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第二章

029:海外の反応(1)

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【Side:とある外国人女性A】


「ニッキー、そろそろ起きなさ~い! 朝食が出来ているわよ~」

「…………………」


もう、あのったら、いつまで寝ているのかしら。

既に朝の8時半よ。そろそろ起きて、9時には家を出ないと小学校の授業に間に合わないわよ。

飛び級で高学年になっても、娘はやっぱり未だ未だ子どもね。

レディーなら、朝くらいは自分の力で起きれる様にならないと。



「ニッキー、まだ寝ているの~? いい加減に早く起きなさ~い」

「…………………」


返事がないわね。まだ熟睡でもしているのかしら。

いつもなら、リビングから叫べば直ぐに起きてくる筈なんだけど、……おかしいわね。

もしかして体調でも悪いのかしら?


「ニッキー、起きてる? 体調でも悪いの? 大丈夫?」

「…………………」


部屋の扉の前まで移動し、我が娘に呼び掛けてみたけど、相変わらず返事がない。

仕方ないわね。中に入ってみましょう。



「……何よ、あなた。普通に起きているんじゃない。返事くらいしなさいよ」


部屋の中に入れば、我が娘はうつ伏せになってスマホを弄っていた。

背後から見る感じだと、体調が悪いということは無さそうね。

今も両足をブラブラとさせて随分と楽しそうな雰囲気だもの。間違いなく健康よね。



「ちょっとニッキー、お母さんの声が聞こえてないのかしら?」

「…………………」


流石に何度も無視されて、お母さんは悲しいです。

私に返事するより、スマホを弄る方が優先って事よね。

もしかして、これが所謂『反抗期』。



「ニッキー、お母さんを完全に無視をするつもりなの?」

「…………………」


こうして娘は、ドンドン不良の道へと歩みを進めて行くのね………。

きっと我が娘の今の態度は、その始まりに過ぎないんだわ!

この後には段々と喧嘩っ早くなり、家の物を壊すようになって、沢山の悪いお友達を作るようになるのよね。



お母さんは、暴力は反対よ! 家の物を意図的に壊さないで欲しいわ。

いつか家の前には何十台ものバイクが集まったりするのかしら? 流石にそれは近所迷惑よ!

それと、お母さんは改造されたブンブンと五月蠅いマフラーの音が嫌いなの。悪いお友達は、絶対に家へと連れて来てはダメよ!


私はそんな事を思い両手を握り祈っていると、ある事に気が付いた。



「ニッキー、………そろそろ返事してくれないと、お母さん怒っちゃうわよ~」

「…………………」


思わず、ニヤリと口角が上がった。これまで娘を心配していた気持ちが、怒りへと変わった瞬間だった。


これはお仕置きが必要ね~。

どうやら私は勘違いしていたらしい。

我が娘は不良の道に行ったわけではなかったみたい。

今も呑気にイヤホンを耳に挿し、スマホで何かを見ているようなのだ。



「残念だわ、ニッキー」


返事をしてくれたら、私もこんな悪戯いたずらをすることはなかったのにね………(笑)。

私はポケットから自分のスマホを取り出して、娘を撮影した。

そして、NINJAの如く完璧な忍び足で我が娘へと近付いていく。

背後からイキナリ声を掛けられたら、娘はどんな反応をするのかしらね。

空いている片手で口を抑え、必死に笑い声を我慢するけど、口角が上がり過ぎて表情筋が引き攣りそう。


さぁ~て、ニッキー、ドッキリの時間ですよ~。

これから大きな声で肩を掴みましょうかねッ!



「ワ゛ッ!」

「ノノオォォオオオオオオオくぁwせdrftgyふじこlp゛ーーー!」

「ブフッ(笑)」


我が娘よ、あなたは最高だわ。コメディアン顔負けの素晴らしいリアクションをしてくれた。

叫びながら手足をバタつかせて、必死に私の手を払いのけようともがく姿―――面白すぎて、思わず噴き出してしまったわ。

大人ぶった普段の理知的な姿も良いけど、こういう子どもっぽい姿を見れて、お母さんのストレスは解消されたわよ。ありがとう。

今後はちゃんと朝早くに起きて、今回みたいにお母さんを無視したりしないよう気を付けるのよ!

それにしても今回は良い動画が撮影できたわ~。

これは大切に保存して、孫ができたら見せてあげましょう♪

お母さんの子どもの頃の思い出よ、ってね(笑)。



「お母さん、驚かさないでよッ!」

「え~、だってニッキーが全然起きて来ないんだもん」

「だもんって、そんな可愛く言ったって駄目よ! 危うく口から心臓でも飛び出すかと思ったわ!」

「フフフ、そんなにカリカリと怒らなくても良いじゃない。元を正せば、ニッキーが自分で起きて来ないからでしょう? 今何時だと思っているのよ。朝食を食べて、さっさと小学校に行かないと。今日は送ってあげるから、ほら起きて起きて」

「嘘、もうそんな時間なの!? ん゛~、どうしよう。………悪いけど今日は学校を休むわ」

「あらあら、それはどんな理由でかしら?」

「ちょっと、したいことが出来たのよ」

「まさかスマホで遊ぶこと?」

「どちらかと言えば音楽鑑賞! 今日の早朝の話なんだけどさ、Toutubeに凄い曲がアップされていたのよ。今日はゼ~ッタイに音楽鑑賞したいの。ということで今日は休む!」


ちょっと頭が痛くなったわ。

娘が言う音楽鑑賞とやらは、果たして学校を休む理由に値するものなのかしら。

これがToutuberとして活動する為とかだったら、まだ理解できるんだけどねぇ。

でもまぁ、本人が休みたいと言っているし、今日くらいなら大目に見てみも良いかな。



「分かったわ、それじゃあ学校に連絡するわね」


その場でスマホを操作し、学校へと連絡する。

ただ、いつもだったら直ぐに繋がる筈の電話が、今回に限っては中々繋がらない。



「はぁ、………遅い。遅過ぎるわ。一体、どれだけ待たせるつもりかしら」


娘に視線を向ければ何がそんなに楽しいのか、再びイヤホンを耳に挿して音楽鑑賞を再開していた。

流石に娘も2度目のドッキリを警戒してか、チラチラと私を見つつ此方を正面にしてベッドに座っている。

コール音が続き、待たされること5分以上、漸く電話が繋がった。



「私の名前は……………」


電話の音声ガイダンスに従って、本日の欠席登録をしていく。

このメッセージ録音って楽だけど、ちょっと面倒くさいのよね。

それにしても、なんで今回に限ってはこんなにも待たされたのかしら。

システム上のトラブル? それとも電話回線が混み合っていたとか? 



「娘のID番号は*********。欠席する理由はToutubeでの音楽鑑賞です」


まぁ、流石に後者の方はあり得ないか。

学校の電話回線が混み合うなんて、それは一体どんな状況かしら。ある意味、面白いジョークだわ。

正解は前者の方よね。メンテナンスくらい前日までにちゃんとしておいて欲しいわ。



「ニッキー、学校に連絡しといたよ」

「え? うん、ありがと~」


はぁ~、この娘ったら。勉強が出来るのは知っているけど、家での日常生活には難有りね。

せめてイヤホン外してから返事をしなさい。

レディーとしてその振る舞いはどうかとお母さんは思うわ。



「ねぇ、そんなに熱中して誰の曲を聞いているの?」

「ん?」


お母さん、また怒るよ?

次はもっと凄いドッキリ噛ましちゃうわ。

大人の財力を注げば、やれることなんて色々あるんだから。



「………だから、今誰の曲を聞いているのかって聞いたの」

「あー、うんうん、そういうことね。ちょっと正確な読み方が分からないんだけど、“TоEトゥーイ”って人のだよ」


トゥーイ? 知らないアーティストだわ。

どこの国の人かしら。



「お母さんも聞いてみなよ、文句の付けようがないくらいに素晴らしい曲よ」


そう言って娘は右耳のイヤホンを外し、私に差し出してきた。

私は娘の横へと座る。



「お母さん、これでも学生時代にはバンドを組んでいたから、楽曲への評価は厳しいわよ」


自分の娘がどんな曲を気に入ったのかワクワクしつつ、そうのたまってみた。

さてさて、どんな曲なのかしらね。

やっぱり子どもが好きになるものといえば、ユニークなものとか、リズムが良いものかしら?

個人的にリズムが良いだけの、くだらない歌詞の曲ってあまり好きじゃないんだけど。


そして、イヤホンを娘から受け取り自分の右耳に取り付けてみれば…………ッ!?



「嘘、………男性の、声?」


声真似なんかではない気がする。正真正銘、男性の歌声の筈よ。

しかも、曲を構成する全要素の調和が神懸かっている。間違いなく最高の曲だわ!!

絶対にこの曲は流行る。私は業界関係者ではないけど、そう断言できるわ。正に旬って感じがするのよ。



「とっても、……良いわね」


ヤバイヤバイ、頭が混乱して来た。

何これ……。何でこれ程のものがToutubeに投稿されているのよ!?

この歌声からして、トゥーイは恐らく『野良』のアーティストよね。

今まで数少ない男性曲を聞いた事があるけど、こんなにも素敵な歌声は聞いたことがない。

しっかりと歌唱技術を磨いてきたのが手に取る様に分かる。

待て待て、落ち着け私。そう簡単に騙されてはいけないわ。絶対に編集されたものよ!!



「ね、私の言う通り、凄く良い曲でしょう? しかもトゥーイの歌声は、殆ど編集せずに “そのまま” を大切にして投稿しているんだって。チャンネル紹介文にそう書いてあったわ。何だかライブみたいで凄い迫力よね。私、鳥肌が立つレベルで感動したわ」


嘘、嘘、ウソーーーーーッ!?

私の予想は早々にクラッシュした。

編集が殆ど入っていない、だと………。


トゥーイは芸能事務所でも入って、正式にデビューしなさいよ!!

お願いだから私の目の前に出てきてほしい。そして、歌って欲しいわ。

ライブをやるなら、絶対に見に行くしかないじゃない!!


そんな事を考えていると、隣にいた娘が私に変な事を言って来た。



「お母さん、泣いてるの?」

「え…………?」


まさかという思いで顔に手をやると、娘が言う通り私の目からは『涙』が零れていた。

この曲に感動したのは事実だけど、全然気付かなかったわ…………。

でもまぁ、これは仕方ない事よね。

トゥーイの曲は、こんなにも私の心の奥深くまで染み込んでくるんだから。



「ニッキーが今よりも大人になったら、この曲の真価が分かるわよ」




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