも悪いのかしら?
「ニッキー、起きてる? 体調でも悪いの? 大丈夫?」
「…………………」
部屋の扉の前まで移動し、我が娘に呼び掛けてみたけど、相変わらず返事がない。
仕方ないわね。中に入ってみましょう。
「……何よ、あなた。普通に起きているんじゃない。返事くらいしなさいよ」
部屋の中に入れば、我が娘はうつ伏せになってスマホを弄っていた。
背後から見る感じだと、体調が悪いということは無さそうね。
今も両足をブラブラとさせて随分と楽しそうな雰囲気だもの。間違いなく健康よね。
「ちょっとニッキー、お母さんの声が聞こえてないのかしら?」
「…………………」
流石に何度も無視されて、お母さんは悲しいです。
私に返事するより、スマホを弄る方が優先って事よね。
もしかして、これが所謂『反抗期』。
「ニッキー、お母さんを完全に無視をするつもりなの?」
「…………………」
こうして娘は、ドンドン不良の道へと歩みを進めて行くのね………。
きっと我が娘の今の態度は、その始まりに過ぎないんだわ!
この後には段々と喧嘩っ早くなり、家の物を壊すようになって、沢山の悪いお友達を作るようになるのよね。
お母さんは、暴力は反対よ! 家の物を意図的に壊さないで欲しいわ。
いつか家の前には何十台ものバイクが集まったりするのかしら? 流石にそれは近所迷惑よ!
それと、お母さんは改造されたブンブンと五月蠅いマフラーの音が嫌いなの。悪いお友達は、絶対に家へと連れて来てはダメよ!
私はそんな事を思い両手を握り祈っていると、ある事に気が付いた。
「ニッキー、………そろそろ返事してくれないと、お母さん怒っちゃうわよ~」
「…………………」
思わず、ニヤリと口角が上がった。これまで娘を心配していた気持ちが、怒りへと変わった瞬間だった。
これはお仕置きが必要ね~。
どうやら私は勘違いしていたらしい。
我が娘は不良の道に行ったわけではなかったみたい。
今も呑気にイヤホンを耳に挿し、スマホで何かを見ているようなのだ。
「残念だわ、ニッキー」
返事をしてくれたら、私もこんな悪戯をすることはなかったのにね………(笑)。
私はポケットから自分のスマホを取り出して、娘を撮影した。
そして、NINJAの如く完璧な忍び足で我が娘へと近付いていく。
背後からイキナリ声を掛けられたら、娘はどんな反応をするのかしらね。
空いている片手で口を抑え、必死に笑い声を我慢するけど、口角が上がり過ぎて表情筋が引き攣りそう。
さぁ~て、ニッキー、ドッキリの時間ですよ~。
これから大きな声で肩を掴みましょうかねッ!
「ワ゛ッ!」
「ノノオォォオオオオオオオくぁwせdrftgyふじこlp゛ーーー!」
「ブフッ(笑)」
我が娘よ、あなたは最高だわ。コメディアン顔負けの素晴らしいリアクションをしてくれた。
叫びながら手足をバタつかせて、必死に私の手を払いのけようと踠く姿―――面白すぎて、思わず噴き出してしまったわ。
大人ぶった普段の理知的な姿も良いけど、こういう子どもっぽい姿を見れて、お母さんのストレスは解消されたわよ。ありがとう。
今後はちゃんと朝早くに起きて、今回みたいにお母さんを無視したりしないよう気を付けるのよ!
それにしても今回は良い動画が撮影できたわ~。
これは大切に保存して、孫ができたら見せてあげましょう♪
お母さんの子どもの頃の思い出よ、ってね(笑)。
「お母さん、驚かさないでよッ!」
「え~、だってニッキーが全然起きて来ないんだもん」
「だもんって、そんな可愛く言ったって駄目よ! 危うく口から心臓でも飛び出すかと思ったわ!」
「フフフ、そんなにカリカリと怒らなくても良いじゃない。元を正せば、ニッキーが自分で起きて来ないからでしょう? 今何時だと思っているのよ。朝食を食べて、さっさと小学校に行かないと。今日は送ってあげるから、ほら起きて起きて」
「嘘、もうそんな時間なの!? ん゛~、どうしよう。………悪いけど今日は学校を休むわ」
「あらあら、それはどんな理由でかしら?」
「ちょっと、したいことが出来たのよ」
「まさかスマホで遊ぶこと?」
「どちらかと言えば音楽鑑賞! 今日の早朝の話なんだけどさ、Toutubeに凄い曲がアップされていたのよ。今日はゼ~ッタイに音楽鑑賞したいの。ということで今日は休む!」
ちょっと頭が痛くなったわ。
娘が言う音楽鑑賞とやらは、果たして学校を休む理由に値するものなのかしら。
これがToutuberとして活動する為とかだったら、まだ理解できるんだけどねぇ。
でもまぁ、本人が休みたいと言っているし、今日くらいなら大目に見てみも良いかな。
「分かったわ、それじゃあ学校に連絡するわね」
その場でスマホを操作し、学校へと連絡する。
ただ、いつもだったら直ぐに繋がる筈の電話が、今回に限っては中々繋がらない。
「はぁ、………遅い。遅過ぎるわ。一体、どれだけ待たせるつもりかしら」
娘に視線を向ければ何がそんなに楽しいのか、再びイヤホンを耳に挿して音楽鑑賞を再開していた。
流石に娘も2度目のドッキリを警戒してか、チラチラと私を見つつ此方を正面にしてベッドに座っている。
コール音が続き、待たされること5分以上、漸く電話が繋がった。
「私の名前は……………」
電話の音声ガイダンスに従って、本日の欠席登録をしていく。
このメッセージ録音って楽だけど、ちょっと面倒くさいのよね。
それにしても、なんで今回に限ってはこんなにも待たされたのかしら。
システム上のトラブル? それとも電話回線が混み合っていたとか?
「娘のID番号は*********。欠席する理由はToutubeでの音楽鑑賞です」
まぁ、流石に後者の方はあり得ないか。
学校の電話回線が混み合うなんて、それは一体どんな状況かしら。ある意味、面白いジョークだわ。
正解は前者の方よね。メンテナンスくらい前日までにちゃんとしておいて欲しいわ。
「ニッキー、学校に連絡しといたよ」
「え? うん、ありがと~」
はぁ~、この娘ったら。勉強が出来るのは知っているけど、家での日常生活には難有りね。
せめてイヤホン外してから返事をしなさい。
レディーとしてその振る舞いはどうかとお母さんは思うわ。
「ねぇ、そんなに熱中して誰の曲を聞いているの?」
「ん?」
お母さん、また怒るよ?
次はもっと凄いドッキリ噛ましちゃうわ。
大人の財力を注げば、やれることなんて色々あるんだから。
「………だから、今誰の曲を聞いているのかって聞いたの」
「あー、うんうん、そういうことね。ちょっと正確な読み方が分からないんだけど、“TоE”って人のだよ」
トゥーイ? 知らないアーティストだわ。
どこの国の人かしら。
「お母さんも聞いてみなよ、文句の付けようがないくらいに素晴らしい曲よ」
そう言って娘は右耳のイヤホンを外し、私に差し出してきた。
私は娘の横へと座る。
「お母さん、これでも学生時代にはバンドを組んでいたから、楽曲への評価は厳しいわよ」
自分の娘がどんな曲を気に入ったのかワクワクしつつ、そう宣ってみた。
さてさて、どんな曲なのかしらね。
やっぱり子どもが好きになるものといえば、ユニークなものとか、リズムが良いものかしら?
個人的にリズムが良いだけの、くだらない歌詞の曲ってあまり好きじゃないんだけど。
そして、イヤホンを娘から受け取り自分の右耳に取り付けてみれば…………ッ!?
「嘘、………男性の、声?」
声真似なんかではない気がする。正真正銘、男性の歌声の筈よ。
しかも、曲を構成する全要素の調和が神懸かっている。間違いなく最高の曲だわ!!
絶対にこの曲は流行る。私は業界関係者ではないけど、そう断言できるわ。正に旬って感じがするのよ。
「とっても、……良いわね」
ヤバイヤバイ、頭が混乱して来た。
何これ……。何でこれ程のものがToutubeに投稿されているのよ!?
この歌声からして、トゥーイは恐らく『野良』のアーティストよね。
今まで数少ない男性曲を聞いた事があるけど、こんなにも素敵な歌声は聞いたことがない。
しっかりと歌唱技術を磨いてきたのが手に取る様に分かる。
待て待て、落ち着け私。そう簡単に騙されてはいけないわ。絶対に編集されたものよ!!
「ね、私の言う通り、凄く良い曲でしょう? しかもトゥーイの歌声は、殆ど編集せずに “そのまま” を大切にして投稿しているんだって。チャンネル紹介文にそう書いてあったわ。何だかライブみたいで凄い迫力よね。私、鳥肌が立つレベルで感動したわ」
嘘、嘘、ウソーーーーーッ!?
私の予想は早々にクラッシュした。
編集が殆ど入っていない、だと………。
トゥーイは芸能事務所でも入って、正式にデビューしなさいよ!!
お願いだから私の目の前に出てきてほしい。そして、歌って欲しいわ。
ライブをやるなら、絶対に見に行くしかないじゃない!!
そんな事を考えていると、隣にいた娘が私に変な事を言って来た。
「お母さん、泣いてるの?」
「え…………?」
まさかという思いで顔に手をやると、娘が言う通り私の目からは『涙』が零れていた。
この曲に感動したのは事実だけど、全然気付かなかったわ…………。
でもまぁ、これは仕方ない事よね。
トゥーイの曲は、こんなにも私の心の奥深くまで染み込んでくるんだから。
「ニッキーが今よりも大人になったら、この曲の真価が分かるわよ」
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
男女比:1:450のおかしな世界で陽キャになることを夢見る
卯ノ花
恋愛
妙なことから男女比がおかしな世界に転生した主人公が、元いた世界でやりたかったことをやるお話。
〔お知らせ〕
※この作品は、毎日更新です。
※1 〜 3話まで初回投稿。次回から7時10分から更新
※お気に入り登録してくれたら励みになりますのでよろしくお願いします。
ただいま作成中
シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜
ミコガミヒデカズ
ファンタジー
気軽に読めるあべこべ、男女比モノです。
以前、私がカクヨム様で書いていた小説をリメイクしたものです。
とあるきっかけで異世界エニックスウェアに転移した主人公、佐久間修。彼はもう一人の転移者と共に魔王との決戦に挑むが、
「儂の味方になれば世界の半分をやろう」
そんな魔王の提案に共に転移したもう一人の勇者が応じてしまう。そんな事はさせないと修は魔王を倒そうとするが、事もあろうに味方だったもう一人の勇者が魔王と手を組み攻撃してきた。
瞬間移動の術でなんとか難を逃れた修だったが、たどり着いたのは男のほとんどが姿を消した異世界転移15年後の地球だった…。
Re.パラレルワールドの反逆者〜デブでイジメられていた俺が痩せて帰ってきたら、何故か貞操観念が逆転していた件
悠
ファンタジー
主人公、八神碧月(やがみあつき)は子供の頃、太っていたことが原因でイジメられていた。
そんないじめっ子たちを見返すべく、叔父の元で5年間修行をした結果、細マッチョイケメン(本人無自覚)に変身した。
「よしっ!これでイジメられないぞ!見返してやるっ!」
そう意気込む碧月だったが、山を降りるとなんと、日本は男女比1万人対6000万人になっていた。
何故、こうなったのかも不明
何故、男が居なくなったのも不明
何もかも不明なこの世界を人々は《パラレルワールド》と呼んでいた。
そして……
「へっ?痩せなくても、男はイジメられないどころか、逆にモテモテ?」
なんと、碧月が5年間やっていた修行は全くの無駄だったことが発覚。
「俺の修行はなんだったんだよぉぉ!!もういい。じゃあこの世界をとことん楽しんでやるよぉ!!」
ようやく平穏な日常が送れる———と思ったら大間違いっ!!
突如、現れた細マッチョイケメンで性格も良しなハイスペック男子に世の女性たちは黙っていなかった。
さらに、碧月が通うことになる学園には何やら特殊なルールがあるらしいが……?
無自覚イケメンはパラレルワールドで無事、生き延びることが出来るのか?
週1ペースでお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる