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第一章
017:我が家へと帰ってきました
しおりを挟む【Side:主人公】
我が家があるタワマンの住民専用駐車場に到着して、ボクはリムジンの中で1人で待機する事となった。
男性護衛官の皆さんは警護で車外に出てしまったんだ。
一応、ドアを開ければ目と鼻の先にいるみたいだけど、お仕事の邪魔をするわけにはいかないよね。ボクは良い子にして車の中でコロコロして待つのです。
それにしても、先程までのリムジンパーリーは楽しかったな。
あんなにチヤホヤされたのは人生で初めてだった。
前世では少なくない人たちが夜の街へと出掛けたり、仕事の付き合いで接待を受けたりしていたけれど、それが恒常化する理由がなんとなく良く分かった。
ボクのお楽しみタイムは40分で終わってしまったけど、体感時間は15分くらいの気分だよ。もっとワイワイしたかったな。
楽しい時間とはどうしてこんなにも早く過ぎ去っていくのだろうね。
ボクの心の中では、早く帰って来れて嬉しいという思いと、残念という思いがスマッシュを繰り広げて大乱闘していた。卓球の話じゃないよ。
『コン・コン・コン』
リムジンの中で待っていると、窓が軽くノックがされた。
ドアが開かれた先には青山隊長がいた。
「三井君、こちらにお越し下さい。これより自宅へとご案内します」
「わかりました。今行きます!」
ボクは着崩れた服を直し、サンダルも履き直す。
そして、車外へと出てみれば、思わず感嘆の声を上げてしまう。
「ふぅおぉぉ~~~ッ!」
久しぶりに見上げたタワマンは非常にデカく感じた。
前世の家は築46年の小さな1DKマンションだったけど、到底比べ物にならない程にお洒落でメチャンコ大きい!
首が45度を超えて見上げる形になった。
そういえば、此処に引っ越してきて以来、ボクは一度も外に出た事がないんだよね。
自分の住んでいるタワマンを見たのは、1年弱で2回目か…………メチャンコ少ないなぁ。
なんか、初めて行った場所並みにフレッシュな思いでボクはタワマンを見ていた。
「三井君、早速向かいましょう」
「あ、はいッ!」
意識が明後日の方に向いていたボクは見上げるのを止め、正面を向いた。
青山隊長が指パッチンすると、リムジンの周りで警戒していた20人以上の護衛官たちが集まって来てボクと青山隊長を四方八方から隠すように陣形を組んだ。
「進め」
そう青山隊長が呟くと、全員が現行の陣形を崩さずに一斉に動き始めた。
ボクも彼女の言葉に反応して、自然と足が動いていた。
別に大きな声で言われたわけではないのに、彼女の声はとても耳に残った。
先程までのリムジンの中では彼女は朗らかな雰囲気だったけど、今はピリッとキリッと女帝の如く迫力感満載になっていた。完全に仕事モードに入っているのだろう。
ゲートまで残り10歩くらいまで近付き、さぁこれからタワマンの中に入ろうとした矢先、護衛官の1人が青山隊長の傍に寄って来て耳打ちした。
何やらヒソヒソと短いやり取りも行われていたが、ボクは隣にいるから話の内容は普通に丸聞こえだった。
「隊長、柴田さんから緊急連絡です」
「何があった?」
「この短時間で人の流れが変わったそうです。予定していたAルートでは現在一般人が多く、安全経路を確保できなくなったとの事です。Bルートも同じく。それ故、Cルートへの作戦変更を実行したとの事です」
「了解した」
大きな建造物で複数の入り口や経路があるのは想像できるけれど、これだけ多くの護衛官が付いていても色々なルートを事前に計画していたんだね。ボクは2人のヒソヒソ話に耳を立て、興味深く話を聞いていた。
てっきり国家権力振り翳して無敵状態で我が家まで最短経路で突破するのかと思っていたからさ。皆さん、結構慎重に事を運んでいるみたい。そこまでの警戒レベルが必要なのかは…………正直、未だに不明。
「皆、作戦変更だ。現段階よりCルートへと移行する」
「「「「「了解ッ!!」」」」」
Cルートとかいう作戦により、ゲートを越える途中だったボクたちは一旦外へと戻り、東の方へと迂回した。
そうして、別のゲートからタワマンへと進入し、漸く我が家直通のエレベーターが設置されていたエントランスに到着した。
此処に来るまで15分は歩いたよ。長かった。家に帰るだけでも一苦労だね。
そして、辿り着いたエントランスを前進している間、ボクは周囲の光景に圧倒されて少々委縮していた。
これって、所謂グランドエントランスというものだよね。天井がとても高い。
このタワマンでは3層吹抜けとなっており、とても気品がある開放的な空間が作られていた。
流石はタワマンというべきか、この建造物が特別なのか、エントランスには大金が注がれている事が伺えた。
あまりにも豪華過ぎて、ボクは腰が抜けそうになっていた。
「三井君、このままエレベーターに乗って頂きます」
「あ、……はい、分かりました」
横にいる青山隊長からそう声を掛けられ、ボクはハッとして彼女へと返答した。
エレベーターの方に視線をやると其処には柴田さんがいて、エレベーターのドアは開かれた状態で待ってくれていた。
「さ、乗ってください」
「失礼します………」
腕で恭しく『どうぞ』としてくる青山隊長に従い、ボクはエレベーターへと乗り込む。
操作盤の前にいる柴田さんと擦れ違った時、少々熱を発して湯気が出ているように見えた。
タワマン内はそれなりに涼やかな筈なんだけど、どうしてそんなにも汗を垂れ流しているのだろう。黒いスーツも相まって凄く暑そうに見えた。
「柴田さん、エレベーターを開けて待っていて下さり、ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。もう体調はよろしいですか」
「はい、大丈夫です。頗る健康ですよ!」
「以前は大変失礼致しました」
「そんな、気にしないで下さい。その件はもう終わった話です。本当に大丈夫ですから!」
柴田さんは申し訳なさそうな表情でそう言ってきたから、ボクは明るい表情と声音で軽く流した。
実際、本当に気にしてないんだよね。
ボクは前世の記憶が蘇ったこともあって健康面で少々心配もあったから、寧ろ良い切っ掛けになったぐらいの感覚なんだ。だから、本当にそんな申し訳なく思わなくても大丈夫!
ボクと柴田さんが短い会話をしていると、青山隊長を含めた男性護衛官10人が一緒にエレベータ―に乗って来た。
このエレベーターの箱は病院にあるようなベッドごと乗せられるタイプの大きなものなんだよね。
現在12人が乗った状態だけど、まだまだスペースに余裕がある。
「柴田、完了した。最上階へと頼む」
「了解です」
青山隊長の指示が出され、柴田さんは操作盤にあるボタンをポチポチと押した。
すると、エレベーターのドアは閉まり、我が家のある階層へと上昇を始めた。
その間、ボクは浮遊感を感じつつ階層を示す表示板を眺め、『1、2、3、4、5…………55』と心の中で階層を呟いていた。
最上階に到着すると皆で円滑に降りて行き、漸くボクは我が家の前へと到着した。
「三井君、此方の鍵を」
「はい、確かに」
事前に荷物を家の中まで届けて貰うにあたって男性護衛官に渡していたカードキーを返してもらった。
さて、家の中は元通りになっているかな。
修繕して貰ったとのことで、ボクは多少なりともワクワクしつつ玄関扉の開錠を行った。
そして、ボクがドアノブを掴み、扉を押してみれば……………
「ビフォーアフター?」
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